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063_将軍

 


 アスタリカ公国の東部にある海運商業都市に到着した。

 ヘリコプターなら一気に飛んでいけるけど、見られると騒ぎになりそうだったので、96式装輪装甲車(クーガー)で走り抜けた。まぁ、96式装輪装甲車(クーガー)でもかなり騒ぎになったけど。


 王家からの出頭命令? そんな物は見ていないのだから、知らないよ! 俺は自由だ!

 日本でのサラリーマン時代を思い出すから、誰かに命令されるのは好きじゃない。てか、せっかく異世界に来たんだから抑圧されずに生きたい。わがままなのは分かっているけど、いいじゃないか! 俺は俺のやりたいことをやって、やりたくないことはやらない、マイペースに生きるんだ! と言ってみたい。

 王侯貴族にはぎりぎりまで気をもんでもらって、俺に足かせをつけたことを後悔してもらおう。そして、どうせなら俺の働きに対する対価を引き上げてやろうじゃないか。


 それはそうと、港に到着したはいいけど、商店や倉庫ばかりで魚市場がない!? 海洋貿易が盛んな港町なのはわかるが、なんでだ?

「魚を売っている市場はないですか?」

 港で働く労働者に聞いてみた。

「はぁ? ここは商業の港町だぞ? 魚がほしけりゃ、周囲の小さな村にでも行くんだな!」

 けんもほろろである。くそ、港町なら魚を売っていると思ったのに、ムカつく!

 しかし、労働者の言葉も尤もだと思う。この港は商船ばかりが停泊していて、漁船はなさそうなのだ。港といっても漁船がいないのに魚を売る市場があるわけないよな。

 でも小売りの魚屋くらいはありそうだから、聞いてみた。

「ここらじゃ乾物以外は売ってねぇぞ。生魚がほしければ漁港があるところに行くんだな」

 乾物か。一応は見てみるか。


 乾物ばかりが売っているのは保存食だからだろう。海上でも陸上でもこの世界の旅は十数日から数カ月になることが普通にあるのだ。

「なるほど、魚を干した目刺しやアジの干物のような物ばかりだな」


 漁港のある港町に移動した。

「お、魚市場だ」

「なんだか人気(ひとけ)が少なくないか? 主」

 リーシアの言う通り、市場ならもっと人がいそうだけど、がらんとしていた。

「どうやらあまり魚はないようですね」

 セーラの言葉を受けてよく見てみると、たしかに魚があまりなかった。もっと早い時間にこなければいけないのだろうか?


「おじさん、魚はこれだけしかないの?」

 鉢巻をした漁師と言ってもおかしくない感じのおっさんに聞いてみた。

「ああ、最近は水揚げ量が減ってな……それもこれもあの化け物のせいだ」

「化け物?」

 化け物という言葉が気になったのでおっさんに聞いてみたら、なんと漁場にクラーケンが現れて漁ができないと言うのだ。


「せっかくここまで来たのに、魚が手に入らないのは非常に不満だ」

「ならば、俺たちでそのクラーケンとやらを倒せばいいのだ!」

「そうですね、無駄足というのも面白くありませんから、クラーケンを倒しましょうか、グローセさん」

「おいおい、クラーケンだぞ。倒すったって、高ランクの冒険者だって難しいぞ」

 冒険者も海の中では十分に実力を出せないから、クラーケンのような海生の魔物の討伐は軍艦を持っている国軍や領主軍が行うのが普通だとおっさんは言った。

 だけど、その軍ではクラーケンのような高ランクの魔物を倒せないというジレンマに陥っているのだ。


 魚屋のおっちゃんの話ではこの漁港から北に少しいくと軍港があるので、海軍が集結しているそうだ。

 しかも、これまでに三回のクラーケン討伐が行われているが、どれも海軍がぼろ負けしているらしい。だから海軍の士気は低くここ最近ではクラーケン討伐に出陣する気配もないと言うのだ。

「この国の海軍など無視すればいいのだ! たかがクラーケンに怖気づく弱兵など放っておけ、主!」

 リーシアは早くクラーケンと戦いたいようだが、クラーケンは海の中にいるのでリーシアの出番はないと思うぞ。

 もし、クラーケンと戦うのであれば、少なくても海面よりも上に体が出ていなければならない。そのうえでセーラの魔法か、俺の狙撃で一気に倒す必要があるだろう。


「聞き捨てならぬことを言うではないか!?」

 振り返ると衛兵っぽい女性が剣呑な雰囲気で俺たちを睨んでいた。多分、この国の兵士だからリーシアが無視とか弱兵と言ったのが耳に入ったのだろう。リーシアは空気が読めないからな……。

 済んだことをとやかく言っても仕方がないので、この女性兵士に穏便に帰ってもらうにはどうしたらいいだろうか? う~ん、ここは常識と包容力の人であるセーラ! 君に任せた!

 俺は視線でセーラに対処を頼んだ。丸投げともいう。

「リーシアさん―――」

「なんだ、お前は?」

 セーラが収めようとしたら、リーシアが女性兵士を煽るような口調で声を出した。リーシアちゃん! 貴方はお黙り! そんなリーシアに女性兵士は今にも剣を抜きそうな雰囲気だ。


「貴様たちに死んでいった我が同胞をとやかく言われる筋合いはない!」

 ごもっともではあるけど、三回も討伐に失敗していることで、俺たちが魚が仕入れられないという事実もある。

「死のうと生きようと、クラーケンを倒せなければなんの役にも立っていないということだ。そうだろ、主?」

 何でリーシアちゃんはそういうことを言うかな!? 火に油を注いでから俺に振るんじゃない!

「リーシア、この国にはこの国の都合があるのだ。次はクラーケンを倒してくれるはずだ」

「主がそう言うなら、そうなんだろう」


 リーシアは俺から視線を外すと女性兵士を見てにかっと笑って言った。

「次の討伐を楽しみにしているぞ、俺たちは高みの見物だ。早く倒してくれよ、騎士殿」

「貴様!?」

 女性兵士がリーシアに殴りかかった。剣を抜かなかったのは褒めてもいいけど、リーシアに殴りかかるのは褒められないな。

 女性兵士は見事にリーシアのクロスカウンターをもらって殴り飛ばされた。あの拳は世界を取れるぞ!


「やっちゃったよ……セーラ、頼むよ」

「はい」

 セーラが回復魔法を女性兵士にかけてくれた。

 しばらくすると女性兵士の気がついたので、俺たちは寝転がっている彼女を見下ろしていた。

「くっ、殺せ!」

 いや、ここでクッコロはないだろ。それにそんな真っ赤な顔をして、クッコロと言うのが恥ずかしいのなら言わなきゃいいのに。


「しょうぐーーーん。セリナンドーーー将ーーー軍」

 ……十数人の兵士がどかどかとやってきた。

「将軍! 勝手にどこかに行かないでくださいよ!」

 どうやら将軍というのはこの女性兵士()の女性らしい。なんで将軍とよばれている女性が一般兵士の格好をしているのだろうか?

 って、そんなことより、うちのリーシアちゃんが将軍をぶっ飛ばしているのですが? これ、ヤバい?


「カロン、外じゃ将軍って呼ぶなっていっているだろ!」

「すみません、将軍! いてっ!」

 将軍と言ったら、その将軍に殴られた兵士。なんだか安っぽいコントを見ているようだ。

 将軍はくるりと俺たちの方に向き直った。

「あんた強いね。気に入ったよ。私の部下にしてやるよ」

 なんだか面倒な将軍のようです。

「俺より強くなってから言え」

 リーシアちゃんはけんもほろろです!

「なぜだ!? 私の部下になって武功をあげれば将軍にだってなれるぞ!」

 熱いねぇ。でもうちのリーシアちゃんを勧誘しないでよ。

「おい、お前! 将軍が直々に勧誘しているのに、断るなんてどういうことだ!?」

 下っ端がいきがっています。

「いてっ!?」

「将軍って言うな! そう言っただろ!」

 はぁ、ため息が出る。


 将軍はリーシアを諦めきれずにしつこく勧誘してきたが、リーシアの回答は終始一貫していた。

 リーシアにとって、出世とかお金は魅力のある言葉ではない。もし俺が将軍の立場であれば、クラーケンと戦うから一緒に行こう! とか言ってリーシアの戦闘狂の脳筋頭をちょっと刺激してやるだろう。

 まぁ、今日会ったばかりの将軍にリーシアの習性(それ)が分かるとは思えないけど。


 

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を宜しくお願いします。

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