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053_孤児

 


 マナスピリチアルの魔石を細かく砕く。

 次は同じくマナツリーの葉であるマナリーフを乾燥させこちらは細かくすり潰す。

 このマナツリーはそれほど珍しくない植物でMPを回復させるポーションの材料にもなっているのでそれなりに市場に出回っているから買った物だ。

 共にイメージは片栗粉ほどの細かさだ。

 この工程で手を抜くと出来上がり時の喉越しが悪くなり、効果も低くなる。


 ここにワイバーンの血を加えるのだが、これはカオスドラゴンの血が手に入ったのでそちらを使う。

 ランク4のワイバーンよりランク8のカオスドラゴンの血の方が効果が高くなるので丁度良いものが手に入った。

 後は【神器創造】を発動させると光り輝く液体が出来上がる。

 MPの最大値を大幅に上昇させる薬の出来上がりだ。



 種類:マナ向上神薬(神級)

 説明:MP保有量を大幅に向上させる神薬。カオスドラゴンの血を使ったことでMP上昇効果が大幅に向上している。



 俺がSWGでこの神薬を使った時は一回でMPを二万ほど上げてくれた。

 しかもリアルで一ヶ月が経過すれば同じ物を飲んで再び効果があった。

 飲む回数を重ねる毎に十パーセントほど効果が落ちるが、それでも効果は絶大だ。

 当時の俺はこの神薬を二年がかりで飲み続け十八万ほどMPの上限値を増やした記憶がある。

 おかげで最後に飲んだ時のMP上昇値は二千ほどになったのを覚えている。


 約束通りの時間に来た四人娘。

 早速、四人分の装備を与える。


 双剣士のミホにはミスリルやランク5のメタルリザードの革を材料にした複合鎧とミスリルの魔双剣を用意した。


「凄い! これを私に!?」

「好きなように使え。但し、装備が良くなったからと言って無理はするなよ」

「うん、ありがとう!」


 魔闘槍士のアサミにもミホと同じ複合鎧とミスリルの魔槍を与える。


「やった~ありがとう、お兄さん!」

「気に入ったなら嬉しい」


 弓魔導師のカナミにはメタルリザードの革鎧とミスリルの魔弓を与える。


「大事にする。ありがとう」

「おう、頑張れよ」


 そして錬金術師のカズミには魔法発動時にMPの消費を抑えるローブと魔法の威力を上げる魔杖を与える。


「お、オーナー、ありがとうございます」


 カズミ・ウエムラには更にMP大幅増の効果がある薬品を渡した。


「これは?」

「それはMPの上限値を大きく増やしてくれる薬だ。飲んでみろ」

「え、……そんな薬が……」


 薬をじっと見つめるカズミの肩が跳ねる。

 おそらく【鑑定】を使用したのだろう。


「カズミ、どうしたの?」

「せっかくお兄さんがくれた薬なんだから早く飲みなよ」

「飲むのだ」

「……し、神薬!?」

「「「え?」」」


 四人が大騒ぎだ。五月蠅い。

 だから無理矢理カズミに飲ませてやった。

 味はしらん。不味かったらすまん。


「ほ、本当に飲んじゃった……」

「そ、それでどうなの?」


 MPが気になり三人が固唾を飲みんでカズミのステータス確認を待つ。


「ご、五万っ!?」


 どうやら俺の予想以上にMPが上がったようだ。

 しかし五万も上がったのか……(遠い目)

 どう考えてもカオスドラゴンの血と【神器創造】だよな……。


「何その数値!?」

「あり得ない!?」

「私にはないのか?」


 三人が物欲しそうな目で俺を見る。

 あるにはあるが、そう簡単な話ではないのだよ。

 今回はカズミだけだ。


「その薬は偶々手に入れたものだ。常時あると思ってもらっては困るぞ」

「む~そうなの? 残念!」

「でもこれで懸念だったカズミのMPが大幅に上がったから良い感じじゃない?」

「レベル上げ頑張る!」


 良い物を手に入れたり造ったら優先的に回してやるから、しっかり強くなれよ。


「今日はその装備に慣れてもらう。だから君たちにはリーシアと一緒にダンジョンに入ってもらう」


 そして最後に市販しているマジックバッグより少しだけ性能の良いマジックバッグも与える。

 このマジックバッグにはポーション類も入っているのでいざという時には惜しみなく使えと言ってある。


「よし、行くぞ!?」

「え、今から?」

「今からだ! 善は急げと言うではないか!」


 リーシアには五層より深い層には行かないように念をおしている。

 初心者のカズミには五層だってつらいだろうから彼女の状態を見て判断をしろと言ってある。

 これで大丈夫だろう。と思いたい。……南無阿弥陀仏。


 四人娘はリーシアに任せ俺はサンルーヴとセーラを伴い孤児院の視察に向かう。

 孤児院の敷地はかなり広い。

 それに学校の校舎を孤児院として使っているのでそれなりに目立つ。


 整備した庭はグラウンドになっており子供たちが木剣などを振っているのが見えた。

 そしてそれを見守るブラハムの姿もある。


「調子はどうだ?」

「問題はない。それよりもこの子たちが優秀なので驚いているところだ」


 グラウンドには成人手前の八人の子供を含め三十人ほどが木剣を振っている。

 そんな子供たちを見つめながらブラハムは子供たちが優秀だと嬉しそうにいう。


「優秀なことは悪いことじゃない。だけど優秀だからと人の痛みも分からない子にだけはしないでくれよ」

「勿論だ、技術よりも何よりも心を鍛えることに重きを置いているつもりだ」

「ほう、心か……『心技体』だな」

「む? 『心技体』?」

「俺の国の武道の心得みたいなものだ。第一に心の強さ(精神力)を鍛え、第二に技術を鍛え、第三に体力を鍛える、べきという教えだったと思うが俺は武人ではないから細かいことは分からん。ただ、この三つのどれが欠けてもいけないという教えだったと思う」

「ふむ、良い言葉ではないか。それをこの孤児院のモットーにしよう」


 ブラハムが意外と食いついてきたので孤児院のモットーが『心技体』に決まった。

 武道の言葉だと思ったので剣術などを学ぶ子供には良いが、商人や役人を目指す子供にはどうかと思ったが、心・技・体を鍛えるのに文武の別はないと思い好きにさせた。


「この三人はもうすぐ成人を迎える。成人したら冒険者になりたいと言うが、剣の修行を始めて間もないこともあり腕はイマイチだ。もう暫くここで養育したいが、どうだろうか?」

 孤児院の中を一通り見て回った後、院長室でブラハムから相談を受ける。


 そこには三人の子供がおり、擦れた視線を俺に向けてくる。

 孤児だったこともあり人を信じないぞ、といった視線だ。

 酷い生活を長くしていただろうから心を開かないのも分からないではない。


 三人の体型は痩せており筋力がないことが見てとれる三人。

 これでも孤児院にきた頃よりふくよかになったのだが、元が栄養失調の体だったこともあり一般の十五歳と比べても小柄だ。

「この孤児院の責任者はブラハムだ。お前がそう思うのであればそうすればよい」

 この三人をこのまま放り出して冒険者にしてしまっては孤児院の意味がない。

 この三人だけではなく、皆が孤児院を出てもやっていけるだけの水準にするのが目的だ。

「そうか、分かった」

「ちょっと待ってくれ。俺たちはすぐに冒険者になりたいんだ!」

「そうだぜ、ブラハムのオッサン」

「冒険者になって妹たちを引き取るんだ!」


 三人は独立心が強いようだ。

 それも人が信じられない、この孤児院を信じられない、という気持ちがあるからだろう。

「木刀を少し振っただけで息切れするお前たちが冒険者になっても死ぬだけだ」

 痩せて体力もない三人が冒険者になっても魔物のエサになるだけだ。

 厳しい言い方だが、今の三人には冒険者の素質がないと言わざるを得ないだろう。


「そんなことやって見なければ分からないだろ!?」

「冒険者になりたければ俺に一本入れてみろ! そうしたら認めてやる!」

 こんな感じで売り言葉に買い言葉ではないが、三人の独立をかけた戦いが行われることになった。


 三人の子供の独立をかけた戦いが行われるということで、グラウンドには多くの見物人が詰めかける。

 その殆どが孤児で、その中には三人の妹たちもいる。

「お兄ちゃん、無理しちゃダメだよ」

「そうだよ、院長に勝てるわけないんだから止めたって良いからね」

「何だよ、お前たちは俺たちが負けると思っているのかよ!?」

 三人の周りに集まっていた子供たちが一斉に頷く。

 小さな子供達でもブラハムと三人の実力差が分かっているようだ。


「オッサン、無理して動いて体を壊してもしらないからな!」

「ふ、お前たち相手に体を壊すほど動く必要はないから安心しろ」

 ブラハムを煽るつもりが逆に煽られ頭に血が上る三人。

 戦いは剣だけではなく、こうした準備段階から始まっているのだろう。


「ゼッテー泣かす!」

「おう、やられて悔しがる顔を見てやるぜ!」

「ブチノメス!」

 三人とブラハムは木剣を構え対峙する。

 因みににこの戦いは三対一のハンデ戦になっている。

 三人が一斉にかかれるとは言え、ブラハムもランク3の魔物を単独で倒せるほどの実力を持っていた元冒険者だ。

 怪我の後遺症が残っていた足も俺が作った劣化エリクサーで完治しているから体に不安はない。

 普通に考えればブラハムが負ける要素はない。


 三人が一斉に動きブラハムを囲むように分かれる。

 ブラハムの前に陣取ったのは三人のリーダー格の少年で名前はバルデーだ。

 三人の中では一番背が高いが、それでも百六十センチメートルを少し超える程度の背丈だ。

 一般的な成人男性の背丈は百七十センチメートル程度なので栄養不足が成長にも影響を及ぼしているのがよく分かる。


「うりゃぁぁぁぁ!」

 ブラハムの左後方に陣取っていたガズンという名の少年が斬りかかる。

 三人の中で最も小柄の少年だ。

 その見た目は明らかに非力で冒険者でやっていけるようには思えない。

 ガズンに呼応するように右後方に陣取っていたサンジュという少年も動いた。

 三人の中で体格的には真ん中だが、三人とも小柄なので小柄としか言えない。


 二人の攻撃を体を少しずらして避けると最後に動いたバルデーの攻撃も簡単に見切るブラハム。

 三人は勢い余って衝突してしまう。

 剣の素人の俺から見てもブラハムに勝てる要素がない動きだ。


「早く立て。この程度で終わりにするのか?」

 ブラハムが三人を煽る。

 倒れた時に頭をゴツンとぶつけた三人が頭をさすりながら立ち上がる。

「クッソー逃げるなよオッサン!」

 そりゃ無理な話だろ、と突っ込みたくなる。

 こんなやり取りを見ているとまだまだ子供だとよく分かる。


「行くぞっ!」

「「おお!」」

 バルデーが掛け声をかけサンジュとガズンが声を出す。

 そして三人が一斉に動きブラハムに斬りかかるが、非力な三人の攻撃は空を斬る。

 可哀想だが、実力差は明らかであり三人が何をしようがブラハムには勝てないだろう。

 剣の素人の俺でもそれが分かる。


 三人は休みなくブラハムに斬りかかるが、ブラハムは最低限の動きで三人の攻撃を躱す。

 肩で息をし大粒の汗を流す三人に比べ、息を切らすこともないブラハム。

「はぁはぁはぁ。まだだ、まだやれる!」

 バルデーが斬りかかる。そして初めてブラハムが木剣を振る。

 背中に木剣を受けたバルデーは勢いよく地面に倒れ込む。

「「バルデー!」」

 そして一瞬で他の二人の前に移動したブラハムの木剣が二振りされるとサンジュとガズンもその場に倒れ込む。

「そこまで!」

 俺はここで戦いを止め、見物していた先生に三人の手当てを指示する。


 暫くして気が付いた三人にブラハムは言う。

「お前たち三人は心が弱い。逸る気持ちは分かるが、自分たちの実力を理解し、そして冒険者になるためにはどうすれば良いかしっかりと考えろ」

 シュンとして落ち込む三人。

「お前たちが冒険者になりたいと言うのであれば冒険者になってもやっていけるだけの実力をつけてやる。今は我慢し訓練に集中しろ」

 目に涙を浮かべグッと我慢する三人を前にブラハムは今は我慢のしどころだと言う。

 今まで食べ物を得ることもできずに空腹に耐えてきたのだから、それに比べたら大したことはないだろ?と諭す。

 三人は渋々といった感はあるが、それでも今冒険者になっても早死にするだけだ。

 ここでしっかりと実力をつけてから巣立ってほしいと思う。


 

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