056_四人娘の課題
赤の塔の探索は順調に進み十二層、十三層、十四層を越えて十五層に到達した。
ゴーレム祭りにうんざりしながら四人娘は奥へ奥へと進むと今までのゴーレムとは大きさと色が違うゴーレムが出てきた。
「アイアンゴーレムだな」
剣、槍、弓、魔法の四人娘の攻撃手段では相手にするのが厳しい相手だ。
しかしアイアンゴーレム程度の魔物に苦戦していては赤の塔を踏破することはできない。
俺の記憶にあるスマート・ワールド・ゲートの世界では最低でもランク8の魔物が出てくる。
ランク5からは能力の幅も大きくなるので同じランクの魔物でもまったく強さが違うこともよくある。
「厳しいようならリーシアも手伝ってやってくれ。ただし、攻撃はしないようにね」
「殴れないのか? むー」
リーシアが殴ったら一発で終わってしまう。
それでは四人娘の成長には繋がらないだろう。
しかし四人娘は苦戦しながらも四人だけでアイアンゴーレムを倒した。
前衛のミホとアサミが殴り飛ばされる一幕もあったが、カズミが聖なる守りを付与していたので大きな怪我はない。
「苦戦をしても自分たちだけでアイアンゴーレムを倒したのは良いことだ」
ミホとアサミは息を弾ませている。
カナミとカズミはあまり役に立てなかったと思っているのか、悔しそうな表情だ。
ここら辺が今の彼女たちの限界のようだ。
何かきっかけがあればひと皮剥けて飛躍できるかもしれない。
以前のリーシアたちがミスリルゴーレムを単独で倒せるようになったように。
だけど今の四人ではミスリルゴーレムと戦っても死ぬだけだ。
アイアンゴーレムを相手に実力を伸ばすしかないだろう。
あとは……俺と契約すれば四人娘を強化することができる。
それに転職するってのもありだろう。
屋敷に帰ったら四人と方向性について話し合ってみるか。
ヒーヒー言いながらもアイアンゴーレムとの戦闘をこなしていく四人娘。
しかし一回の戦闘時間は長く、ポーション類の消費も激しい。
だから十六層を見て屋敷に帰ることにした。
四人はまだ頑張れると言ったが、肉体的疲労もそうだが精神的な疲労も溜まっているようだから帰ることにした。
ダンジョンの中で二晩明かしたので、屋敷には三日目の夕方頃に帰ることができた。
四人娘には翌日の朝に反省会をするから今日は休むように言って、部屋に戻らせた。
四人娘はかなり疲れた表情をしていたので、ゆっくり休んでほしい。
今のうちに俺なりに四人娘の何が悪いか考えておこう。
まず最初に、気になったのはタンクがいないことだ。
タンクとはパーティーの盾役のことで、魔物の攻撃を一身に引き受けてくれる俺たちでいうリーシアのようなポジションだな。
タンクが安定しているのといないのとではパーティーの安定感がまったく違ってくる。
次はアタッカーのバランスだな。
このパーティーは四人のうち三人がアタッカーだ。しかも全員が物理に特化している。
アサミは魔闘槍士、カナミは弓魔導師で魔法も使えるが、二人が魔法を使うとすぐにMP切れになる。
あくまでも魔法は補助的なものであり、基本は物理攻撃なのだ。
火を纏った槍の一撃や、風を纏った矢の一撃は強力だが、物理判定なのだ。
ただし、ゴーレムに関しては物理で殴るのが基本だから、セーラのような圧倒的な魔法があれば別だけど、物理攻撃が悪いわけではない。
ただ、物理でも剣と槍と矢の攻撃はゴーレムと相性が悪い。ゴーレムは切ったり刺したりするのではなく、打撃系の攻撃の方がいいのだ。
特に双剣と矢はダメージが通りにくいのがゴーレムだ。
しかし矢に関してはやりようはある。矢には通常使われる普通の矢と特殊な効果のある矢がある。魔法判定にならない爆発系の矢を撃てばダメージを与えられるだろう。
その他に、邪道だけど矢にダイナマイトをつけて撃てば追加ダメージを与えることもできるだろう。ダイナマイトは魔法ではないのでゴーレムにはとても有効な攻撃手段だ。
まぁ、俺がいないとダイナマイトの供給が追いつかないけど。
しかし双剣に関してはよく分からないというか、ゴーレムに対して有効な手立てが思い浮かばない。
サンルーヴのように【鉄斬り】のスキルがあれば別だが、【鉄斬り】のスキルスクロールは【通信販売】でも売っていない。
「やっぱりミホだよな……」
ミホの立ち位置が一番中途半端になっているのは否めない。しかし双剣士は見た目カッコいいからな……。
そうか、回避盾って手もあるのか? しかしミホはあまり回避が得意ではないように見えた。
サンルーヴのような圧倒的なスピードがあるようには見えなかったし……まぁ、明日の話し合いで皆の意見を聞こう。
翌朝、日の出よりも遅い時間に起きだした。
俺とセーラ、そしてメイドのウィニーの三人で朝食を用意する。
ウィニーは王都でインスが採用した家臣の娘でメイドとして屋敷内で働いてもらっている。
他にもメイドは数人いるけど、食事の当番は交代制になっているので今回はウィニーが手伝ってくれている。
俺たちが食事の用意をしている間にリーシアは庭で朝稽古をしている。
サンルーヴは一緒に起きてきたが、いつものように朝食ができるまでソファーの上でごろんと横になってもうひと眠りしている。
四人娘はリーシアと朝稽古に汗を流している。疲れが取れていないのか動きが悪い。
寝ていないのかもしれないな。でも悔しくて寝られなかったのなら見込みはあると思う。
俺にはそんな感情はないけど、悔しいという感情が成長に繋がるのはリーシアたちを見ていたら実感できる。
変なところで感情の起伏が乏しいと自分でも分かっているけど、こればっかりはなかなか直せない。
「おーい、朝食ができたぞー」
大声で庭で稽古をしているリーシア、四人娘、家臣に声をかける。
俺の敷地は広いので大声を出しても隣近所に迷惑は掛からないのはいいことだ。
「ごはんできたワンか?」
目をこすりながら何故か枕を抱えてくるサンルーヴ。寝ぼけているようだ。
その容姿はとても可愛い。
「サンルーヴ、こっちにいらっしゃい」
セーラが母親のようにサンルーヴの世話をする。
いつもの光景だ。心が和む。
全部で十七人で朝食を食べる。
今日のメニューは海藻サラダとポテトサラダ。スープ類はコンソメスープ、コーンポタージュ、ミネストローネ、みそ汁。メインディッシュがスクランブルエッグ、目玉焼き、ゆで卵、厚切りベーコン、カリカリに焼いた薄切りベーコン、ソーセージ(大)、香草入りソーセージ、ローストチキン、鮭の切り身の塩焼き、アユの塩焼き、主食がロールパン、黒糖パン、食パン、カンパーニュ、バゲット、白飯、中華粥。つけ合わせがフライドポテト、コーンのバター醤油炒め、ニンジンのグラッセ、たくあん、梅干し。あとはフルーツの盛り合わせだ。
最近の朝食はバイキング方式を採用している。それでも作った全ての料理を完食してくれるので嬉しいし、皆が美味いと言ってくれるので作った甲斐がある。
朝食が済むと家臣たちはそれぞれの持ち場に向かう。
メイドのウィニーも食器の片づけをして屋敷内の掃除などをする。屋敷がデカいから掃除も大変だ。
俺の執務室に妻たちと四人娘が集まった。執務室は広いけど、俺を含めて八人も入るとさすがに狭く感じるな。
「さて、今回のダンジョン探索の反省会を行う」
四人娘の表情が暗い。
「お兄さん、ちょっといいかな」
ミホが手を挙げて発言の許可を求める。
そう言うシステムではないが、俺は頷き了承する。
「私たち四人でも昨夜話し合ったんだ。先ずはそれを聞いてほしいんだ」
「いいだろう、話してくれ」
四人は視線を合わせて頷き合う。
「私たちの話し合いで気付いたことは―――――」
フーっと息を吐いた後、ミホは話し出した。
時々アサミがフォローしながらも四人で話し合ったことを話してくれた。
内容は俺が考えていたことと同じタンクの存在と火力不足だった。
色々な局面に対応するにはやはりタンクが必要だと四人娘も考え至ったのは嬉しいことだ。
それに火力不足については俺と少し違ったが、それも一つの考え方だから構わないだろう。
「だから盾役と火力アップが私たちの課題だと思うの」
「盾役に関しては俺も同じ考えだ。俺たちにはリーシアがいるから非常に安定したパーティーになっているのは皆が知っている通りだ」
皆が頷く。
「それでもう一つの火力不足についてなんだけど、魔法使いをパーティーに迎えたいと言っていたが?」
四人娘の考えでは、火力不足は魔法の攻撃職がいないことと前衛で打撃系のパワーファイターがいないことだと言っていた。
そして打撃系のパワーファイターについては考えがあると言っていたが、魔法攻撃職の方は外部から迎え入れるしかないと思っているそうだ。
「その前に私は転職することにしました」
ミホが平坦な声で転職すると報告してくる。
その顔を見ると不本意なんだと窺い知れる。
「ほう、転職か。何に転職するんだ?」
リーシアが興味津々で聞き返す。
「騎士系の職業になろうと思います」
騎士系の職業は盾を扱うことが多い。
リーシアが最初に就いた職業であるアタックガーディアンも騎士系の職業だと言える。
「安易にというわけではないようだな……」
「はい、昨晩考え倒しました! それに以前職業に就く時に聖騎士ってのがあったのでそれにしようと思います」
皆が俺の顔を見る。
いや、彼女が決めたことを否定なんてしないよ。
聖騎士は強力な盾職ぽいのでいいと思うし、何よりこのパーティーには盾職が必要だ。
しかし彼女はそれでいいのか? それだけが気になる。
「ミホが転職すると言うのなら止めはしない。しかし本当にそれでいいのかい?」
「っ!?」
「ミホが納得いかない転職なら考え直すのもいいと思うよ」
嫌々転職してもいいことはない。
本人が納得してないのに転職したって楽しくないし。
所詮、この世界はゲームのような世界なんだから楽しみながら攻略した方が絶対いいと思う。
まぁ、それは俺が日本に帰ろうと思っていないからなのかもしれないけどね。
「ミホの決意に水を差して悪いと思っている。でも納得していないのに転職してもいいことはないと思うんだ。だから転職するにしてももう一度、よく考えてからにしてほしいかな、と思う」
転職の話は今日一日ゆっくり考えてほしいと保留にした。
明日になっても転職したいと思えていればすればいいと思う。
「魔法攻撃職の件だけど、誰か心当たりの人がいるのかな?」
話を変える。
ミホは転職の件で考え込んでしまったので代わりにアサミが答える。
「この赤の塔の街にも転移してきた人がいるから誘ってみようと思うの」
俺も今まで考えないこともなかったが、敢えてアクションを起こしていないことを四人は考えている。
俺の場合は、必要なら向こうから俺に接触してくるだろうし、そうしないのは必要ではないからだと思っている。
だけど、四人には仲間が必要だから同じ目的の人を誘うことにした。
「それで、魔法攻撃職が転移者だと思われる者の中にいるのか?」
「魔法攻撃職に二人、前衛に一人心当たりがあるの」
四人娘は三人の転移者を知っているということか。
「本当はあと二人、転移者と思う人がいるけど、あまり関わりあいたくないような人たちだったかな」
なるほど、合計で五人の転移者を知っているが、二人は問題のある人のようだ。
「取り敢えず、五人の名前を教えてくれるかな? 一応、俺の方でも調べてみるよ」
「うん、分かった―――」
早速、名前を聞いた五人の身辺調査をすることにした。
四人娘に仲間が増えるのは歓迎だが、問題もある。
問題は言わなくても分かるだろうが、赤の塔を踏破した時のご褒美だ。
もしパーティーで一人しか日本に帰れないとなったら、仲間割れして殺しあうなんてことにならないとも限らない。
よしんば誰か一人が無事に日本へ帰ったとして、問題もある。
残ったパーティーメンバーが他のダンジョンを踏破する戦力が足りないことだな。
まぁ、これは今心配しても仕方がないのかもしれないが。




