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044_赤の塔の氾濫1

 


 赤の塔の街に朝がやってきた。

 昨日のうちにインスによって千個の手榴弾が魔改造されているので、朝食を摂ったらキャサリンさんと一緒に冒険者ギルドに向かうことになっている。


 だから、何でいるんだよ。


「おはよう、グローセちゃん」

「おはようございます、キャサリンさん」


 彼……彼女は我が家で朝食を摂る気満々なのですが?

 しかもキャサリンさんに朝食を出したら御付きの二人の職員にも朝食を出さないわけにはいかないし!

 仕方がないのでカリカリベーコン、スクランブルエッグ、海藻サラダ、コーンポタージュ、高級ホテルパンを出す。


「「美味しい!」」

「でしょ~、グローセちゃん()の食事はとても美味しいのよ~」


 何故かキャサリンさんが自慢をする。

 アンタもオヨバレしている側だぞ?


 二人の職員はお代わりをして昼食分まで食べた気がすると言っていた。

 普通に三人前は食べていたからな、(うち)のリーシア君が張り合って五人前も食べたし、キャサリンさんも五人前を食べた。

 あまり食べるものだから俺がストップをかけなければもっと食べていただろう。


 こちらの方はルルと俺、リーシア、サンルーヴ、セーラの四人が納品に向かう。

 俺の商品はルルの店を通して商人ギルドに卸しているのでルルにも同行してもらった。


 納品する手榴弾は全てマジックバッグにしまっておいたので納品はルルと商人ギルドの職員が二人、そして冒険者ギルドの職員が二人の五人が主となり動いていた。

「予定通り、信用のおける人に分配してください」

「分かっている。こんな物が普通に出回っては恐ろしいことになりそうだからな。管理はしっかりとさせてもらう」


 手榴弾はスタンピードの切り札的な武器だが、対人戦においても強力な武器だ。

 これで貴族や王族が殺されても俺は責任がもてないので、管理はしっかりするように頼んでおいた。

 冒険者ギルドで管理ができなければ用意しないという条件での供出だ。


「それでスタンピードの方はどうなんだい?」

「ああ、恐らくだが、明日には一層を魔物が埋め尽くすだろう」


 グラガスさんに対するキャサリンさんの言葉遣いはいつもの感じではない。

 少し男が混じっているのだ。

 この二人の間に何があったのかは分からないけど、悪い雰囲気ではないと思う。

 しかしスキンヘッドの大男と大男のオカマのツーショットは精神的にキツイものがある。


「グローセさん、手榴弾を千個、全ての納品を終えました」

「はい、ご苦労さん」


 一応、絵で手榴弾の使い方を記載した説明書も添えておいた。

 ピンを抜いた後はすぐに遠くに投げないと爆発して自分が死傷するので大事なことだ。

 この説明書は手書きだが最初の一枚が出来上がれば後はコピーするだけなのでそれほど苦労はしなかった。

 その説明書を見たキャサリンさんの目が光った気がしたのだが、それは見なかったことにしよう。


 手榴弾は信頼できる百人の冒険者に十個ずつ渡して運用するらしい。

 使った数も冒険者ギルド側で管理できると言っていた。

 どんな管理の仕方なのか気になったが、あまり触れてほしくなさそうなので細かくは聞かなかった。

 何であろうと冒険者ギルドでしっかり管理してくれればそれでいい。


 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 夜が明ける前に街中が騒々しくなった。

 恐らく赤の塔の一層が魔物で埋め尽くされたのだろう。

 一層は草原タイプで空間が広いので魔物側の数が物を言う地形だ。


 俺は商人だから魔物との戦いに関しては手出し口出しはしない。

 しかし店の護衛として雇っているアンナたち冒険者はスタンピードに備え昨日から冒険者ギルドに詰めている。

 幸いなことにアンナたちは後詰の部隊に配置されているので一番危険な最前線ではない。


「主、俺たちも行くぞ!」

「いや、俺たちは冒険者じゃないから行っても邪魔になるよ」

「グローセさん、96式装輪装甲車(クーガー)であれば最前線でも耐えられると思うのです!」

「セーラまで……」


 確かに96式装輪装甲車(クーガー)なら低ランクの魔物の攻撃など蚊に刺されたほどのダメージしかないが、だからと言って俺たちが冒険者を押しのけ最前線に赴くわけにはいかない。


「ごしゅじんさま~ワン」


 サンルーヴまでそんな目で俺を見るなよ……


 はぁ……三人の視線に耐えられませんでした。


「グローセ殿か、今は忙しいのだ、用なら後で聞く」

「あ、私たちも魔物の殲滅のお手伝いをしますので、ご許可をお願いします」

「魔物と戦うというのか?」

「はい」

「……分かった、一層に入ったら左側の部隊に合流してくれ」


 結構すんなりと受け入れられてしまった。

 それほどに人手がほしいのだろう。


「しかし、命の保証はできないぞ?」

「あ、はい。構いません」


 なるほど、一応は責任者としての予防線は張ってくるんだ。

 でも死ぬ気はない。やるからには全力で魔物を殲滅する。


 赤の塔に入ってすぐに左側の部隊に接近する。

 そして前線指揮官ぽい冒険者ギルドの職員に声をかけギルド長の許可をもらったことを伝えるが、さすがに商人の俺が前線に出てくることに良い顔はしなかった。


「リーシアとサンルーヴは前に出て二人で連携して戦ってくれ。俺とセーラとルビーは96式装輪装甲車(クーガー)から援護を行う」

「了解だ」

「わかったワン」

「了解しました」

「分かったっピー」


 既に最前線では魔物と接敵し戦いが始まっていた。

 リーシアとサンルーヴの二人は冒険者と共に最前線に出て魔物と戦う。

 そして俺はストレージから96式装輪装甲車(クーガー)を出し乗り込み移動して指揮官らしき男に断り後方から支援攻撃を行う。


 セーラに運転を任し、俺は上部のハッチから上半身を出し96式装輪装甲車(クーガー)に備え付けられている武装のブローニングM2重機関銃を構える。


「セーラ、もう少し左に寄せてくれ」

「分かりました!」

「OK、ここで止めて」


 冒険者が壁のようにひしめき合い、その冒険者越しに魔物の大群が見える位置に到着する。

 迫りくる魔物はどれもランク2以上だ。


 ランク2の魔物はトカゲの魔物でサンドリザードだ。

 魔石以外は使い道がない魔物で、その魔石も解体の手間を考えると冒険者にはあまりうま味のない魔物だ。

 しかしこのサンドリザードは俺の店で買い取り対象なので一体持ち込めば二・三人の宿代くらいにはなる。


 冒険者として儲けが出始めるのはランク3の魔物を倒せるようになってからだ。

 一人で討伐できれば下級貴族にもなれるし、パーティーでもコンスタントに討伐すれば貯蓄もできるだろう。

 ランク2とランク3にはそれほどの差がある。


 突進してくる大量のサンドリザードに照準を合わせ発射!

 ババババババババッ!

 ブローニングM2重機関銃は96式装輪装甲車(クーガー)の上部に固定されている。

 それでも発砲による振動や轟音で内臓がひっくり返るかと思うほどの衝撃を味わう。


 弾丸を浴びた魔物は俺など比較にならないほどの衝撃を受け、何が起こったのかも分からずに死んでいく。

 頭が吹き飛び、胴体が千切れ、四股がもがれて倒れていく魔物を前に冒険者も茫然とする。

 動きが止まらなかったのはブローニングM2重機関銃の威力を知っているリーシアとサンルーヴだけだった。


 皆が俺の方に視線を向ける。

 俺は鉄帽とゴーグルを装着しているので素顔は見えないだろうが、そんな俺を茫然と見る冒険者たちに言いたい。


「魔物はまだまだいるぞ!」


 拡声器を通した俺の大きな声にハッと我に返る冒険者たち。

 ランク2やランク3程度の魔物ではブローニングM2重機関銃の攻撃を耐えることはできないので、どんどん殲滅する。

 そして俺がこじ開けた穴に冒険者がなだれ込む。


 弾が切れたので給弾ベルトを交換する。

 この間は少しだけ銃弾の嵐が止むことになるが、百を超える魔物が死んだので冒険者には余裕がある。

 リーシアやサンルーヴも物凄い勢いで魔物を殲滅しているのが見て取れる。

 相変わらず容赦のない二人だ。


 ブローニングM2重機関銃は百発も撃つと砲身が百数十度から二百度を超えるほど熱くなるが、魔改造をしていることから魔法冷却機能があるので連射の手を緩めることなく撃ち続けられる。

 そして二回目の弾切れになり給弾ベルトを交換していた時に先ほど話した指揮官らしき男が声を掛けてくる。


「こちらは貴殿のおかげでかなり余裕になった。そこで今度は中央を支援していただけないだろうか」


 そう言われれば、魔物の数もかなり減ったように見える。

 それに比べ中央方面の魔物はこの左側の魔物よりも多いのはパッと見ただけでも分かる。


「了解しました。私の二人の妻が前線で戦っておりますが、連れていっても大丈夫ですか?」


 目の届かないところで戦っていると心配で仕方がないのでリーシアとサンルーヴを連れていきたい。

 指揮官が了承してくれたので無線機で二人を呼び戻す。

 こういう場では離れ離れになる可能性も考えて小型無線機を渡している。

 小型なのであまり遠くまで電波は届かないが、今は問題なく電波が届く範囲にいる。


 二人が戻ってきたので後方のハッチを開け収容する。

 そしてそのままセーラの運転で中央に向かう。

 中央は混戦状態で魔物と冒険者が入り混じって戦っている。

 冒険者付近にいる魔物にブローニングM2重機関銃を向けるのは無理だ。

 だからやや離れた場所にいる魔物を狙う。


「これより爆破魔法を連続で撃つ! 大きな音がするが、気にすることなく魔物と戦うように!」


 拡声器を使っているので俺の声は広範囲に聞こえているだろう。

 先ほどはブローニングM2重機関銃の発砲音で冒険者が動きを止めてしまったので今回はあらかじめ警告をした形だ。

 そしてブローニングM2重機関銃による射撃を開始する。

 ババババババババッ!


 サンドリザードを蹂躙していく。

 中央の方が魔物が多かったが何度か給弾ベルトを交換したころには冒険者側の優位が見て取れるようになった。

 そして今度は右側の戦線を支援するようにと依頼を受けそちらに向かう。

 中央と同じように警告を行いブローニングM2重機関銃を撃ちまくる。

 こうしてサンドリザードの密度が薄くなる。


 しかしスタンピードがランク2のサンドリザードだけで終わるわけがない。


 

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