029_襲撃
ヒャッハーと言って世紀末に居そうな人がモニターに映っている。
彼らには監視カメラにどんな機能があるか分かっていないので平気でカメラの前に姿を現してくれる。地球では考えられないことだ。
その世紀末な人が手を振り下ろすと盗賊たちが家の敷地内に入ってこようと動き出す。
そして侵入者を感知した警報がけたたましく鳴り響くことはない。すぐの襲撃が予想できたので警報機は切っておいたのだ。鳴ると五月蠅いので近所迷惑になるからね。
最初に敷地内に入ってきた盗賊は正門を警戒しながら手には剣を持って入ってきた。歓迎してあげよう、盛大にね。
「3番、狙います」
「頼む……撃て」
ダンッ。
音と共に倒れる盗賊。足を抱えて呻いている映像が見える。監視室では銃声は聞こえたがさすがに盗賊の呻き声は聞こえないのだ。
そして盗賊の足を撃った銃は監視カメラと同調している自動小銃だ。【通信販売】で買って改造をし監視カメラと同調できるようにしてあるのだ。
因みにこの改造はインスの発案であり【通信販売】には監視カメラと自動小銃の同調なんて改造項目はどこにもない。インス、ぱねぇ。
監視カメラは赤外線監視カメラなので夜間でも盗賊やリーシアたちの姿をハッキリ捉えているが、撃たれた盗賊たちは何が起きているのか分からないようだ。
「現在、10人を無力化していますが、周辺の盗賊たちは仲間の悲鳴を聞いて警戒して飛び込んでこないようです」
「来ないなら仕方がないな……敷地外の盗賊も攻撃対象に切り替えて殲滅してくれ」
「はい、全員に徹底します」
セーラが通信機で皆に指示を行っている。彼女は司令官として優秀なのだろう、冒険者6人とサンルーヴは次から次に盗賊たちを無力化していく。
そしてリーシアは予定通りブラハムを引き付けている。リーシアの能力はかなり高いのにその彼女と互角に渡り合うこのブラハムという男もかなり強い。何で盗賊なんてしているのだろうか、と思うほどに強い。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「ほう、強いな」
「貴様もな」
リーシアの相手をしている30歳に手が届きそうな男は顔の左側に目立つ傷跡がある。
元々は冒険者をしていたが、ある事件がきっかけで盗賊に落ちることになってしまったこの男はそのまま冒険者をしていれば貴族として何不自由なく過ごしていたであろう実力者だ。
「俺はブラハム。お前の名は?」
「リーシア。グローセ・ヘンドラーの忠実な従者にして愛人だ」
「従者で……愛人か」
「ああ、故に我が主に指一本触れさせはしない」
グローセが聞いていたら「何言ってるの!」と叫びそうな自己紹介だが、幸い監視カメラには音声を拾う機能はない。
「ふっ、従者に手を出す、碌な奴ではないな」
「主を愚弄した罪は重いぞ!」
リーシアは斧を振りかぶりブラハムに叩きつけるように振る。それを紙一重で躱したブラハムはカウンターよろしく剣をリーシアに向けるが、その剣はリーシアの大盾に阻まれる。
そんな紙一重の攻防が続くと周囲が静かになっているのに2人は気が付いた。
「どうやらお前だけになったようだな」
「……そのようだな。まぁ、最初から奴らには期待などしていないしな」
「お前のような男が何故盗賊などしているのだ?」
斧と剣をお互いに振りながらまるで古い友人のように会話を交わす2人。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「残るはブラハムだけとなりました」
「リーシアはよくやってくれたな」
「はい、ブラハムをリーシアが引き付けてくれたおかげで雑魚の掃討に戦力を集中できました」
監視モニター越しに周辺の状況を事細かく確認できた俺とセーラは最後の盗賊となったブラハムとリーシアの戦いを注視している。
「これって援護とかしなくていいのか?」
「サンルーヴなら大丈夫だと思いますが、他の娘たちがこの2人の戦いに入ったら怪我をしますよ」
「じゃぁ、サンルーヴを」
「リーシアが納得しないと思いますが、それでもサンルーヴを参戦させますか?」
「……そうだよな……」
リーシアは戦闘狂なのでこういうギリギリの戦いを楽しんでいるような人種だ。ここに誰かを参戦させれば間違いなく臍を曲げるだろうな……。
だけどリーシアが傷つくところは見たくない……この2人に匹敵するのはサンルーヴしか居ないのは俺にもわかるが、彼女もちょっと前まではブラッドウルフだったためか戦闘狂の血が流れているので、この2人の間に割って入るなんて無粋なことはしないだろうな。
「どうすればいいと思う?」
「見守りましょう」
それしかないか。
ブラハム以外の盗賊たちを縛り上げた後、アンナとインディーの2人に冒険者ギルドに走ってもらい、残った冒険者組には盗賊たちの監視を、サンルーヴには2人の戦いを見守ってもらう。
二人が戦い始めて1時間以上が経過しただろう時にリーシアとブラハムの戦いは唐突に終わりを告げる。
戦いの最中にブラハムが膝を地面に着ける。リーシアの攻撃が当たったわけではない。
「む、……どうやら限界のようだな」
「お前、その右足……」
「昔の傷でな、【身体強化】で無理矢理動かしていたが、限界がきたようだ。止めを刺せ」
剣を地面に置き、苦しそうに息をするブラハム。
その光景を見た俺とセーラは監視室を離れリーシアのもとに向かう。
「終わったようですね」
「む、セーラ……それに主」
「ブラハム、悪いが縄を打たせてもらうぞ」
「……好きにしろ」
「リーシア、怪我はないか?」
「ああ、問題ない」
多少は息が乱れているが傷はないようだ。
ブラハムとの真剣勝負を休憩なしで30分以上ぶっ通しで戦い続けたのだからもっと息が乱れてもいいものだが、リーシアの身体能力は半端ないと改めて認識した。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
ブラハムに縄を打ってから1時間半、ようやく冒険者ギルドの職員や冒険者たちがやってきた。
捕縛された盗賊はブラハムを入れて全部で25人。
この25人で盗賊団員全てだそうだ。何で全員だと分かったかと言うとブラハムが教えてくれた。
この後、盗賊は死罪か奴隷落ちとなるのが分かっていたので、好き好んで盗賊になったわけではないブラハムは盗賊について色々教えてくれた。
そしてブラハム自身のことも俺たちが聞いたら教えてくれた。何と言うか、彼の話が本当であればかなり同情する内容の話だった。
「あの話は本当なのか?」
「……ブラハムの瞳は真っすぐでした。それにあのような話は幾らでもありますので恐らくは本当のことでしょう……」
「そうか、やりきれないな……」
ブラハムは8年まで冒険者をしていた。その頃のブラハムは単独でランク4の魔物を狩れるほどの腕前だったので国から士爵に叙されていたそうだ。そして彼には美人の妻がおり幸せな時間を過ごしていた。
しかし彼の幸せは長く続かなかった。彼の妻を見初めた貴族が執拗に妻に迫ったのだ。当然、彼にも妻と別れろと言ってきたそうだが、彼はそれを突っぱねた。諦めが悪い貴族の嫌がらせが始まる。
そして半年もすると業を煮やした貴族が強硬手段に打って出たのだ。
ブラハムが魔物を狩るために家を空けた時を狙い妻を攫うと、その妻を凌辱した貴族は証拠を消すために妻を殺しダンジョンの中に捨てたのだった。
死体はダンジョンの中では時間経過とともに取り込まれ跡形もなく消えてしまう。
これを知ったブラハムは貴族を追及したが、冒険者あがりの下級貴族と権力を持っている貴族では結果は決まり切っていた。
そしてブラハムはその貴族を殺そうとして失敗してその身を盗賊に落としたのだ。その時に貴族の護衛に付けられた傷がブラハムの右足に古傷として残っている。




