036_やり過ぎ生産と痩せた子供たち
「ルルとデイジーに話がある」
「「何でしょうか?」」
店が終わり食事を済ますと二人をリビングに残す。
二人は何事かと神妙な表情だ。そんなに硬くならなくても大丈夫だから。オジサン優しいからね。
「実は店員を増やそうと思っているんだ」
「店員を、ですか? でも店は二人で十分ですが……」
魔物買取店は二人で十分なのでルルは増員は不要だと言う。デイジーもルルと同じことを考えているのか頷く。
「うん、分かっている。だから新しく雇う店員がものになったら二人は独立する気ないかな?」
「……それはクビということでしょうか?」
「何かオーナーの気に障ったことをしましたでしょうか!?」
二人はクビだと思ったらしく目に涙を浮かべている。
「いやいや、二人は良くやってくれているし、クビになんかしないよ!」
「「では!?」」
「勘違いしているようなので訂正させてもらうけど、二人は自分の店を持つのが夢だって言っていたでしょ?」
「「はい」」
「だから自分の店を出さないか、と思ったわけだよ」
「誰のです?」
「君たち二人の店だよ」
「「……」」
固まる二人。
若い女性が口をポカンと開けて……そんな顔しちゃ~だめだよ。
「正確には君たち二人が店を出す資金を援助すると言っているんだ。勿論、融資したお金は利子をつけて返してね」
「し、しかし、私たちはまだ店を出す頭金もそんなにないので……」
「それは心配しなくてもいいよ。店は俺が購入して二人は賃貸料を俺に支払う形にしようと思っているし、開店に必要な資金に開店から数ヶ月分の運用資金は融資するから」
融資に対する利子は年利0・5%。融資で儲けるのが目的ではないので形ばかりの利子を取る。
後はルルの雑貨屋でもデイジーのレストランでも商品や材料はできるだけ俺から仕入れる形をとれば表向きに低利の言い訳もつくだろう。
「そんなに好条件で良いのですか?」
「私たちは嬉しいのですが、店を出しても繁盛する保証はないのですよ?」
「うん、だから俺から仕入れてほしいんだ。他所にはマネできない商品や素材を用意するからさ。返事は直ぐにしなくていいから、暫くじっくり考えてみてよ。あ、従業員を増やすのは確定だけど、二人が独立しなくてもクビにはしないから安心してくれていいからね」
人生の大転機になるかもしれないことなので二人にはしっかりと考えて返事をしてほしい。
独立したはいいが二人が不幸になるところは見たくないからね。
翌日、二人には店をいつも通りに開けてもらう。
俺は午前中はマジックアイテムの生産をする。
リーシアとサンルーヴはブラハムや時間の空いている冒険者の護衛たちと庭で訓練をし、セーラは俺の生産の手伝いをしてもらう。
実を言うと俺のスキルで付与に向いているのは【時空魔法】しかない。
だから賢者様であり複数の属性魔法を操るセーラに最後の仕上げである付与のところを手伝ってもらっているのだ。
作ろうとしているのは以前俺がたった一回で破壊してしまった火の杖だ。
エビルオークの枝の中心を細くくり貫き魔銅で作った細い針金を差し込む。そして真っ赤な赤水晶を杖の頭に付けると杖自体は完成だ。
この杖でファイアボールを発動できるようにするためにセーラにはファイアボールを放つときの魔力を俺に流し込んでもらい、俺はその魔力を杖に付与するのだ。
正に俺とセーラの共同作業なのだ!
種類:火の杖(国宝級)
説明:ファイアボールの発動体。MP消費量は5から50で、MP5でもランク4の魔物を殺せるほどの威力を誇る。
うむ、何故かハイスペックになってしまう。
これはストレージに仕舞って再び同じ工程を繰り返す。勿論、上級や特級止まりになるようにイメージを少し劣化させる。
種類:火の杖(特級)
説明:ファイアボールの発動体。MP消費量は5から50で、MP5でもランク3の魔物を殺せるほどの威力を誇る。
種類:火の杖(上級)
説明:ファイアボールの発動体。MP消費量は5から50で、MP5でもランク2の魔物を殺せるほどの威力を誇る。
上級でもランク2の魔物を殺せるほどの威力があるが、中級だとランク1の魔物を殺せるし、下級ではそれ以下のダメージだ。
次は材料をランク4の魔物であるオールドトレントの枝とミスリルの針金、そして炎属性の魔結晶を使う。
因みに魔結晶とは複数の魔石を結合させるとでできる物で高品質のマジックアイテムにはよく使われるらしいが、これを作るのは非常に難度が高いそうだ。
でも俺はランクDになった【魔道具作成】によってこの魔結晶を作れるという。【魔道具作成】もチートになってきたよ!
種類:獄炎の魔杖(伝説級)
説明:炎系魔法の発動体。炎属性魔法の威力三倍、炎耐性(大)、魔素吸収。
うん、こうなると予想はしていたけど伝説級ができるとは思っていなかったよ。
これはセーラに使ってもらおう!
「私にですか!?」
「うん、これはセーラに使ってほしいな」
「はい! ありがとうございます!」
セーラは嬉しそうに獄炎の魔杖を抱きかかえる。
「さて、そろそろ食事にして商業ギルドに行かないとね」
「はい、では皆にそう言ってきます!」
スキップしながら作業場を後にするセーラがとても可愛い。
いつもはどちらかと言うとクールビューティーって感じだけどセーラも16歳の女の子なんだと後姿を見ながら思う。
昼食を早々に摂り、リヤカーにコピー用紙1万枚とボールペン500本を積み込む。
そのリヤカーをリーシアに引いてもらい約束の昼前に間に合うように商業ギルドに向かうがその途中であまり気分が良いとはいえない光景を目にする。
それは奴隷と思われる子供たちが奴隷商店の裏口から店の中に移動させられている光景だ。
俺は奴隷制度を肯定も否定もしない。
リーシアも元は奴隷だし、今はブラハムが俺の奴隷になっている。
ブラハムは犯罪奴隷なので俺の勝手で奴隷から解放することはできないので、そのままにしてあるけど。
そして俺とリーシアが目にしたのは痩せ細った10歳にも満たないような子供たちだ。
そのあまりにも栄養状態が悪い子供たちの姿を見ると俺でも嫌悪感を持ってしまう。
「主よ、俺が言うのも何だがあの子供たちを救おうと思わぬことだ。そんなことをしても同じ境遇の子供はどこにでも居るのだ」
「……分かっているよ……でも、何だかやるせないな」
ジーっと奴隷の子供たちを見ていた俺にあの子供たちを救っても同じような子供は世界中に溢れているのだと言うリーシアの声が俺の心に刺さる。
分かってはいる。分かってはいるのだが、何かできないかと思ってしまう。
「それに奴隷ならまだマシだ。少なくとも食事は与えられるのだからな」
「……それは、つまり?」
「世の中には孤児だって大勢いるのだ。その子供たちは食事も寝る場所もないのだ」
むむむ、確かにそうだ。
……この世界には孤児院はあるが、受け入れできる孤児の数には限りがあるので街中でストリートチルドレンとなっている孤児は多い。
そんな孤児や奴隷の子供たちを俺が救えるなんて思っては思い上がりも甚だしいと言えるだろう。でも何とかならないか、何とかできないか、と考えてしまう。
「主、キャサリンとの約束の時間に遅れるぞ」
「あ、ああ、分かった、行こう」
スッキリしない心を抱えておれは商業ギルドに向かった。
そして商業ギルドの受付嬢にキャサリンさんとの約束があると取次ぎを頼むとほぼ同時に彼……彼女が出てきた。
「待ってたわよん♪ 早速だけど納品を済ませてしまいましょう♡」
パチクリと音が聞こえるんじゃないかと思うほどのウィンクが俺を貫く! 俺、暫く動けません!
などと言っている場合ではなく、この後には面接があるので早速コピー用紙1万枚とボールペン500本を引き渡す。
「グローセちゃん、ちゃんと確認したわ♪ これが代金と売買証明書よ♡」
「ありがとうございます。またお願いしますね」
「勿論よ♪ こちらこそよろしくね♡」




