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064_ケイニー・カッテンガー・アスター

 


 将軍の家に連れていかれた。強引な将軍様だけど、根は悪い人ではないと思う。

 ウェーブがかかった真っ赤な髪の毛を背中の真ん中くらいまで伸ばしていて、リーシアと俺と同じくらいの背丈の将軍は20歳前後に見える。

 そんな若い女性が将軍という地位に就いているのは、公国の公皇に繋がる一族の当主だからだ。

 名前はケイニー・カッテンガー・アスター。公皇家の分家筋で公皇継承権もあるそうだ。

「当主と言っても半月ほど前に急遽家を継いだので、風格も何もないだろ?」

 はい、その通りです。とは言えないよな。

「そうだな」

 おい、リーシアちゃん、空気読もうよ!


 女将軍様が俺たちを屋敷に連れてきた理由は聞かなくても想像ができる。したくないけどね。

「リーシア殿、是非我らに力をお貸しくだされ。貴殿ならば、クラーケンも倒せよう!」

 ほらね、こういう展開になると思っていたよ。

「ダメだ」

 おお、脳筋リーシアが断ったよ。リーシアなら二つ返事でクラーケン討伐に加わると思ったのに。

「俺は主の命令以外は聞く気はない」

 しかも俺を立てたよ!

「クラーケンを討伐したいのであれば、主を誘えばいい」

「………」

 おい、それはいらん!


「ヘンドラーといったな。我に従え」

 リーシアとは態度が全然違うじゃないか! 俺を敬えとは言わないが、せめてリーシアと同等の扱いを要望するぞ!

「お断りします」

「貴様! 我の命に従えないのか!?」

 まったく、これだから貴族は始末に悪い。だから貴族なんかと関わり合いになりたくないのだ。


「あなたは私に何を報酬として与えることができますか? それを聞かずに何も判断できませんが?」

「ふん、金がほしいのか。だったら―――」

「金は腐るほど持っています」

「……ならば、爵位が―――」

「爵位になんの価値がありましょうか?」

「貴様、我ら貴族を馬鹿にするか?」

 バンと机を叩き、立ち上がった女将軍様はこめかみに青筋を立てて俺を睨んでいる。

「あいにくと、先祖が立てた功績に縋りついているような、血統でしか価値を見出せないような人種に、私はなんの価値も見いだせていません」

「貴様っ!?」

 女将軍が俺に飛びかかろうとしたが、リーシアに殴られて気を失い、そのままソファーに腰を下ろした感じで白目をむいている。女将軍のこの姿を見るに、無様だ。

 やっぱり貴族なんて碌なものではないな。


 しばらくして、女将軍が目を覚ました。彼女が目を覚ますのを待っていたわけではない。彼女の部下に取り囲まれていたのだ。

「貴様! よくも私を殴ったな!」

「いや、殴ったのはリーシアだぞ。俺は何もしていない」

「なっ!? くっ……」

 なんだよそれ? リーシアならよくて、俺なら悪いのかよ。


「貴様は何がほしいのだ!?」

 部下を下がらせた女将軍はブスッとして俺に聞いてきた。

「商人の私に見返りなく何かを請うのは間違っていると申し上げているだけです。それに人に何かを頼む態度というものを、常識のあるどなたかに教えていただいたらどうですか?」

「ちっ」

 舌打ちですか。良家の妻女、いや、当主が舌打ちなんかするものじゃないぞ。

「そろそろお暇をしますかね」

 俺たちはソファーを立って帰ろうとドアの方に歩き出した。

「待て! 待ってくれ! 頼む、この通りだ、我に力を貸してくれ!」

「主、そろそろいいのではないか? この娘もどっちが上なのか、分かったようだし」

 まったくリーシアは。そういうのは言わないものなのに。


「はぁ、善意で手伝う気はありませんよ」

「私にできることならなんでもしよう!」

 ほう、言ったな。その言葉がどれほど重い意味を持っているのか、分かっていないんだろうな。

「分かりました」

「では!」

「ただし、誰も私に命令はさせません。クラーケン討伐にあなたがついてきても、です」

「……分かった」

 契約成立だ。ならば、早速クラーケン討伐に出かけましょうかね!


「クラーケンの大きさは?」

「とても大きい」

「クラーケンの形は?」

「足がいっぱいだ」

 お前は子供か!? この将軍様は何も分かっていない。これでは今までに死んでいった部下たちは無駄死にだな、可哀想に。

 まぁいい、船でも見に行くか。


 彼女が所有している船は小型船ばかりだった。

「なんだこれ? こんなんでクラーケンとどうやって戦う気だったんだ?」

「くっ、大型船は全てあの化け物にやられたんだ!」

 はぁ、完全にお手上げ状態じゃねぇか! もうやだ、この頭がお花畑の将軍様。

「どうしますか、グローセさん」

「どうするって、小型船じゃな……」

 セーラも心配なんだろう。全長五メートルあるかってほどの小さな船だからな。あんなので海に出てクラーケンと戦うなんてあり得ない。

 リーシアとセーラが何かを期待するような目で俺を見てきた。サンルーヴの無邪気さが俺のオアシスだ。

「分かったよ、ちょっと待ってくれ」


『インス、船ってどんなのがあるんだ?』

 困った時のインス頼みだ。早くインスの顔が見たい。そのためにもあの国にはもっと混乱をしてもらわないとな。

『クラーケンとの戦闘に耐えられるような戦艦は現在の【通信販売】のランクでは購入できません。しかし、大型クルーザーでしたら購入は可能です』

『その大型クルーザーって、クラーケンの一撃に耐えられるの?』

『戦闘用ではありませんので、無理です』

『うーむ……なら、俺の狙撃をしても、セーラの魔法を撃っても問題なくて、クラーケンの泳ぐ速度より速い船はあるかな?』

『それでしたら、うってつけの船があります』

 俺の考えは簡単だ。クラーケンよりも足が速い船であれば距離を保って遠距離攻撃ができる。俺とセーラの攻撃でクラーケンを倒せば問題ない。

『それを購入して改造してくれ』

『分かりました。3時間ください』

『了解だ』


 そんなわけで、俺たちは翌日にクラーケン討伐に向かうことにした。なんだかぐだぐだで幸先が悪いので、しっかりと準備して仕切り直すことにしたのだ。

 そして、リーシアは将軍の部下と訓練をしている。やる気になっていたのにお預けをくらったのだから、将軍の部下は気の毒にな。

「ごしゅじんさま~、クッキーほしいワン」

「ご主人様、ルビーにもくださいっピー」

「はいはい。でも、もうすぐご飯だから少しだぞ」

「わかったワン」

「分かりましたっピー」

 サンルーヴとルビーがクッキーを美味しそうに食べている。こういった光景は俺の心のオアシスだ。


 翌日、朝一で港に向かい、そこでインスに改造してもらった船を出した。

「……グローセさん、これは船ですか?」

 船だけど、俺もこれが出てくるとは思ってもいなかった。

「ヘンドラー殿、これはなんだ!?」

「これは……ホバークラフトという船です」

 えーっと、【鑑定】によると……三●造船のMV-PP10というホバークラフトだそうだ。見た目は完全に民間船だ。武装はまったくない。

『改造に関しては速度と船体制御に集中させていますので、最高速度は時速250Kmをたたき出します』

 はやっ! 海上でそんなに速くて大丈夫か? 波にあおられて転覆するんじゃないだろうな? あ、それで船体制御の改造も行ったのか!


 エンジンをかけてみると、ものすごい轟音がして船体が少し高くなった。どうやら船体の下の部分に空気が送られたことで船体が浮いたようだ。

「なんですか、この音は!?」

 セーラが大声で問いかけてきた。

「これがこの舟の特徴なんだよ」

「主、これでクラーケンを狩れるのか?」

 リーシアの興味はクラーケン狩りのようだ。

「これは移動手段だけだ。狩るのはセーラの魔法と俺の狙撃だな」

「俺の出番はないのか!?」

「リーシアは近接戦闘だから、今回はこのホバークラフトの操縦で我慢してくれ」

「む、これの操縦だと……しかたがないな、主がそう言うなら操縦をしてやろうじゃないか」

 リーシアは乗り物の運転が好きだ。だから、ホバークラフトの操縦を任せると言えばこうなると思っていた。ヤンデレではないが、可愛いやつだ。


 

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