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004_チュートリアル4

 


 魔物との壮絶な戦いを乗り越えた俺は痛む身体を引きずりながらハジメの町を目指していた。


「もうビックリです。最弱の魔物であるホーンラットにあそこまで苦戦するとは思いもよりませんでした」

「……」


 最弱の魔物と言われるホーンラットと二十分に渡る激闘を繰り広げた俺。

 そんな俺に対するナビゲーターさんの言葉が胸に突き刺さる。


「争いごとは苦手なんです」

「そのようですね。幸いスキル構成は非戦闘系なので今後は戦闘を控えた方がよいでしょう」


 戦闘をする気があれば最初から戦闘系のスキル構成にしてますよ。

 暫くナビゲーターさんと無言で歩く。気まずい。

 三十分ほど歩いたか、遠くの方に人工物が見えてきた。もう少し進むとそれが城壁だと分かる。


「あれがハジメの町ですか?」

「はい、ハジメの町を守る壁ですね」


 近付くにつれ壁の巨大さが俺を驚かせる。

 魔物から町を守るためとは言え、こんな大きな壁が必要なのかと今更だが命が軽い世界なんだと気を引き締める。


「ハジメの町にようこそ、身分証もしくはステータスを確認しますので開示してください」


 門の前の列に並んで暫し、俺の番になったのでステータスを開示する。


「問題無いですね、通行税は二千円です」


 今更だがこの世界の通貨は『円』だ。

 ただし紙幣は流通しておらず硬貨ばかりで一円が銅貨一枚、後は十倍ずつ桁が上がっていく。

 銅貨から見ると大銅貨、銀貨、大銀貨、金貨、大金貨、ミスリル貨の順に価値が上がっていく。

 つまりミスリル貨一枚で百万円の価値となる。


 門番は丁寧に対応してくれた。

 だが俺のことはチェックしたがナビゲーターさんのことは一切放置だったのでおかしいなと思いナビゲーターさんに聞いてみた。


「私の姿は他の方には見えませんし声も聞こえませんので」

「つまり俺は他の人から独り言が多い変な人だと思われている、ってことかな?」

「おそらくは」


 入門待ちしている時にナビゲーターさんと普通に話していたっけ。

 つまり周囲の人からは独り言をブツブツ言う危ない奴だと思われていたのだろう。

 今後は気を付けようと思います。


 町の中に入って驚いたのはヒューマン以外の種族が多いということだ。

 エルフやドワーフ、それに獣人もいるけど、その程度では驚かない。

 何に驚いたか、それは町の中に普通にゴブリンやオークが居るのだ。

 小人かと思ったらゴブリンだったし、豚の獣人かと思ったらオークだった。


「知能が高く人語を話す亜人はこうして街中で暮らす方も多いですね」


 ちょっとしたカルチャーショックを受けた。


 ナビゲーターさんの案内で教会にやってきた。

 初老のシスターに職業に就きたいと言うと教会の奥に通してくれ小部屋に入った。


「そちらのマリア様の像に祈りを捧げてください。さすれば選択可能な職業が頭に浮かんできます」


 初めてだと言うと親切に教えてくれるシスターに礼を言ってあの金髪さんの像に祈りを捧げる。

 しかし金髪さんてマリア様って言われているんだな。


 無神論者の俺はお正月に初詣をしたりイベントがなければ神仏に祈ることはない。

 だから祈り方など知らないのだ。

 取り敢えず金髪さん像の前に跪いて手を合わせ目を瞑る。

 そして心の中で「職業を与えてください」とシスターに聞いたように祈る。

 頭の中に色々な職業が浮かび上がってくる。

 ステータスの時もそうだがこういう所は非常に便利な世界だ。


 現れた職業は『短剣使い』や『剣士』などズラズラと並んでいる。

 職業を一つ一つ確認していく。意外と多い。

 しかし近接戦闘系の職業が『短剣使い』と『剣士』しかないとはどれだけ俺は前衛に向かないのだろうかと思ってしまう。

 それに魔法系の職業もほとんどない状況だった。


「どうですか? 希望の職業はありましたか?」


 俺が職業選びに時間を掛けていたので思い通りの職業がなかったのかとシスターが声を掛けてくる。


「選択できる職業が多くて迷っていたのです」

「まぁ、貴方もですか?」

「ん?」

「今日は職業に就きたいと希望される方がいつもより多いのですが、皆さん一般的な方より選択できる職業が多いようなのです」


 これは俺と同じ地球人が転移してきてこのハジメの町で職業に就いたのだろう。

 ナビゲーターさんの顔を見ると頷いたので間違いないと思う。


「そうですか、偶然が重なるものですね」

「はい、皆さんに神のご加護がありますように」


 シスターとの会話を終えて職業の確認作業を再開する。

 シスターが後ろに居るのでナビゲーターさんに相談したくても話ができない。

 俺だけで職業を選択しなければならない。

 ここに来るまでに色々聞いていたし方向性も決まっていたので三種類の職業に絞り込みができた。

 生産系が一つと商人系が一つ、そして戦闘系が一つだ。

 生産系は【革細工マスター】、商人系が【大規模商人】、戦闘系が【テイマー】となる。

 生産系には【鍛冶師】とか【縫製師】など色々あったが上位職の『マスター』と付いていたのが革細工しかなかったから【革細工マスター】が残った感じだ。

 商人系の【大規模商人】と戦闘系の【テイマー】も上位職になる。


 三つの上位職の中から何を選ぶか、この選択が一番迷う。

 生産系の【革細工マスター】は金髪さんにもらった特典である能力編成画面で器用を上げているので能力的には相性が良い。

 商人系の【大規模商人】もユニークスキルである【通信販売】を取得していることから俺とは相性が良いだろう。

 残る戦闘系の【テイマー】だけは唯一戦闘系で上位職があったので最終選考に残した。

 この世界で生きていくうえで進んで戦闘に関わろうとは思わないが、戦闘が不可避の場合もあるから残った職業だ。


 結局十分ほど悩んだ末に俺は【テイマー】を選択した。

 生産がしたければ【魔道具作成】で普通に造れるだろうし、商人も【通信販売】を使えば何とかなりそうだった。

 しかし戦闘は得意ではないのがホーンラットとの戦いで十分に分かったので、【テイマー】なら何とかならないかと期待しての選択だ。


『職業に【テイマー】が選択されました。能力『魅力』に補正が与えられます。アクティブスキル【テイム(E)】を覚えました』


 アナウンスが流れるんだね。


 氏名:グローセ・ヘンドラー

 職業:テイマー・Lv1

 情報:ヒューマン 男 20歳

 HP:150(C)

 MP:155(EX)

 筋力:30(C)

 耐久:25(C)

 魔力:20(C)

 俊敏:25(C)

 器用:100(S)

 魅力:70(S)

 幸運:100

 アクティブスキル:【鑑定(S)】【偽装(B)】【魔道具作成(E)】【テイム(E)】

 パッシブスキル:

 魔法スキル:【時空魔法(E)】

 ユニークスキル:【通信販売(E)】

 犯罪歴:


 【鑑定(S)】対象の情報を視認でき、上位ランクでは隠蔽系や偽装系のスキルも見破る可能性がある。

 【偽装(B)】対象の見た目やステータスを偽装でき、看破系や鑑定系などのスキルを誤魔化すことができる。

 【魔道具作成(E)】魔道具を作成する時にスキルアーツを使用可能。

 【時空魔法(E)】時空魔法自体が高位の魔法のため、非常に珍しい。空間操作や時間操作ができる魔法。

 【通信販売(E)】通信販売自体が極めて特殊なスキルで珍しい。使用者が認識している世界の商品をスキル上で売り買いできる。



 能力の『魅力』の値が上がって更に成長補正も『S』になっている。

 やはり【テイマー】は魅力系の職業なんだね。

 シスターに長々とお邪魔したお詫びを言い、次は商人ギルドに向かう。


「人前でナビゲーターさんと話すのは厳しいので何か良い案はないかな?」

「ありますよ」

「へ? あるの?」

「はい、私をグローセ・ヘンドラーさんの補助スキルとして取り込んでしまえばグローセ・ヘンドラーさんと私は一心同体となりますので声に出さなくても心の中で会話ができます」

「……それってナビゲーターさんが消滅してしまうの?」

「いいえ、そうではありません。グローセ・ヘンドラーさんが私を取り込んでも私は役目を終えるまでグローセ・ヘンドラーさんの中で生きることになります」


 へ~便利なんだ。どうせチュートリアルが終わるまでの間なんで取り込んでも良いか。


「ナビゲーターさんを取り込むにはどうすれば良いのかな?」

「はい、私の核付近に手を当てて『統合』と唱えてください」

「その核ってのはどこにあるの?」

「ここです」


 ナビゲーターさんがここだと指さしたのはそのボンバーな双丘の一つで、所謂心臓がある付近だった。


「……ちょっとそこに手を当てるのは……」

「それ以外に方法はありません」


 良いのか? いくらナビゲーターとは言え超絶美人でナイスバディの豊満な胸に手を当てて良いのか?


「ひ、人前では……」

「グローセ・ヘンドラーさん以外には私は見えていません。早くしないと日が暮れますよ?」


 サッパリとした性格なのか、羞恥という感情がないのか……人目がなくても俺が照れるっつーの。

 だが、ナビゲーターさんが言うように早くしないと日が暮れそうなのは確かで、ここは一つ俺のチェリーな心を奮い立たせナビゲーターさんの核を触るとしますか。

 そう、これは核なんだ! 決してオッパイではないのだ!

 グググッと手を伸ばす。これは核なんだ、と自分に言い聞かせる。……核は柔らかかったとだけ言っておこう。


「統合」


『ナビゲーターを統合しました。ユニークスキル【ナビゲーター】を取得しました』

『以後、よろしくお願いします。マスター』

「あ、うん、よろしくお願いします」

『心の中で会話ができますので声に出さなくても大丈夫です』

『あ、そうだね。こうかな?って、呼び方が変わってない?』

『はい、統合されたことでグローセ・ヘンドラーさんとより強い繋がりを持ちましたので呼び方も変えてみました』

『そうか。うん、分かった』


 ナビゲーターさんを俺の中に取り込んで商人ギルドに向かう。

 ただ心の中での会話に直ぐには慣れず、俺が一人でブツブツ言っているのを怪訝な顔をして避ける人が多かったのは見ていない……そう、見ていないんだ!


「いらっしゃいませ、商人ギルドへようこそ」


 中世ヨーロッパのような街並みのハジメの町の中に来て多くを見たわけではないが、これまで見た中で間違いなく最大の巨大建物が商人ギルドのギルド会館だ。


『冒険者ギルドや職人ギルドなどの有名ギルドと並んで世界有数の規模を誇っているのが商人ギルドです』


「すみません、こちらで商品を売れると聞いたのですが?」

「商品の販売ですね。商人ギルドには登録されていますか?」

「登録はしていません。登録が必要ですか?」


 このハジメの町ではヒューマン以外の種族も見た。

 そして目の前にいる商人ギルドの綺麗な受付嬢は犬耳の獣人だ。うん、もふもふしたい!


「はい、商人ギルドに登録していない方とは取引ができませんので」

「では登録をお願いします」

「ありがとうございます。申し訳ございませんが、ステータスを確認させてください」


 俺は偽装したステータスを犬耳の受付嬢に見せる。

 犬耳受付嬢さんは俺のステータスを見てカウンターの下で何かを書いているようだ。


「ありがとうございます。ヘンドラー様。当ギルドに登録されます商人の方の身分は大きく分けて4種類あります。1つ目は大規模な商売をされ規模の大きな店や複数のお店をお持ちの方向けの一種販売登録、2つ目は小中規模の商店を1店舗だけお持ちの方向けの二種販売登録、3つ目はこのハジメの町内で露店を開く方向けの三種販売登録、そして最後に当ギルド又は店を開いておられる商人にのみ商品を卸す方向けの四種販売登録になります」


 四種類を一気に説明する犬耳の受付嬢さんは説明を更に続ける。


「一種販売登録、二種販売登録、三種販売登録に関しては金額の差はありますが年会費が発生します。しかし四種販売登録には年会費は発生しません」

「何故四種販売登録だけ年会費が発生しないのですか?」

「四種販売登録の卸業は一般顧客を相手に商売をするのが禁止されております。これは一種販売登録者、二種販売登録者、三種販売登録者を守るためでもあります。卸業に他の商人と同様に登録料や年会費を徴収すれば他の商人と同様に一般顧客向けの販売権を要求される場合があり、そのための処置です」

「つまり一般顧客に対し直接販売を要求することが過去にあった、わけですね?」

「はい、四種販売登録者の方は独自の仕入れルートを持っており他の商人より安価で大量に商品を購入される方が多いので、一般顧客へ直接販売すれば他の登録者の存亡にかかわるわけです」

「しかし一種、二種、三種販売登録者が生産者などからの直接仕入れるルートができれば四種販売登録者が困るのでは?」

「ええ困ります。ですから四種販売登録者からは年会費を徴収しませんし、国への納税率も他の商人よりも低くなっております」


 一般顧客への販売を許さない代わりに年会費と税率で恩恵を受けるわけか。

 まぁ、住みわけができているってことだな。


「一般人が商人に商品を売る時は一般人が税を払うのですか?」

「いいえ、商人が一般人から仕入れた商品を売る時には必ず税がかかってきますので、それをもって税を支払ったとみなされます」

「なるほど……商人の方はそれで構わないでしょうが、登録をされていない方が同じく登録されていない方に商品を売る場合は想定しているのですか?」

「例外はあります。小さな村などではいまだ物々交換の風習もありますので限度はありますが黙認する場合が多いです。但し大きな金額が動く場合は商人以上の税率が課せられますし、脱税をした場合は連帯責任として親族や周囲の家の方にも罰が科せられますので滅多なことはないと思います」


 犬耳の受付嬢さんは流ちょうに噛むことなく俺の質問に答えてくれた。


 

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