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031_落札

 


 いつでもどこでも俺は俺だ。

 仕事などしなくてもいいのであればしたくないし、面倒なしがらみから抜け出して引き篭もって生きていけるのならそうしたい。だけど人は1人では生きていけない。最近は特にそう思う。

 1人で生きていくということは思っている以上に寂しいもので、俺はその孤独に耐えられそうにない。それに今の俺には守りたいと思う彼女たちが居る。

 俺に初めてできた家族。リーシア、サンルーヴ、セーラ。

 彼女たちと居ると心がワクワクするんだ。そして俺を癒してくれる俺の妻たち。

 そんな妻たちが誰かに強姦されそして殺されたら俺なら正気を保てないのではないだろうか? もしそんな立場に立ったら俺はどうなるのか……そしてどうするのだろうか……。


「主、もうすぐ時間だ」


 商業ギルドへ大量の商品を卸し、更に【通信販売】で魔物を大量に販売したお陰で資金は潤沢にある。今日この日のために俺は準備をしてきたのだ。


「ああ、行こうか」


 リーシア、サンルーヴ、セーラの3人を連れてオークション会場である商業ギルドに入る。

 オークションの出品はいつも同じ順番というわけではないようで今回の競に最初に登場したのはスキルだった。

 気が引かれるスキルもあったがそれらをスルーして奴隷の競を待つ。


「本日はハムラ盗賊団が一網打尽となりましたので犯罪奴隷が多く出品されています。では最初の犯罪奴隷は―――――」


 奴隷の競が始まった。

 雑魚たちはいずれも安値で買われるが、隠密系のスキルが有ったりすると少し値が上がる。競り落とされなかった場合は鉱山へ送られたり劣悪な環境下での労働を強いられることになるそうだ。


「さて、最後になりますが、最後に相応しい奴隷をご紹介できると存じます。この犯罪奴隷は元冒険者であり単独でランク4の魔物を討伐できる猛者でした。現在は足の古傷によって連続した戦闘には向きませんが瞬間的な力は今も健在です」


 ブラハムが最後に登場する。

 司会も勿体ぶりながらブラハムの値を少しでも上げようとしているようだ。

 そして開始値が告げられるとどよめきが上がる。強力な戦力となるとはいえ30分ほどしか戦闘できない犯罪奴隷に何と1000万円の開始値が告げられたのだからどよめきが上がるのも無理はないと思う。

 それまでの犯罪奴隷たちの落札価格の最高値が300万円なのでかなり破格の金額となる。

 競は進み2700万円まで上がると競っているのが3人となった。

 1人目は商人風の小太りの男性で自分の護衛にでもするのか強気に競に参加している。

 2人目は綺麗な身なりのマダムで競の参加理由は分からないがこちらも引く気はないようだ。

 3人目は豪華な服に身を包んだいかにも貴族という感じの男性、こいつがブラハムの嫁を攫った貴族なのだろう。



 氏名:セッコイ・ネットーリ

 職業:子爵・Lv12

 情報:ヒューマン 男 46歳

 HP:40

 MP:60

 筋力:15

 耐久:15

 魔力:20

 俊敏:15

 器用:20

 魅力:0

 幸運:40

 アクティブスキル:【悪だくみ(D)】

 パッシブスキル:【偽装(C)】

 犯罪歴:収賄、脅迫、誘拐、強姦、殺人

 称号:【腐った貴族】



 何というかもうアウトなのがステータスで分かるのですが……。

 パッシブスキルに【偽装(C)】があるからなのか犯罪歴が隠されているようで鑑定系のランクが高くないと見破ることはできないようになっている。

 しかしこんな奴が貴族で好き勝手している国は末期症状じゃないか?


「5000万!」


 セッコイが5000万円をコールした。他の2人を見るとさすがに余裕の表情とはいかないようだ。


「5500万」


 だから俺が5500万円をコールしてやった。

 セッコイが後方の席に座っている俺の方に視線を向ける。蛇のような気持ち悪い目をしている。


「6000万だ」

「7000万」


 奴がコールすると俺はすかさず7000万円をコールする。この程度の金額なら今の俺にとって大した金額ではない。


「7500万」

「8000万」

「9000万」

「1億」


 奴のコールに合わせて俺は金額を釣り上げていく。俺が1億円をコールするとさすがに考えたのかコールを躊躇うセッコイ。

 何度か俺の方を振り向き気持ち悪い視線を送ってくる。


「……1億5千万だ!」

「2億」


 貴様には競り落とさせない。貴様にだけはな。


「に、2億が出ました……他にありませんか?」

「2億1千だ!」

「3億」

「ぐっ!」


 この日のために血の滲むような……そこまでは無いけど膨大な資金を用意してきたんだ、貴様には負けん!


「3億、他には……」


 セッコイは口を開くことはなかった。そしてブラハムは俺が落札した。

 この程度ならスキルに手を出せたのでオークションの順番を逆にしてほしかったと今更ながらに思う。


 取り敢えずブラハムを俺の奴隷として契約をした。


「あんた本気か? セッコイを敵に回してどうするつもりだ?」

「まぁ、そう思うのも仕方が無いけどこれからのことはこれから考えるよ」


 そういえばセッコイと敵対してどうしようとか考えていなかったよ。まぁ、なるようになるさ。最悪はこの国を出て他の国に行けばいいのだしね。


『マスター、敵対勢力の反応が商業ギルドの外にあります。数は8です』


 俺はランクが1つ上昇した【サーチ(D)】を使用して周囲のマップを視界に展開する。確かに商業ギルドの周囲に赤●の反応が8つある。


『商業ギルドを出てすぐに襲ってきそうか?』

『判断つきませんが、襲撃を予想しておいた方がよろしいと思います』


 まったく、どこまで腐っているんだ。


「仕方がない。あまりこういうことはしたくなかったが、あの人に頼むか」

「どうかしましたか?」

「う、いや、ちょっとキャサリンさんに会いに行こうとね」


 商業ギルドの副ギルド長であるキャサリンさんなら奴らに見つからないように俺たちを外に出してくれるんじゃないかと思うわけだよ。


「あらグローセちゃん、先ほどは随分と尖っていたわね♪ そんなグローセちゃんも、す・て・き・よ❤」


 受付嬢にキャサリンさんに会いたいと言うと応接室に通され、少しまつとキャサリンさんがやってきた。相変わらずのゴスロリ筋肉さんだ。


「良い人材を手に入れるのに金を惜しむ気はないですよ」

「優秀な人材はとても貴重よ。でも命を懸けるのは頂けないわねぇ❤」


 どうやら彼女……キャサリンさんもセッコイのことを分かっているようだ。


「ええ、ですからキャサリンさんにお願いがあるのです」

「あら、何かしら?♪」


 俺たちはキャサリンさんに協力を仰ぎ商業ギルドを無事出ることができた。

 しかし、執念深そうなセッコイのことだから必ず俺たちの居所を突き止め何かしらのちょっかいを出してくるはずだ。だから翌日には冒険者ギルドに赴きギルド長にも協力を要請した。

 商業ギルドと冒険者ギルドは国や自治体と繋がりはあるが下部組織ではなく、対等な立場なので貴族の圧力には屈しないどころか逆に圧力をかけられるほどの組織力を持っていると聞く。

 だから俺はその2つの巨大組織に協力を要請したわけだ。


「ほう、構わんがそれでいいのだな?」

「ええ、構いません」


 

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