030_同情
盗賊たちを冒険者ギルドに引き渡した翌日、俺はギルド長と会談した。
「では、盗賊たちは奴隷となるのですね?」
「ああ、頭だったハムラと後を引き継いだモブダーは死罪で、他の奴は全員奴隷だ」
「ブラハムも奴隷ですか?」
「ああ、アイツは頭でも幹部でもないからな……」
ギルド長の表情を見るとどうやらブラハムの過去を知っているようだ。
「ギルド長はブラハムの過去を?」
「ああ、知っている。証拠さえあればあの腐れ貴族を潰してやれるのだが、奴は狡猾でな……」
貴族を潰せるだけの証拠があればブラハムも最初からそうしていただろうが、残念ながら貴族は尻尾を掴ませないようだ。
「その貴族は今でも健在ですか?」
「ああ、憎まれっ子世に憚る。ってやつだな」
この世界でも日本の諺が使われるのだな、と少し感慨深い思いになる。
俺の心情はともかく、今でも健在な腐れ貴族への復讐に失敗したブラハムが捕まり奴隷になればどうなるか……言わなくても分かることだな。
リーシアと互角に戦えるほどの人でも奴隷となってしまえば主になった人に逆らうのは難しい。あ~嫌だ、想像したくないな。
「ブラハムは今度のオークションに出品される。ランク4の魔物を単独で討伐できたほどの奴隷だ、古傷があって全力の戦いが制限されるとは言え落札価格は1億を超えるだろう」
ギルド長は何故そのようなことを俺に言うのだろうか。……俺に期待されても困るよ。そんな目で見るなよ。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
久しぶりにゆっくりした時間を過ごす。
だから以前インスに聞いてうやむやになっていたことを考えてみようと思う。
あの管理者さんが言っていた10人は地球に帰れるという話。インスに最初聞いた時は回答の許可が得られないと断られ、インスがバージョンアップして聞いた時にはこの世界にある10を探せと言われた。
じゃぁ、10をどうやって探すのか? この赤の塔の街には赤の塔というダンジョンを研究している研究者や学者が多く住んでいるらしく図書館があるらしい。しかも結構多い蔵書数らしいので、図書館で10という数字を探してみる。
この世界の図書館の中は日本の図書館とあまり変わりはないようで、温度管理がされており静かで昼寝にはもってこいの環境だ。
俺は一応の礼儀として司書に聞いてみる。
「すみません、10という数字に心当たりはありませんか?」
「はい? ……10ですか?」
綺麗なブロンドの髪を短くまとめ、黒ぶちメガネをかけたいかにもインテリ風な20代と思われる女性司書は何言っているんだコイツみたいな目で俺を見る。
「ありませんよね、10に関係する本なんて……」
「…………ありますよ」
え、あるの?
「黒エリアの22棚の上から5段目を探してみてください。古代のダンジョンという本があります」
「古代のダンジョン……ですか」
取り敢えず指定された本棚を物色すると六法全書のような分厚さの黒い本の背表紙に古代のダンジョンと記載があったので手に取ってみる。
パラパラと数ページめくってみると気になる言葉を見つけた。
「古代より存在するダンジョンは地上に8ヶ所、空中に2ヶ所あり、古の神を祀る神聖な場所である……か、まさかこんなに簡単に10に関係することを見つけるとは思ってもいなかったよ」
『インス、古代のダンジョンを踏破すれば地球に帰れるのか?』
『マスター、申し訳ありませんが肯定も否定も致しません』
肯定も否定もしないか……今までの回答とは明らかに反応が違う。正解の可能性が高いと見た!
その後も読み進めると赤の塔は古代のダンジョンの1つであると記載があった。まぁ、当面はこの赤の塔の街を拠点に活動するつもりだったから良いけど、今後は地球出身の奴らが赤の塔に集まってくることも考えておかないといけないな……あの3人娘もいずれはここを訪れるだろうから、注意が必要だな。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
さて、10について目途が付いたので直近の問題を解決するための段取りをしますかね。
今の俺がクリアするべき問題は3つだ。
1つ目はオークションでブラハムを落札するための資金を得る必要がある。何でブラハムを落札するのかと聞かれれば、さすがにあんな話を聞かされて腐れ貴族にブラハムを落札させるのは許せない。
俺が用意できる資金を全て使ってでもブラハムを落札してやろうと思う。
2つ目は商業ギルドのキャサリンさんから提案があった特別会員の条件である3億円分の商品を商業ギルドに卸すというものだ。
これは1つ目にも絡むが商業ギルドが悲鳴を上げるほど卸してやれば3億円どころかブラハムの落札資金については何とでもなると楽観視をしている。
3つ目は赤の塔の探索だ。この世界に飛ばされた1000人にとって古代のダンジョンが地球に帰る鍵なのはまず間違いないだろう。
しかし問題は古代のダンジョンを踏破してダンジョンマスターを倒せばいいのか、それともダンジョンに対して何らかのアクション条件があるのか、そこのあたりがよく分からない。
ただ、分からないからと言って放置するわけにもいかないので、できるだけ探索を進める必要があるだろう。
そしてもし誰かが地球に帰ったとしてその情報が俺たちに伝わるのだろうか? もし誰かが赤の塔で地球に帰る条件を満たし帰ったとして、他の人がそのことを知ることはできるとは思えない。
あの管理者がそんな甘いことをするとは思えない。
つまり早い者勝ちで条件を満たす必要があると思うのだ。
って、俺は地球に帰る必要なんてないんだった……そう考えると誰かを地球に帰すための手助けを……いや、そんな甘々な考えがあの管理者に通じるとは思えないが……この件は考えるのを保留だな。
取り敢えず赤の塔の探索を進め後は展開を見て動こう。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
毎日商業ギルドに通い既に3億円の商品を卸し終えた。
今は更なる資金調達のために商業ギルドに大量の絹織物などを持ち込んでいるのだ。
商業ギルドの副ギルド長であり強烈な個性を醸し出しているキャサリンさんは縫製部の統括部長も兼任されているそうで、俺が反物を卸すととても喜んでくれる。
何でもキャサリンさんはあのゴスロリの服を自分でデザインしてブランドを立ち上げているそうで、手触りの良い絹織物を気に入ってくれた。
だから絹のレースを持ち込んだら小躍りして、と言うか本当に踊ってたよ。
「うんも~、グローセちゃんたらこんなに良い物を持っているなら早く言ってよね~♪」
「お気に召したのでしたら嬉しいです」
「他に何か面白い物はないの? グローセちゃんならもっと出てきそうで私濡れてきちゃうん♪」
商人として、取引相手として、はいいのだが、このクネクネした動きにパチクリと音がするウインクは勘弁してほしい。俺の精神がゴリゴリ削られる音がする……。
取り敢えずキャサリンさんとの商談を終えて店に帰る。そして昨日買い取った魔物の死体が倉庫に山となっているのでそれをストレージに回収し【通信販売】で売る。
あれ以来、オークション用の資金を得るためにランク1とランク2の魔物の買取金額を3割アップしている。所謂買い取り強化期間というやつだ。
利益は減るが魔物の死体は増えるのでその分【通信販売】での取引額は増えるのだ。




