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023_赤の塔

 


 ランク3のウルドラゴは狼型の魔物だが、その皮膚はドラゴンのような鱗に覆われている。そのため、非常に硬く剣や槍が弾かれてしまうので非力な冒険者では傷を付けることさえできない。

 しかも狼型特有のスピードは失われておらず硬いうえに回避力も高いので冒険者泣かせの魔物である。


「ウルドラゴの攻略法は魔法で火魔法に弱いので、もしウルドラゴが出てきたらリーシアが足止めをしセーラが火魔法でダメージを与える感じで」

「了解だ」

「分かりました」

「……」


 リーシアとセーラだけに指示を出したからかサンルーヴがウルウルした目で俺を見てくる。く、可愛い幼女の上目遣いウルウルは破壊力抜群だ。


「サンルーヴは俺を守ってね」

「わかったワン!」


『マスター、MP7の改造が終了しました。威力重視の改造です』

『お、できたか、インスありがとう。因みにどの程度の威力があるのかな?』

『はい、現在の【通信販売】のランクでできる改造を限界まで行っておりますので威力は倍増しております』

『倍増ってことはウルドラゴに傷を与えることはできるかな?』

『余裕です!』

『余裕なんだ! よし、装備しておくよ』

『マスター。もしウルドラゴを倒したなら【魔道具作成】の材料に丁度良いので販売せずに材料としましょう』

『了解だ。ストレージに入れた魔物の死体はインスの判断で販売するか決めてくれ』

『ありがとうございます』


 よし、これで俺もランク3の魔物に対して有効な攻撃手段ができたぞ。魔法杖を使ってもいいけど魔法はセーラが居るので俺はMP7で皆を援護するとしよう。


 6層はランク1からランク2の魔物が現れるのが通常でランク3の魔物が現れることはないはずだが、先ほどのパーティーはランク3のウルドラゴの襲撃を受けたと言っていた。

 彼らからの情報ではウルドラゴは濃い青色の鱗をしており半端なく速いらしい。スピードは狼系の魔物の代名詞であり彼らは魔法使いが火魔法で援護してなんとか退けることができ命拾いをしたと言っていた。

 つまり弱点が火でも火魔法の威力が弱ければ倒すことはできずに退ける程度しかできなかったということだ。


「主もやっとやる気になったか! なに、ウルドラゴ程度大したことはないから安心しろ!」


 俺がストレージから久々にMP7を取り出すとリーシアが俺に近付いてきて楽しそうに俺の背中をバンバンと叩いて笑う。マジで痛いから叩くなよ、俺のHPが地味に減っているじゃないか。


「グローセさんもやる気になったことですし、ガンガン行きましょう!」


 いや、「いのちをだいじに!」でお願いします!


「ガウ! ごしゅじんさま まもるワン!」


 更にやる気になってしまった3人のおし……ゴホン、後姿を見ながら付いていく。早く帰りたいよ。

 と、思っていたらサンルーヴが鼻をクンクン、狼耳をピクピクさせ森の中を警戒し出す。


「なにかいるワン」


 サンルーヴが警戒心マックスで腰の後ろにクロスさせて挿している短剣に手をかける。リーシアとセーラも警戒心を一段上げている。

 サンルーヴが走りだし短刀を抜くとそのまま森の中に隠れている何かを攻撃する。


「ギャー」

「くそ、何で分かった!?」

「早くガキを潰せ!」


 鬱蒼と生い茂っている木々の間の腰高まで伸びた草がザワザワと揺れる。草が揺れる毎に悲鳴や怒声が聞こえる。

 暫くすると喧騒は消えサンルーヴが森の中から出てくる。


「もりのなかでごしゅじんさまをねらっていたワン」


 サンルーヴに言われて森の中を確認すると8人のむさ苦しい男たちが倒れていた。一応、息はしているようなので死んではいない。それよりも8人を1分もかからず無力化するなんて、サンルーヴちゃんパネェ。


「盗賊ですね」

「盗賊? ダンジョン内でも盗賊なんて出るのか?」

「出ますよ。しかもダンジョン内では死体を放置すると1時間ほどで死体がダンジョンに取り込まれ証拠もなくなります」


 わーお、ダンジョンに吸収されるなんてファンタジーだね。


「だけど盗賊なんてすればステータスの犯罪歴に残ってしまうんじゃ?」

「犯罪歴に残るのは実行した者や命令した者だけです。ですから犯罪歴のない協力者が入手したアイテムなどを換金するんです」

「なるほど、表に出るのは犯罪歴のない協力者で犯罪者はこうしてダンジョン内で強盗を続けているってわけか」


 参ったな、魔物だけでも厄介なのに盗賊にも気を付けないといけないなんて。


「それもこの6層や精々7層程度までです」

「ん? 何で?」

「ダンジョンで盗賊になるのは冒険者として頭打ちになり落ちぶれた者がほとんどです。7層まではランク1とランク2の魔物しか出ませんが8層からはランク3の魔物が出ますので盗賊の活動範囲としては7層までが限界です。ランク3の魔物を倒せるのなら冒険者としてかなり稼げますので盗賊になる必要がありませんから」


 魔物退治で稼げるなら盗賊になんてなる必要はないのは正しいだろう。ランク3の魔物を倒せる冒険者は優遇措置として国から準貴族として一代限りの名誉士爵の地位が与えられるそうだし、ランク5の魔物を倒せる冒険者であれば正式に貴族として男爵の地位が与えられると聞いたことがある。

 たしか名誉士爵になったら国から俸給が出るって話だったはずだ。つまりランク3の魔物を倒せるのであれば名誉士爵となってそれなりの生活水準が保てる。


「で、これどうするの?」


 俺は倒れている8人の盗賊を指さす。


「盗賊は冒険者ギルドに引き渡せば1人20万円の報酬が貰えますが、殺して首だけ持っていっても5万円の報酬が貰えます。もし賞金首がいれば賞金も貰えます」

「なら首だけ持っていこう」


 リーシアが斧を振り上げ倒れている盗賊の首めがけて振り下ろそうとしている。


「ちょ、ちょっと待ったっ!」

「ん? 主、どうかしたか?」

「生きたまま冒険者ギルドに引き渡す! だからその斧は仕舞うんだ!」

「生きたまま連行するのは面倒だぞ?」

「面倒でも生かすの!」


 盗賊を生かして冒険者ギルドに引き渡すとなればこれ以上ダンジョンの探索を進めることができないので盗賊を殺して首だけにすればダンジョンの探索を進めることができるとリーシアは短絡的に考えているのだろう。


 ストレージから縄を取り出し8人を縛り上げる。その際、武器は取り上げ暗器などのチェックも忘れない。

 8人を数珠つなぎにして縄の端をリーシアが持ってサンルーヴを先頭に盗賊、リーシア、セーラと進み10分ほど前に登録した転移石を目指す。8人の盗賊は五月蠅かったので猿ぐつわを噛ませておいた。何度かリーシアに蹴られている盗賊もいたが無視だ。


 この転移石は各階層に最低1個存在しており触れて登録さえすれば転移石間の移動が可能となる便利な物だ。

 但し、転移石を起動させるには転移結晶というアイテムが必要となる。この転移結晶というのは魔物から時々ドロップするアイテムで魔物を10匹倒せば2、3個はドロップする。だから全員がこの転移結晶を持っていれば転移石を使ってダンジョンの入り口にある転移石まで一瞬で行くことができる。

 盗賊たちに転移結晶を持たせ全員で転移する。そのままダンジョンを出て冒険者ギルドに向かい盗賊を引き渡す。名前と犯罪歴はステータスを見れば簡単に分かるので手続きにはそれほど時間は掛からなかった。

 そして今、俺は個室で冒険者ギルドのギルド長と差し向かいで座っている。


「最近、若い者の致死率が上がっていると探索隊をだしていたんだがな。ヘンドラーさんに借りができたな。あの盗賊たちはハムラ盗賊団と言って今回ヘンドラーさんが捕まえた8人の中に頭のハムラが居た」


 そういえば【鑑定】で確認した時にそんな名前の盗賊が居たな。あいつが盗賊団の頭だったのか。しかし盗賊団と言うわりには人数が少ない……他にも盗賊が居ると考えるべきか?


「ハムラは賞金首だ。これが賞金の500万円、他の7人はそれぞれ20万円だから合わせて640万円になる」

「そのハムラ盗賊団は8人しかいないのですか?」

「……いや、恐らくは30人ほどの規模だ。少なくともギルドはそう考えている……暫くは身辺に気を付けてくれ」


 お礼参りがあるかも? まったく、面倒なことになった。

 暫くは家で大人しくしておこう。と俺が思っても許してくれない3人娘が居るからな……


 

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