062_出頭命令書
蛇神の迷宮をクリアした俺たちは祝勝会を上げていた。
場所は蛇神の迷宮の入り口前だ。赤の塔の町の屋敷に帰って祝勝会を開いてもよかったが、俺たちがそこで祝勝会をしたことがバレると面倒なことになるので、ここでやっている。
「しかし、本当にクリアボーナスなんてあるんだね!」
ミホが嬉しそうに声をあげた。彼女のクリアボーナスはスキルの【絶対防御(E)】だ。30秒だけどんなダメージも無効化するというもので、ランクが上がれば効果時間も上がるスキルだ。
盾職のミホにはとても有用なスキルだろう。
「うんうん。クリアボーナス、おいしい!」
アサミは【絶対貫通(E)】というスキルを得ている。どんな硬いものでも貫通させられるスキルだそうだ。
ミホとアサミで矛盾が試せるな。どっちが上なんだろうか?
2人のスキルはどちらのスキルも再使用に時間がかかるようだし、使いどころの見極めが重要になってくるだろう。
「隠匿のローブ。最高!」
カナミはスキルではなく、隠匿のローブという装備を手に入れた。隠匿のローブは装備者の気配を隠してくれるローブで、防御力の高くないカナミには丁度よいだろう。
「このケーキ美味しいですね」
カズミは【魔法効果増幅(E)】を得ている。彼女は懸念だったMPが増加して不安がなくなったので、今回は魔法の効果を高めるスキルを得たようだ。
「主! もっと飲め!」
リーシアは相変わらず豪快な性格で、よっぱらいのおっさんのように俺に酒を勧めてくる。まぁ、俺も酒は嫌いではないが、ビールだと炭酸で腹がすぐに膨らんでしまうのがイマイチだ。だからワインやブランデーを飲んでいる。
「俺はビールではなく、ワインを飲んでいるから!」
リーシアはビール好きなので、俺にもビールを飲まそうとしてくるのだ。
「なんだ、口移しがいいのか? ほれ、唇を出すのだ」
何言ってるんだよ、この酔っぱらいは。
「ご主人様、おかわりワン」
「あいよ、フルーツジュース」
「わーいありがとうワン」
サンルーヴはフルーツジュースがお気に入りだ。お風呂に入った後に出してやってから病みつきになっている。
「グローセさん……」
セーラが俺の肩に頭を乗せてきた。酔っぱらうといつもの凛々しいセーラではなく、妖艶なセーラになる。それがまたいい!
ちょっと胸でも触ってみたら俺の耳元で色っぽい声を出すんだ。もう鼻血が出そうだよ。
ルビーは今回も見せ場がなかったので、しょんぼりしている。基本、俺たちは回復があまり必要ないし、回復はセーラもできるのでルビーの活躍の場がないのだ。
これはいけないと俺も反省をしなければと思った。そうだな、しばらくは何かあっても攻撃魔法は撃たないようにセーラに言っておこう。それでルビーの【炎の羽ばたき(C)】で攻撃できるだろう。ルビーはランク5なので、攻撃力はあると思う。
俺たちは一晩酒盛りをして朝を迎えた。頭が痛い。当分、酒はいいや。
「……」
こういうのをあられもない姿というのだろうか。四人娘たちが上半身裸で寝ているぞ。うちの妻たちはそこまで乱れていないな、うん、よかったよ。
しかし四人娘は起きた時にどうするのかな? そこに俺がいたら気まずいよな。どうしよう?
こういう時はセーラを起こして、俺が寝たふりをしている間に四人娘を起こしてもらおう。
「……」
そんなことを考えていた時もあった。俺は今、カズミと目が合っている。
「オーナー、おはようございます」
「うん、おはよう」
カズミはまだ自分の姿を認識していないようだ。この後の展開が想像できるからなぁ……。
「え? あれ? 私……っ!?」
自分の姿を確認してからのーーー。
「きゃーーーっ!?」
叫び声!
その後のことは言わなくても分かるだろ? ミホ、アサミ、カナミが悲鳴を聞いて起きた。そして、自分たちの格好を見て叫び声をあげて、何もしていない俺を非難してきた。
「「「「ごめんなさい!」」」」
落ち着いた四人が俺に頭を下げてきた。ここまでくるのに1時間はかかったかな。誤解を解くのは大変だったよ。
「分かってくれればいいんだ」
けっこう疲れた。それに二日酔いで頭が痛い。今日はゆっくりしたいな。
「主! 次の町へいくぞ!」
リーシアは元気だな。二日酔いはないのか? お酒を飲んでいないサンルーヴの方が元気ないぞ。サンルーヴは朝が弱いからな。
「リーシア、今日は勘弁してくれ。ここでゆっくりして体調が戻ったら町に行こうな」
「何を言っているのだ。二日酔いなど、エリクサーを飲めば治るではないか!」
二日酔いにエリクサーを飲む奴なんていねぇよ!
とはいえ、このままでは本当に今日を棒に振ることになりそうなので、飲んでみた。ああーーー癒される~。エリクサーぱねぇ!
「お、オーナー……いくらなんでもエリクサーで二日酔いを治す人なんていませんよ……」
「あははは。俺もそう思ったけど、二日酔いが治ってみると、飲んでよかったと思うよ!」
俺は優しいのでカズミにもエリクサーを飲ませてやった。そして他の3人にも飲ませてやった。
「エリクサーの安売りでもしているのかと思ったよ……」
ミホが上手いこと言った。座布団を1枚!
元気になった俺は赤の塔の町に四人娘を送っていき、山頂に帰ってきたらヘリコプターで隣国側の麓に下りた。
「このヘッポコポコポンは本当に凄いな! あっという間に山を下りたぞ!」
ヘッポコポコポンって何だよ? お前、わざと間違えているだろう。
「リーシアさん、ヘッポコポコポンではなく、ヘリコプターですよ」
セーラは真面目だな。リーシアだって知ってて言っているんだ。
「何だと!? ヘリコプターと言うのか!?」
本当に間違えていたようです!
さて、ここからは隣国であり、俺たちは港町を目指した。当初の目的通り港町で新鮮な魚を食べようと思ってのことだ。
俺の【通信販売(B)】なら新鮮な魚を買えるけど、それとこれは話が違う。こういうのは、その場の雰囲気とか匂いがスパイスになるんだ。
俺たちがいた国には海はない。この際だから、俺たちがいた国と、その周囲の国のことを少し話すとしようか。
俺がいた国の名はデルバルト王国と言って、4大国と言われる国のうち、3つの大国に囲まれている中堅国家だ。3つの大国の他にイクマ大公国とアスタリカ公国という2つの小国とも国境を接している。
俺が密入国したこの国は小国のアスタリカ公国だ。港があるのが一番の理由だけど、この国に決めたのは近かったからだ。イクマ大公国や3つの大国でも海と港はあるけど、港まで遠いとインスが教えてくれたから消去法でアスタリカ公国にした。
そんなアスタリカ公国を横断して港町へ向かっている。出てくる魔物はルビーに任せた。あまりにも出番がないので、ルビーが不憫だったからだ。
「バッチこいッピー!」
ルビーは出てくる魔物を【炎の羽ばたき(C)】でこんがりと焼いていく。意外と攻撃力があるようで、魔物は即死かよくても瀕死だ。
「主! ルビーにばかり戦わせるな! 俺も戦いたいぞ!」
「そう言うなよ。ルビーだって活躍したいんだから、リーシアはダンジョンで暴れただろ?」
「何を言っているのだ! ダンジョンはダンジョン、これはこれだ!」
リーシアには戦わないという選択肢はないようだ。その時、俺の頭の中に声が響いた。
『マスター、先ほど王家からの使者がやってきまして、すぐにマスターを連れ戻せと、マスターに出頭命令書を持ってきました』
インスからだ。
『大丈夫だったか? 何もされなかったか?』
『はい、私は問題ありません。しかし、ダンジョンに送った冒険者貴族がほぼ壊滅したようです』
『ほぼ壊滅? 生き残りがいたのか?』
『はい、24人の冒険者貴族が4つのパーティーを編成してダンジョンに入りましたが、戻ってきたのは3人でした。その3人も2人は治療中に死亡したそうです』
『本当にほぼ全滅だな。冒険者貴族はどのくらいの強さだったんだ?』
『6人の4パーティーでしたが、どのパーティーもランク5程度の魔物なら倒せるパーティーで、ランク6でもよい戦いができる程度の戦力です』
『つまりランク5よりも強い魔物が出てきたってことか……』
まぁ、ランク7のアースドラゴンやランク8のカオスドラゴンが元々いたダンジョンだし、浅い層でランク6の魔物が出てきていたという話なので、ちょっと進めばランク7の魔物が出てきても不思議はないわな。
『それで、王都はどんな感じなんだ? 魔物がダンジョンから溢れ出てきたわけじゃないんだろ?』
『魔物はダンジョンの外に出てきていませんので民は騒いでいませんが、王侯貴族が騒いでいます。そこでマスターをどうしても戻したいのでしょう』
ケツの穴が小さい奴らばかりだ。まぁ、俺も今のような力がなければそのダンジョンに近づこうとは思わなかったけどな。
『インスは使者になんと回答したんだ?』
『急いでも2・3カ月はかかると回答をしておきました』
まぁ、妥当なところだろうな。
しかし、俺に対して出頭命令書を出すとはな。相当焦っているとみえる。
そもそも、俺は貴族になったが冒険者貴族とは中身が違うのだ。
冒険者貴族は貴族の身分を与える代わりに魔物討伐や戦争時に国の戦力として組み込まれる。しかし俺はそういった縛りがないのだ。
王家が俺を叙爵すると言ってきた時に俺が断り続けたことで、そういった縛りはないということになったのだ。王家としても俺に叙爵の話をしたのに断られたというのではメンツに関わるので叙爵条件の緩和を持ちかけてきた経緯がある。
権力を使って俺に圧力をかけることもできたが、ランク7のアースドラゴンを倒せる俺を敵に回したくないという判断があったのかもしれない。それに俺が供給している物資を止められてもシャレにならなくなるからな。
王侯貴族には俺に強く出るだけの力がないのだ。多分、そのことからインスを人質として王都に置くように言ってきたのだろう。国王が面と向かって屋敷を与えると言っているのだから俺が断ることはないと判断したようだが、あの時に断っておけばよかったと今はつくづく思うよ。




