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052_四人娘

 


 赤の塔の街に帰ってからはルルたちに任していた商売関係の書類の処理や土地を購入したりと忙しい。

 だから赤の塔には一度も入っていないのでリーシアなどはブーブー言っている。

 半分は貴族で半分は商人をしているという感じだ。


 貴族の方は安定している。

 インスが見つけてくれた家宰のホーメンが優秀だし、他の家臣も優秀だ。

 それに領地をもっているわけではないのでそれほど多くの仕事があるわけではないのが良かったのだろう。


 それから孤児院の受け入れを加速させた。

 受け入れている孤児の数が百人を超えた。それでもまだ二百人ほどは孤児を受け入れるだけの余裕がある。

 孤児院の孤児たちには最低限の読み書き計算ができるように教育を施し、才能があれば剣や魔法を教える。

 子供たちには自主性を持ってもらいたいので生活の中で自分たちができることはしてもらう。

 孤児だから自立心はある程度あるし年長者が年少者の面倒を見る基礎はある。

 だから料理も大人は少しだけで子供たちがほとんど行う。

 野菜を洗ったり切ったり年齢や能力に応じて任せている。


 商人の方はルルに次いでデイジーが店を出した。

 デイジーの店は和食を中心としたメニューのレストランだ。

 珍しいメニューだけではなく、味も非常に美味しいと人気を呼び常に客足が途切れない繁盛店となっている。


 そして俺の方はヘンドラーカンパニーという会社を立ち上げた。

 俺がオーナーで会長職に収まり、ムーセルを社長に据えている。

 総合商社の形態をとっており、雑貨から食料まで色々な物を取り扱っているが、雑貨に関してはルルの店と住みわけをする。

 まぁ、経営に関してはムーセルに丸投げだ。俺は【通信販売】で商品を購入する購買だけを行っている。


「お兄さん忙しそうだね?」

「ん? ああ、ミホたちか、どうした? 何か用か?」


 元脳筋三人娘プラスワン。

 ミホ・イナバ、アサミ・タナカ、カナミ・サンジョウ、カズミ・ウエムラの四人が雁首を揃えて俺の執務室にやってきた。

 この四人は幼馴染で時間があればこうして四人で固まっているらしい。


「お、オーナーにお願いがありまして……」


 珍しくカズミ・ウエムラが喋る。彼女はこの四人の中では唯一と言っていい人見知りだ。

 職業は『錬金術師』で今は自分で作ったポーションをがぶ飲みしながらポーションを作っている日々を送っている。

 彼女はMPの量が少ないのでこうしてポーションをがぶ飲みしながらでないとポーション作成が進まないのだ。


 そういえば、マナスピリチアルの魔石を加工してMP上限値を上げる薬を作ってなかったな。

 魔石を入手したのが赤の塔のスタンピード中だったし、その後は結婚披露宴や王都へ行っていたし、王都から帰ってきてからは孤児院や商売の話でなかなか彼女たちと話す機会がなかった。

 彼女にはMP増強の薬を作ってやるとも言っていなかったと思うから忘れていたことに対して彼女が何かを思うことはないだろう。

 しかし寡黙で引っ込み思案の彼女が俺にどんな頼みがあるのだろうか?


「私も皆と一緒に戦いたいと思い……オーナーに……し、支援をお願いできないかなと……」


 俺は驚きのあまり目を剥く。

 おおよそ彼女から聞けるとは思っていなかった「戦う」という言葉。

 一体全体、彼女に何があったのだろうと訝しむ。


「理由を聞かせてほしい」


 彼女の言葉とは思えない発言だったのでもしかしたら脳筋三人娘に無理矢理言わされているのではとも思ったが、話を聞く限りそうではないようだ。

 彼女は千人が集められたあの場所で考えたそうだ。

 周囲に見知った顔はなく、名前も知らない人ばかり。

 そんな中で自分が一人で冒険ができるかと自問自答した答えはNOだった。

 知らない人や現地人と仲間になれるかと自問自答した答えもNOだった。


 そして出した結論が一人で生きていけそうな生産系のスキルである【錬金術】を取得することだった。

 しかしMPの増強を考えていなかった彼女は錬金術師としても中途半端だった。

 【錬金術】スキルの行使には大量のMPが必要だという罠があったのだから仕方がない。

 そして今では幼馴染の三人と合流できたので、彼女たちと一緒に行動し日本に帰りたいという。


「それで、オーナーに支援をお願いできないかと……」

「なるほど、君は戦闘系のスキルがないからスキルスクロールでも購入する資金がほしいといった感じかな?」

「は、はい、その通りです」

「お兄さん、私たちは五百万円ほどなら蓄えがあるんだ。だけどそれでは満足いくスキルスクロールを買うことはできないの」

「出世払いになるけど、お金は必ず返すから、お金を貸してほしい!」

「お願い、お金かして」


 カズミ・ウエムラだけではなく、他の三人も頭を下げる。

 この娘たちがその気なら支援は幾らでもしてあげるが、問題がある。

 それはカズミ・ウエムラが本当に魔物と戦えるかだ。

 せっかくスキルスクロールを購入しても魔物を前にしてスキルを有効に使えないのでは話にならない。


「最初はだめでも必ず皆の役にたてるようになります!」


 言うは易く行うは難し。

 彼女の決心は固いように感じる。しかし魔物の前に立ったら津波に押し流される人のようにどうにもならないかもしれない。

 とは言え、魔物の前に立つにもスキルを覚えなければならない。

 俺は彼女たちを支援すると決めていたのだから、信じて支援をしてやろう。


「分かった、支援をしよう。どんなスキルが必要なんだ? 必要なだけ言ってくれ」

「ありがとうございます!」

「「「お兄さん、ありがとう!」」」


 頭を下げる四人。謙虚でよろしい。

 そして彼女たちが考えたスキルを聞く。

 ミホ・イナバが双剣士、アサミ・タナカが魔闘槍士、カナミ・サンジョウが弓魔導師なので三人は完全に攻撃系の職業だ。

 職業だけではなく、スキルも攻撃系なのでカズミ・ウエムラには支援か回復系のスキルを取得してもらおうと思っているらしい。


「ですから【聖魔法】のスキルスクロールを購入したいのです」


 彼女の言う【聖魔法】とは回復系の魔法だが、守備系の魔法も少し使えるようになるので彼女たちのニーズには丁度良いスキルだろう。


「それなら【神聖魔法】の方が良くはないか?」


 俺が提案した【神聖魔法】は【聖魔法】の上位互換のスキルだ。

 せっかく金を出してスキルスクロールを購入するというのであれば、良いものを買えば良いと思う。


「【神聖魔法】は高すぎて手が出ないのです……」


 上位互換だけあって【神聖魔法】は【聖魔法】の十倍はする。

 資金面を俺に頼らざるを得ない四人では【神聖魔法】に手がでないという。


『インス、【神聖魔法】を購入しておいてくれるか』

『了解しました』


「金なら気にするな、ほれこれを持っていけ」


 俺は机の引き出しから取り出すふりをしてストレージから【神聖魔法】のスキルスクロールを取り出し机の上におく。


「こ……れは……?」

「【神聖魔法】のスキルスクロールだ。あのスタンピードで幾つかのスキルスクロールが手に入った中の一つだな」

 嘘だ。スタンピードでスキルスクロールが手に入ったのは事実だが、【神聖魔法】は入手していない。


「こんな高価なものを、お金をお返しする目途が立ちません」

「金のことは気にするな。君たちを支援すると決めた以上は中途半端なことはしない」

「お兄さん……ありがとう」


 四人は抱き合い喜び、俺に礼を何度も言う。


「明日、もう一度来い。他にも用意してあるものがある」

「これだけでも助かっているのに、そんなにしてもらわなくても……」

「気にするなと言っただろ。明日、同じ時間に来い。分かったな?」


 MP上限を大幅に上昇させる薬はまだ作っていないので、明日また来てもらうことにした。

 それと四人の装備も用意してやろう。

 今のはかなり使いこんでいるからそろそろ上の武器や防具に切り替えてもいいだろう。


 四人が俺の執務室から出ていくのと入れ違いにリーシアがやってきた。

 どうも不満が溜まっているようだ。


「ダンジョンにはいつ行くのだ?」


 王都のダンジョン以来ダンジョンには入っていない。

 それがリーシアには不満なんだろう。

 それならばとある提案をしてみる。


「明日、あの四人に新しい装備を与えるので、四人を連れてダンジョンに入ってきたらどうだ? 俺は忙しいから暫く動けないし、サンルーヴがいれば警護も問題ない」


 そう言って俺はソファーの上でゴロンと横になっているサンルーヴを見る。

 今は敵対している人がいないのでダラダラとしているが、いざという時はキリッとしてくれるだろう。……してくれるよな?


「む~、主は行かないのか?」

「悪いな、今度埋め合わせはするよ」

「仕方がない。あの四人を鍛えてやるか!」


 俺は心の中で四人娘に手を合わせるのであった。南無阿弥陀仏。


 

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