003_チュートリアル3
ステータスについての説明が終わると今度はこの世界について教えてくれたナビゲーターさん。
この世界には魔物が生息しており、俺とナビゲーターさんが立って話をしているこのアルファ草原にも魔物が存在するので注意が必要だと言う。
それなら早く移動したいと思う。
しかし今はチュートリアル中なので魔物に認識されないそうだ。
そこでナビゲーターさんはどこからかリュックサックを取り出し俺に渡してくれた。
中身は着替えと少しのお金にポーションが2本、そしてナイフと縄が入っていた。
「ナイフは腰のベルトに装着できますので着けてください」
いつの間にか着ている服が変わっていたが、ナビゲーターさんに促されるまま腰の右側に装着する。
それを見てウンウンと頷くナビゲーターさん。
スマホなど地球を思い起こすような物は一切ない。
持っていても充電ができそうにないから直ぐに使えなくなる。
いや、【通信販売】で充電器くらいは買えると思うが、どのみち通信はできないだろう。
「ここから東に1時間ほど歩きますとハジメの町がありますので先ずはハジメの町を目指しましょう」
アルファ草原にハジメの町。俺より安直なネーミングセンスだと思う。
「ところで、チュートリアルはどの程度で終わるのですか?」
「はい、ハジメの町でグローセ・ヘンドラーさんが職業に就き、ギルドに登録するまでがチュートリアルとなります」
「戦闘とかは無いのですか?」
「ありますよ。ハジメの町に行くまでに最低一回は戦闘をしていただきます。他にもお金を使うなどがありますね」
戦闘もあるのか……戦闘系のスキルは取得してないので厳しい。
「戦闘はナビゲーターさんが補助をしてくださるのですか?」
「私が直接戦闘に関わることはありません。ですが最初の戦闘は子供でも倒せる弱い魔物を見繕いますので大丈夫です」
子供でも倒せる魔物なんているのかな?と思いつつ話を進めるナビゲーターさんの声に耳を傾ける。
「では、実際にスキルを使ってみましょうか」
「はい、お願いします!」
この世界のようにスキルが明確になっているのは初めてなので、スキルの使い方を教えてもらえるのは嬉しい。
それにスキルを実際に使うと思うとワクワクする。
「最初は【鑑定(S)】を使ってみましょう。鑑定系はターゲットを定めて『鑑定』と唱えてください」
ほうほう、ターゲットを定めて……足元の草でいいか。
「鑑定!」
ステータス画面のような画面が現れて足元の雑草の情報が表示された。
種類:雑草
情報:ただの雑草。踏まれて少し傷んでいる。
微妙な物を鑑定してしまった。
「どうですか? 見えましたか? 鑑定系のスキルは使用者本人にしか情報が見えませんので他人では分からないのです」
「あ、はい。見えました」
「良かったです。以後は心の中で唱えるだけで表示されます。次のスキルは【偽装(B)】ですね。【偽装】は自分の容姿やステータスなどを偽装できますので先ずは容姿を変えてみましょうか。そうですね、髪の毛の色を赤色に変えてみましょう。心の中で赤毛の自分を想像してイメージを固めてから『偽装』と唱えてください」
赤毛の俺をイメージと……意外とこれは難しいな……よし、やってみるか。
「偽装!」
「……」
「あの、変わりました?」
「ある意味、劇的に変わりましたよ?」
どういうことなのか?と首を傾げる俺に何処からか取り出した鏡を向けてくれるナビゲーターさん。
「……劇的ですね」
「はい」
黒色と赤色のストライプとなった俺の頭髪が斬新だ。
「容姿のイメージが少し曖昧だったようですね。『偽装解除』と唱えて頂ければ解除できます」
解除すると黒髪に戻っていた。
さすがにあの頭で町に行く勇気はない。
この世界にはもっと奇抜な色合いをした人がいるかも知れないが、俺の基準ではアウトだ。
「次はステータスの偽装ですね。取り敢えずグローセ・ヘンドラーさんのスキルは【魔道具作成(E)】以外すべて見えないように偽装してください。それと器用と幸運も下げてくださいね。要領は容姿と同じでイメージして『偽装』と唱えてください」
これは上手くいった。髪の毛は自分自身で見ながらイメージできなかったから失敗したのだろう。
ステータス画面を見ながらナビゲーターさんの言うようにイメージすれば何の問題もなくステータスの偽装はできたのだ。
「はい、大丈夫ですね。次は【魔道具作成(E)】ですが、これは材料がないと作成ができないので後回しにします。ですから【時空魔法(E)】を使っていただきます。まずはストレージです。異空間に繋がった保管庫があるとイメージし、目の前にその取り出し口があるとイメージして『ストレージ』と唱えてください」
イメージ多いな。でもストレージはイメージしやすい。
何たって〇次元〇ケットとかテレビでお馴染みだし、ストレージ自体ファンタジー系の物語ではよく出てくるものだからね。
結果、ストレージは成功した。
取り出し口に手を入れると中に入っている物が頭の中に浮かんでくるようで今回は何も入ってなかったので『所持品0』と浮かんできた。
「次は『スロウ』と『ヘイスト』ですが、これは後からにしますので【通信販売(E)】にいきたいと思います。この【通信販売(E)】は単に『通信販売』と唱えてください」
お、これはイメージないのか。よし、それなら簡単だ。
「【通信販売】!」
唱え終わるとステータス画面似の画面が現れるが、そこには『ログイン』と表示されていた。
「私には見えませんが画面が現れたと思いますので、画面の指示通りに進めてください」
俺はナビゲーターさんに頷き『ログイン』をタップする。
先ず現れたのは認証登録画面で、画面の手形に合わせて手をかざし俺の魔力を込めろと出ている。
指示通りに手をかざしたが魔力ってどうやって込めるんだ?
「あの、魔力ってどうやって込めれば良いですかね?」
「はい、魔力でしたらお腹に力を込めその状態で体を通して掌から魔力を放出するようにイメージしてください」
ここでイメージが出たか!
だが、やるしかない。腹に力を込めて……体の中を魔力が通るイメージを……掌から魔力を放出……
画面に『認証登録が終了しました』って出てきた!
意外とできるものだな。
次にをタップすると『ログインに成功しました』って出てきて『販売』と『購入』などのアイコンが出てきたので、『購入』をタップする。
今度は画面一杯にズラズラとアイコンが並んでおり、そのアイコンは生鮮食品から文房具や武器まで色々とあった。
試しに『調味料』をタップしてみると塩、胡椒からターメリック(ウコン)やハッカクまであった。
塩をタップしたら高級な〇〇の塩から一般的な食塩まで多くの種類が出てきた。
食塩は一キログラムで百十円と表示されているのでこれをカートに入れた。
これどうやって精算するんだろう?
「お金ってどうすれば良いのですか?」
「はい、ログイン後の画面で『入金』をタップしますと入金ができますが、まだ入金はしないでくださいね」
どうやら今の俺の所持金は決して多くないようだ。
しかも8時間経たないと入金したお金を現金化できないらしい。
ただ、取引をすればそのロックも解除されるそうなのでそこまで気にする必要はないそうだ。
だけど、俺は商売を考えているんだから金を持っているうちに仕入れはしたい。
「確認だけど、町に入るのにお金が必要かな? それと商売をするのにはどうすれば良いかな?」
「多くの場合、町に入るには入町税が必要です。これから向かう予定のハジメの町も二千円の入町税が必要です。それから商売をするには商人ギルドに登録しなければなりません」
「その商人ギルドって入会時にお金は要るのかな?」
「登録費用は不要です。しかし一ヶ月以内に年会費を支払う必要があったと記憶しています」
「一ヶ月以内に年会費ですか、いかほど?」
「商売の形態によりますよ。店を出せば店の規模や従業員の数などで変わります」
「店を出さずに卸業をするとしたら?」
「商業ギルドを相手にした卸業でしたら年会費は無料ですが取引毎に十五パーセントの取引税がかかりますね」
年会費無料はありがたいが、毎回十五パーセントもピンハネされるのは痛いな。
利益が出ていれば良いのだろうが利益も出ていないのに十五パーセントなんて払うのは難しいだろう。
「因みにハジメの町の商人ギルドでは塩は幾らで引き取ってもらえるのかな?」
「申し訳ありません、存じ上げません。しかしハジメの町での末端価格は一キログラムで六千円前後だと思います」
「一キログラムで六千円ですか、随分と高いですね」
「内地ですから塩は貴重ですし、塩は商人ギルドが一括して仕入れております。ですから商人ギルドから町内の商店を介し一般家庭などに売られています」
商店が商人ギルドから仕入れる単価の倍で売っているとして三千円の仕入れ。
そうすると商人ギルドは千五百円の仕入れかな。
だから俺は千五百円よりももっと安く仕入れることができれば儲けが出る。
幸い、食塩は一キロあたり百十円で購入ができるので儲けが出る計算だ。
「因みに砂糖の末端価格は?」
「一キログラムで二万五千円程度でしょうか」
砂糖は……通信販売だと白砂糖が一キログラムで三百円。
末端価格から商店仕入れが一万二千五百円、商人ギルドの仕入れが六千二百五十円。
仕入れ価格三百円の白砂糖が六千円オーバーで売れそうだ。
実際に売りに行ったら全然違うかもしれないけど、利益が出るのは間違いないだろう。
「砂糖の方が高いということは塩よりも貴重なんですよね?」
「はい、常に品不足ですし砂糖は塩よりも遥かに遠い土地から輸入していますので希少価値が高いのです」
取り敢えず十キログラムの白砂糖を持ち込んでみて様子を見るとするか。
画面を戻して入金をタップすると目の前にストレージのような空間がぽっかりと空いたので、リュックサックからお金を三千円取り出し入れる。
ナビゲーターさんが「あっ」と声を上げるがそれを無視する。
「もう、何やっているんですか。暫くロックがかかるので入金はダメだって言ったじゃないですか!」
「ゴメン、どうせ商人ギルドに行くんだからついでに商品を卸しても良いかなと思ってね」
「あ、なるほど。だから塩とか砂糖の値段を聞いていたのですね」
ナビゲーターさんも俺の思惑を分かってくれたので十キログラムの砂糖を購入すると俺の目の前にポンと段ボールが現れた。
某通販会社のような梱包だ。
その段ボールを開けてみると先ほど購入した白砂糖が十キログラム分入っていたのでストレージに入れる。
「では次の説明に移りますね。次は戦闘になりますのでハジメの町に移動途中で魔物がおりましたら戦っていただきますね」
気軽に言ってくれるが弱い魔物相手でもこっちは命懸けだ。
ナビゲーターさんがドンドン歩いていくのでその後をついていく。
「あ、ちょうど良い魔物を発見しました」
ナビゲーターさんの指差す先には子犬程度の大きさの白い塊がムシャムシャと草を食べていた。
「あれは何ですか?」
「あれはホーンラットという魔物です。このアルファ草原で出てくる魔物の中で最弱の存在です!」
ナビゲーターさんの言うように短剣を抜き戦闘態勢に入る。
しかし短剣など使ったこともない俺に最弱とは言え魔物に飛びかかるなんてできるわけもなく、どうしようかと迷う。
そしたら業を煮やしたナビゲーターさんが小石を拾い魔物に投げつけた。
小石を当てられた魔物は当然怒るわけで何故かその敵対心がこもった視線は俺に向かっていた。
俺めがけて突進してくる魔物に恐怖を覚える俺にナビゲーターさんは「殺っちゃってくださいね」と黒い笑顔を向けてくる。
最初の一撃は俺の腹部への頭突きだった。「ぐへっ」という声を上げてしまったが意外と痛みは少ない。
「雑魚なんで子供でも倒せるって言っているじゃないですか」
俺が痛みの少なさに呆然としていたのを見たナビゲーターさんのお言葉だ。
確かにこの程度ならあまり脅威にはならないだろう。
気持ちを切り替え魔物に対峙する。