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041_裁判

 


 俺は溜息を吐き、首を左右に振る。


「いいえ、事実無根です」


 それを聞くと俺は下がらされ、代わりにエ・ゲツネー商会の代表者が呼び出される。その時にトモダ・チイーナイと名乗ったもんだから思わず吹き出しそうになった。それをグッと堪え、何とか無表情を保つ。

 まぁ、聞くに堪えないので割愛するが俺が上白糖を奪ったとか商隊を襲ったとか色々言っていたが、このオッサンは肝心なところを無視している。

 そして再び俺が呼び出される。


「ヘンドラーよ、そなたの罪状は明らかだ。罪を認めるか?」

「罪状が明らか? 今のやりとりでどうすればそのようなことが言えるのか説明をしてほしいです」


 俺も色々我慢してきたのだから、そろそろ反撃といきましょうか。


「む、我らを侮辱するか!」

「いいえ、どうすれば私の罪状が明らかになったかを論理的に説明してほしいだけです。それとも説明もできない罪で私を有罪にするおつもりですか?」

「む……良いだろう。ネットーリ殿、説明を」

「はい」


 初老の男性の左横の男性が席を立つ。こいつがネットーリ子爵だ。

 ブラハムのオークションの時に見た顔だ。

 神経質そうで、それでいてがめつそうな嫌らしい顔をしている。

 俺は人を外見で判断する気はないが、このネットーリと良い、トモダ・チイーナイと良い、あまりにもハマり役といった感じだ。


「まず、このヘンドラーなる者が現れた時期とエ・ゲツネー商会の商隊が襲われた時期が合致する」

「時期が同じというだけで犯人というのは暴論ですね」


 俺が正論を言うとネットーリは俺をひと睨みする。


「ふんっ。同じ時期に上白糖を商人ギルドに卸しているのが良い証拠だ!」

「それこそ言いがかりですね。エ・ゲツネー商会が奪われた上白糖と私が持ち込んだ上白糖が同じ物である証拠はあるのですか?」


 証拠は捏造(ねつぞう)できるが、捏造した証拠ならそれが偽物だと言うこともできる。


「これが証拠だ。エ・ゲツネー商会が購入し運送していた上白糖の袋だ」


 ネットーリが出してきた証拠は俺が商人ギルドに卸した上白糖の袋だった。え、それを証拠として出すの? それってどうすれば証拠になるの?


「……」

「ふん、この証拠を目にして声もでぬか!」

「……それで?」

「ん?」

「それで、その袋がどのような証拠になるのですか?とお聞きしたい」


 まさかこの程度で有罪になるなんてあり得ないよな? そんな袋は今やどこにでも出回っているものだし、誰でも手に入れようと思ったら手に入れられる。


「誰でもその袋を手に入れられるほど上白糖は流通しておりますが、ネットーリ様はそんな物を証拠と言うのですか?」

「ワシが証拠と言えば証拠なのだ!」


 あ、開き直ったよ。


「そもそもエ・ゲツネー商会が上白糖を購入し奪われた量はいかほどなのですか?」

「むっ……チイーナイ申せ!」

「は、はいっ!……私どものエ・ゲツネー商会が奪われた上白糖の量は………………」

「……」


 把握できていないのか友達いないさんは冷汗を何度も拭く。


「どうした! 申してみよ!」


 無茶ぶりだ。本来はその程度の情報はあんたが用意して渡すべきだろう。そんな甘いことでよく今まで悪さをしてきて捕まらなかったな。


「え……っと、はい100トンに御座います!」


 おお、言い切ったよ。その100トンという数字がどこから出てきたのか聞いてみたいな。


「うむ、100トンだ。ヘンドラー、これでもまだ言い逃れするか!」


 いや、言い逃れってあんた頭大丈夫か?


「チイーナイさん、100トンは間違いない数ですか?」

「ま、間違いなどない!」

「裁判長、商人ギルドの副ギルド長であるキャサリンさんを証人として召喚したいのですが、よろしいですか?」


 俺は中央に座っている初老の男性の目を見てキャサリンさんの召喚を申し入れる。てか、裁判長で合っているよな?


「何を勝手なことを言っておるか!」

「ネットーリ殿、良いではないか、キャサリン殿の証人喚問を認める」


 裁判長でいいらしい。裁判長はキャサリンさんの証人喚問を認めてくれたので傍聴席に座っていたキャサリンさんの方に振り向き俺の横に来るように頼んだ。


「キャサリン殿、嘘偽りなく発言するように」

「あっは~ん、分かったわ♪」


 うん、裁判でもキャサリンさんの口調は変わらないんだね!

 そのキャラはどうかと思うけど、ぶれない人は好きです!


「ではキャサリンさん、私が商人ギルドに卸した上白糖の総量を把握していますか?」

「ええ、勿論よ~♪ 上白糖は商人ギルドの主力商品ですもの、バッチリ覚えているわ♡」

「その数量を教えてください」

「良いわよ~ん♪ グローセちゃんが商人ギルドに卸してくれた上白糖の総量は320トンよ~♪」

「裁判長、私は商人ギルドに320トンもの上白糖を卸しています。100トン程度ではございません」

「ふむ……ネットーリ殿、どうか?」

「…………す、数量が多いからといって強奪犯ではないと言えまい! 同じ上白糖を卸しているという事実があるではないか!」


 おお、素晴らしい返しだ!しかしだ!


「それはエ・ゲツネー商会にも言えることですね」

「何だと!?」

「キャサリンさん。エ・ゲツネー商会が商人ギルドに上白糖を卸したことはありますか?」

「いいえ~、無いわよ~♪」

「チイーナイさん、奪われたのが4ヶ月前であれば再び仕入れて卸すことは可能ですよね?」

「え、いや……それ……は……」

「裁判長、原告側は何故上白糖を卸していないのでしょうか?」

「う、うむ~……」


 お前たち、いい加減諦めろよ。この程度の返しもできないのに俺を有罪にしようだなんて頭が腐り過ぎだぞ。


「ネットーリ様、もうよろしいですか? 今のチイーナイさんを見れば私が無罪だとお分かりになると思いますが?」

「……う……五月蠅いっ! このワシが有罪と言えば有罪なのだ! お前は有罪だ!」


 お~、出たよ、秘技・逆切れ!

 ネットーリはもう理論的武装ができていないことに気付くべきだ。

 ここまでバカだともう俺が手を下さなくても、って思ってしまう。だけど、ブラハムのことを考えると徹底的に二度と立ち上がれないようにしておかないと、またちょっかいを出してきそうだからな。


「子供のようなことを仰る。それで裁判が左右されるのであれば裁判は必要なのですか?」

「必要はない!」


 急に後ろから声が発せられるとバンッと扉が開け放たれ男性が現れた。見た目はダンディーなオジ様が現れ護衛の兵士たちが剣に手を掛ける。


「ま、待つのだ」


 ダンディーなオジ様に向かって行きそうな兵士を裁判長が抑える。


「久しいな、カゲーウッスイ殿」

「はい、お久しぶりでございますザカライア伯爵」


 ん、ザカライア伯爵? どこかで……あ、ムーセ君の……


「今は裁判中ですぞ、いくらザカライア伯爵といえどもそのような暴挙は許されるものではありませんぞ!」


 1人気を吐くネットーリ。

 しかし何でザカライア伯爵がここに?


「黙れ! セッコイ・ネットーリ子爵、貴様を拘束する。これは王命である!」


 急転直下のことにさすがの俺も呆然だ。


「な、何故ワシが!? お、伯父上、伯父上が黙っていませんぞ!」

「既にスネーク伯爵にも捕縛命令が出ておるわ。悪さをし過ぎたのだ!」


 しかも更にその後ろに居た大物もお縄になっている事実!

 一体全体何が起きているのでしょうか?


「貴殿がグローセ・ヘンドラー殿か?」

「は、はい、私がグローセ・ヘンドラーです。ザカライア伯爵様」

「そう固くならずとも良い。此度は我が国の貴族が迷惑をかけた。奴らの悪事の証拠を押さえるのに時間が掛かってしまい、ヘンドラー殿には迷惑をかけた。許してほしい」

「貴方様が悪いわけではありません。罪をでっちあげ私を拘束したのはこの街の貴族です。どうか頭をお上げください」

「うむ、そう言ってくれると助かる」


 その後はネットーリの関係者が何人も捕縛され俺を訴えていた友達いないさんも連行されていった。

 後日、今回の顛末を聞いたのだが、俺の狙い通り俺が拘束されていた間、俺が卸していた商品の流通が止まってしまい、王都を始め各地の市民や貴族から不満が上がったそうだ。

 その不満は日に日に大きくなり、それを知った国王が今回の件について商人ギルドや代官に詰問したが返ってきた返答が商人ギルドと代官で食い違っていたのだ。

 そこから国王直属の情報部の捜査が始まり、俺が冤罪で捕まっていることが分かったそうで、ネットーリを捕まえようとしたが、その伯父であるスネーク伯爵のこともあり伯爵の方も情報部が粗探しをした結果、出るわ出るわ、伯爵の悪事も国王の知るところとなったわけだ。

 この国の国王はスネーク伯爵の悪事を知らなかったので多少抜けている感じは否めないが根は悪い人ではないようで、今回のことで赤の塔の街の近隣で最も力のあるザカライア伯爵に事態収拾を命じたのだった。

 それとキャサリンさんや冒険者ギルドのマスターにもかなり骨を折ってもらったようで、今回のことで俺は2人に対し更に頭が上がらなくなってしまった。


「キャサリンさんにもご迷惑をお掛けしました」

「何言っているのよん♪ 私とグローセちゃんの仲じゃないの~♡」


 いや、商売上の付き合いだけだからね! 決して私生活ではお付き合いしていませんからね!


 

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