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006_商談2

 


 今日は良い天気だ。

 真っ青に晴れ渡った空がとても清々しく僅かに頬をくすぐる風が気持ち良い。

 なのに何で俺はクソ重いリヤカーを引いて商人ギルドに向かわなければならないんだ。何かムカつく。

 人でも雇ってリヤカーを引かせようかとも思ったがあまり人との接点を持つのは現時点は得策じゃないと思える。

 今の俺はこのハジメの町に腰を落ち着けるか、それとも他の町に行くのか、仲間を見つけるのか、どうするのが良いか考え答えを見つけなければならない。

 取り敢えずこのくそ重い白砂糖を商人ギルドにサッサと納品して自由になりたいぜ。


「お早うございます。グローセ様」

「お早うございます、アンブレラさん」


 商人ギルド会館の裏手には大きな倉庫が立ち並ぶエリアとなっており、俺は商人ギルドの指示でその倉庫街の一角に来ていた。

 倉庫街と言えども決して閑散とはしておらずひっきりなしに人や物が動いている。

 地球の某ネット通販の物流倉庫のような(せわ)しなさだ。


「その荷車は初めて見る物ですね、車輪に何が……ほう、これは……適度な弾力があり、ほうほう……グローセ様、この荷車はどちらで入手されましたでしょうか?」

「え?あぁ、私の故郷です。私もいつもどれるか分からないほど遠方です」

「むむむ、そうなのですか……因みにこの荷車をお売りいただくことはできますか?」


『随分リヤカーを気に入ったようだけどタイヤって珍しいの?』

『彼はリヤカーのタイヤに着けられているゴムに興味があるようです』

『ゴムか~。この世界にはゴムはないの?』

『ゴムはありますがタイヤなどには使われていません』


「すみませんが、これはお譲りできません」

「いえいえ、変なことをお聞きし申し訳ございません」


 それからは白砂糖を倉庫の一角に降ろして代金と売買証明を貰い商業ギルドを出ようと思ったらアンブレラさんに話があると商談スペースに連れていかれた。

 リヤカーは商業ギルドがしっかりと管理してくれるというのでお任せしてある。


「呼び止めて申し訳ありません」

「構いませんよ」

「それでお願いがありまして……」


 アンブレラさんのお願いは白砂糖の更なる納品要望だった。

 どうもこのハジメの町でも有数の商店に卸したところ、町内での反響が良く更に偶々別の町から仕入れに来ていた商人の目にもとまり二百キログラムでは不足だというのだ。

 だから追加で五百キログラムを納品してほしいと頼まれた。


『マスター、あまり一度に納品しますと既存の砂糖を扱っている商人から目を付けられてしまう危険性もありますので慎重な対応をするべきでしょう』


 インスの提案は尤もだと思うので今は手元に白砂糖の在庫があまり無いので後日回答をすると返答をしておいた。


『せっかくなので【通信販売】で他の商品を購入し数種類の商品を取引してリスクを分散してはいかがでしょうか?』

『なるほど、数種類の商品を扱うことで売り上げも増えるし、何より一種類の商品に対するリスクヘッジとなるか。うん、そうしよう』


「白砂糖は今すぐ回答しかねますが、他の商品ではいかがでしょう。今日はあいにくと持ってきていませんが午後にならお持ちできます」

「……それはどのような商品でしょうか?」


 あ、何も考えていなかったぞ。


『塩は売れるとして小麦とか米なんかどうだろう?』

『塩は問題ないでしょうが穀物はそれほど高価では販売できないと思いますし、米はこの地域ではほとんど食されていません』

『なら胡椒は?』

『胡椒は希少な商品なので大丈夫でしょう』


「塩と胡椒ですが、この町ではそれなりに高額買い取りしていただけると思っています」

「塩もそうですが、胡椒は滅多に入荷しない希少な商品です。その二つの商品も当ギルドへ専売していただけるのですか?」

「それはアンブレラさん次第だと思いますよ?」

「ははは、そうですね。頑張ります」


 こうして昼からも塩と胡椒を持って商人ギルドに赴くことになった。

 宿に戻る前に先ずは人気のない所へいく。


『周囲に人の気配はあるかな?』

『見える範囲にマスターを窺う者はおりません』


 インスに周囲の警戒をしてもらってリヤカーをストレージに仕舞う。

 このままリヤカーを引いて帰ると宿屋にお金が取られるし最悪はリヤカー自体を盗まれることもある。

 とは言え最大の理由は部屋の中でリヤカーを出して商品を積み込むためだ。

 幸いにして高額の部屋だけあって部屋自体はかなり広いのでリヤカーを出しても問題ない。


『マスター目一杯積み込むのですか?』

『塩が二百キログラム、黒胡椒が百キログラム、白胡椒が五十キログラムあればそれなりの金額になると思うからしばらく商売しなくても良くなるね』

『本日だけで百八十万円以上、白砂糖二百キログラムで二百三十万円以上を儲けていますのでそれだけで数ヶ月は暮らせますが?』

『まぁ、金は有っても困らないし、それに数百万だと何かあったらアッという間に無くなってしまうからね』


 商品を購入しヒーヒー言いながらリヤカーへ積み込む。

 積み込みが終わったら昼食を宿の食堂で頼む。

 比較的高級な宿だが食事はあまり美味しくない。

 これは露天売りされている串焼きなども同じで未だこの世界で美味いと思える物を食べた記憶がない。

 素材の味がいかされていると言えば良いように聞こえるが、塩や胡椒といった調味料が希少品なので流通量が少なく味付けが超薄味になってしまうのが理由だろう。


 俺が安価で安定的に調味料を卸していればこのハジメの町の食事事情は向上するのだろうが、そんなことをすると大変な量を卸さなければならず目立ってしまうので少なくとも今はできない。


 食後、すぐに宿を出たが商人ギルドに行かず街中をブラブラする。

 ハジメの町というが町は結構広く見て回るには数日では足りない。


『この町の名産とかって何かな?』

『名産はカウカウという魔物の肉です』

『魔物の肉が特産なの?』

『はい、カウカウは魔物と言っても人を襲いませんので飼育がしやすいのです。ですからハジメの町では畜産業が盛んです』


 魔物でも人を襲わない種族があるんだと驚く。

 魔物と言えば人を襲うものだと思っていたよ。

 しかし肉が特産という割に料理が美味くないというオチだ。


 そうか、美味い物を食おうと思ったら自分で肉を買ってきて【通信販売】でステーキソースやカレーやシチューの元を買って料理すれば良いんだよな。

 あ~肉も【通信販売】で買えるか……せっかくのスキルなので使わないとね。

 俺は一人暮らしだったので多少の料理はできる。

 魚だって三枚におろせるし、大根の桂むきだってできるおれを舐めるなよ!


『インス、アパートを借りることってできるかな? 貸家でも良いんだけど、自分で料理ができるスペースとシャワーとトイレがあれば嬉しいな』


 宿ではシャワー室やトイレはあってもキッチンはなかった。

 自分で料理をしようと思うのであれば部屋を借りるのが一番だろう。


『キッチン、トイレ、シャワールームが備えられているとなりますと、アパートではまず無いでしょう。しかし貸家であれば見つけることは可能でしょう』

『貸家はどこで借りられるかな?』

『不動産の多くは商人ギルドで扱っております』


 商人ギルドならアンブレラさんに聞いてみようかな。


『ただ、貸家を借りるのであれば護衛を傍に置くことをお勧めします。マスターは荒事は苦手のようですから』


 確かに俺は荒事は苦手だ。

 ウサギとの戦闘を考えても無理なのはわかる。


『やっぱ護衛は必要かな?』

『比較的治安が良い町ですが、マスターの出身地のような安全は望めません』


 日本と比べれば命が軽いようだからな、安全を考えると護衛は要るの……か?

 うん、要るね。俺に戦いは無理だ。

 しかし信頼できる護衛をどうやって見分けるんだ? 戦闘力はステータスを見ればある程度把握できるが人柄はそうはいかない。

 人の喜怒哀楽はまだ分かりやすいが、人柄となると読み取るのは難しい。


『護衛はどうすれば見つけることができるかな?』

『冒険者ギルドに護衛依頼を出すか、戦闘奴隷を購入するか、一般公募を出して集まった者の中から採用するか、ですがそれぞれ一長一短があります』

『一長一短?』

『先ず冒険者の場合は戦闘力はランクである程度保証がされますが、依頼を受けてもらえるかわかりませんし冒険者なので素行が悪い者も一定の確率で出てくると思われます。それにマスターの情報が外に流れやすいというデメリットがあります』


 予想の範疇か、冒険者を雇うには人柄を見極める必要があるな。


『奴隷の場合は一定の戦闘力を有する者は高価になりますし、そもそも戦闘力が高い者は滅多に奴隷にはなりません』


 戦闘力が高ければ働く場は多いはずだから奴隷になるような奴はハズレの確率が高いか。


『一般公募ではマスターが公募しても人が集まる可能性はありません。条件を良くすれば可能性はありますが、募集する側のマスターの認知度が低いことから可能性としては低いかと思われます』


 どこの馬の骨かも分からない俺が一般公募しても怪しんだり相手にされずに人が集まらないってことだな。


『早急に護衛がほしい場合は冒険者で、継続的にと考えれば奴隷を育てる。一般公募は今の時点では選択から外しても良いかと思うけどインスはどう思う?』

『マスターと同じ考えです』


 なら決まったな。当面は冒険者と奴隷の二本立てでいこう。


 そんな話をしていると商人ギルドに近付いたので人目のない場所で荷物満載のリヤカーを出して商人ギルドに向かう。

 商人ギルドの受付に声を掛けると朝同様に裏の倉庫街に向かってほしいというので向かうとそこには既にアンブレラさんが待ち受けていた。


「ヘンドラー様、お待ちしておりました」

「アンブレラさん、今朝ぶりです」


 挨拶も早々に倉庫の中の商談スペースに通され食塩、黒胡椒、白胡椒を見せると白胡椒を見たアンブレラさんは目を白黒させていた。


「食塩が二百キログラム、黒胡椒が百キログラム、白胡椒五十キログラムになります」

「これが白胡椒……本物……」

「今回は白胡椒は僅かですがこの町では珍しいですか?」

「珍しいっていうレベルではありません! 十年以上このギルドで働いていますが白胡椒を見たのはこれが初めてです!」

「そうですか、では商談ですがこれを全て卸します。他の商人には売りませんので専売ということで色を付けた値を出していただければと思っております」

「勿論です! 私の権限の及ぶ限りの値をお出しいたします!」


 白胡椒を見てテンションが上がったアンブレラさん。

 そのアンブレラさんが出した買値は食塩が一キログラムあたり三千五百円、黒胡椒が一キログラムあたり二万円、白胡椒がなんと一キログラムあたり三万円だ。


「申し訳ありませんが塩は品質が良い分は高値にさせていただきましたが塩自体はそこまで珍しくありませんのでこの額です。しかし、黒胡椒と特に白胡椒はこれ以上ない買い取り額にさせていただきました」


 まぁ、ここでゴネても良いことはないだろう。

 それに俺は全然損をしていないしここはアンブレラさんの顔を立てて即決しよう。


「その値段で構いません。ただ一つお願いがあるのですが」

「ありがとうございます。それでお願いとは?」

「護衛がほしいのですが、私はこの町ではコネもないのでアンブレラさんにお口添えをしていただければと思いまして」

「なるほど、そのようなことでしたら私に否はありません。喜んで口添えをいたしましょう」

「ありがとうございます。護衛は先のことを考えて奴隷を購入したいと思います。それでその奴隷がモノになるまでの護衛と奴隷への訓練をしてくれます冒険者を雇いたいと思います」

「では知り合いの奴隷商人と冒険者ギルドへ紹介状をしたためます。代金と書類の用意もありますのでしばらくお待ちください」

「ええ、よろしくお願いします」


 

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