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015_風雲急を告げた後

 


 スタンピードはハジメの町に大きな被害を齎すこともなく終息した。

 俺は都合1125匹のグラスウルフの死体を手に入れたし、他にグレーウルフが24匹、ブラックウルフが38匹、ブラッドウルフが11匹、ジェネラルウルフの死体も入手した。


「うむ、そなたはそれで良いのか? 数があるだけでほとんどはグラスウルフだぞ?」

「構いません。利益を得るのが目的ではありませんので」

「商人のくせに利益を求めぬか? ふっ、相分かった、これを持っていくがよい」


 合計で2500万円を領主に支払うことで話がついたが、領主が何やら書類を渡してきた。


「これは?」

「今回の取引で得たウルフをどう扱おうと我が町では税を免除する。それを証明する書類だ」

「……ありがとうございます」


 領主にお礼を言い領主館を後にする。

 今回、俺は利益を求めていないと領主には言っているが、それは一般的な取引をすれば俺に利益はないというだけの話で、買い取った魔物の死体を【通信販売】で販売すると話は変わってくる。

 俺が【通信販売】で魔物を販売した価格は合計で4550万1763円となる。

 凡そ2000万円の儲けとなった。しかし儲けよりも4550万円も【通信販売】の取引額が増えたのがトテモ嬉しい。

 でも、目の前の彼女たちはウザイ。


「お兄さんはやっぱり日本人だよね?」


 この脳筋3人娘もしつこい。


「よく分かりませんが、私がその日本人だったら何だというのですか?」

「私たちは同郷の人を探しているの。お兄さんが同郷なら協力したいな、と思うわけよ!」

「協力ですか?」

「そう、協力よ。私たちが故郷に帰るために協力していこうっていうの」


 故郷である地球に帰れるのはたった10人だ。この世界に飛ばされた1000人の1パーセントでしかない。そして地球に帰る方法は分かっていない。もしかして彼女たちには帰る方法が分かっているのか? そんなに簡単に分かるのか?


「ねぇ、お兄さんは日本人でしょ?」


 どう答えるか、もし彼女たちが帰る方法を知っているのであれば情報を引き出すために協力しても良いが、知らないのに協力と言っているのであれば論外だ。

 もしあの金髪さんが俺たち1000人が殺し合って生き残った10人が地球に帰れるなどという鬼畜な条件を設定していたらどうするのか? この脳筋たちはその可能性を考えて言っているのだろうか?


「その故郷がどれほど遠い地かは知りませんが、私は貴方たちが言う日本人ではないので協力はできかねます」

「何でそこまでトボケルわけ? あの銃を見ればお兄さんが日本人だって言うのは分かるんだからね!」


 MP7を出した時点でこうなることは予想できた。だから言い訳も考えてある。


「銃は旅の途中で購入した物ですよ」

「え?」

「で、でも、銃なんて簡単に買えないし!」

「そんなことを言われても旅の途中で購入したとしか言えませんが?」

「じゃ、じゃぁ、誰から買ったか言えますよね?」

「私は商人ですよ、貴方たちに仕入れ先の情報を提供すると思いますか?」

「む!」

「むぐぐぐ」


 相変わらずエルフは俺たちの動向を見守っている。それが何とも不気味だ。


「もう良いですかね」


 脳筋3人娘から離れようとするとスタンピードの夜のようにエルフが俺の前に立ちはだかる。これがしたかったのか?


「何かな?」

「何故私たちを拒絶するの?」

「……知っていますか? 信頼は簡単には得られない。私に銃を売った人の情報がほしければ私の信頼を得ることですね」

「その信頼はどうすれば得られるの?」

「それが分からない時点で信頼は得られません。では、これで」


 悪いが脳筋3人娘の相手をする気はない。もし彼女たちが俺の信頼を得られるようになっても、その時には俺は彼女たちの前から消えているのだけどね。



 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 魔物の死体を【通信販売】に売ると膨大な金額になることが分かった。【通信販売】から購入するよりも取り扱い金額が増えるので今後は魔物の死体を入手し【通信販売】に売ることが俺の優先課題だ。


「魔物を多く入手したい。どうすればいいかな?」

「そうですね、一番手っ取り早いのは魔物の死体を購入することでしょう」

「やっぱりそうだよね……そうなると魔物を一番入手しやすいのはどこかな?」

「ダンジョン都市ですね」

「ダンジョン都市?」

「はい、世界に多く存在するダンジョンの中でも特に古くて巨大なダンジョンがあります。そのダンジョンの傍にできた街をダンジョン都市というのです」

「なるほど、私の故郷にはダンジョンはなかったので認識はなかったけど、そんな都市があるのか……ありがとう、セーラ。それでこのハジメの町から一番近いダンジョン都市はどこかな?」

「それなら赤の塔の街ですね。ここから駅馬車で10日ほどで到着します」


 赤の塔の街に行けば魔物の死体が手に入りやすい。これは行かない手はない。


「よし決めた。赤の塔の街に行こう!」

「ダンジョンに潜るのか!?」


 嬉しそうな顔のリーシア。魔物と戦えるのが嬉しいのだろうが、俺はダンジョンなんて危険な場所には行きたくない!

 そもそもが俺の生活環境を向上させるために【通信販売】のランクを上げたいというのが理由なのだからね。


「いや、ダンジョンに潜るのはちょっと……」

「む、そうなのか?」


 そんなに残念そうにするなよ。


「グローセさん! 私も赤の塔の街に連れていってください!」

「ん? それは構わないけど、この街を離れても大丈夫なの? 家族とか?」


 遠くに行くと色々揉めるよ? 特にセーラのように可愛い娘さんはね。


「大丈夫です。父も1年前に亡くなり家族はいませんので、それでお願いがあるのですが……」

「お願い? 何?」

「私をグローセさんの従者にしてください!」

「へ?」

「こんな素敵な人に仕えたいとリーシアさんを見ていて思っていました!」

「……あ、ありがとう……でもいいの?」

「はい!」


 こうして俺の【テイム】でセーラを従者にして赤の塔の街への旅の準備をすることになった。


 旅では魔物との戦闘も考えられるので俺は魔法が使えるようになる道具がないかセーラに聞いた。


「それならジンジャー婆さんの店にあると思います」

「ジンジャーさんの店に? この前行った時には無かったけど?」

「高額だから店の奥に保管しているのです」

「ああ、なるほど」


 早速ジンジャーさんの魔道具屋に行く。サンルーヴは町中を歩くには大きいし皆が怖がるので借りている家に留守番だ。


「おや、今日は何のようだい?」

「魔法が使えるようになる道具を見せてほしいのですがありますか?」

「あるよ」


 ジンジャーさんは店の奥から幾つかの杖を持ってくる。


「火の杖、水の杖、風の杖、土の杖、回復の杖だよ」

「使い方と効果、それとお値段を聞かせていただけますか?」

「使い方は簡単さね、発動の呪文を唱えるだけさ。効果は火の杖がファイアボール、水の杖がウォーターボール、風の杖がウインドカッター、土の杖がアースニードル、回復の杖がヒール、を発動するんだよ。値段は回復の杖が350万円、他は200万円だ」


 ファイアボールとかイメージができるものばかりだな。


「私でも扱えますか?」

「MPを消費するのでMPが少ない者なら直ぐに枯渇してしまうが、誰にでも使えるよ」

「因みにもっと強力な物はないですよね?」

「あるよ」


 あるんかい!

 再び店の奥に行き木箱を持ってくる。


「これは炎の杖と大風の杖だ。炎の杖がファイアストーム、大風の杖がウインドストーム、値段は共に1000万円だよ」

「では、これらすべてを下さい」

「は?」

「全てを下さい。総額で3150万円ですよね?」

「……ああ、そうだよ」


 俺は見せてもらった杖を全部購入し発動の呪文を教えてもらいジンジャーさんの店を後にする。大人買いをしてしまった気分だ。

 早速町の外に出て試し打ちをする。これにはサンルーヴも連れてくると、嬉しそうに走り廻る。


「あの岩なんか丁度良いと思いますよ」


 的にするのに丁度良さそうな岩を見つけるとセーラが教えてくれる。俺の背丈よりも大きい岩がある。


「そうだな、セーラとサンルーヴは周辺を警戒してくれるかな。リーシアは俺の傍で護衛を頼むよ」

「分かりました!」

「ワオン!」

「うむ、了解だ!」


 やっぱここは火の杖だよね。魔法といったらファイアボール! ファンタジーでは欠かせない魔法だよね?

 俺は火の杖を構え集中する。


「我が敵を穿て、ファイアボール!」


 火の杖は木でできた150センチメートルほどの杖だが、その先端には赤い水晶のような物が嵌っている。杖とはこうあるべきという感じの物だ。

 その先端の赤い水晶が少し発光したかと思うと直径100センチメートルほどの火の玉が射出され俺は後方に吹き飛んだ。

 俺は後方宙返りをし、そのまま後転を何回か決める。オリンピックには出れるレベルではないが、かなりハードだった。

 その直後、俺を強風が襲う。弱り目に祟り目だ。


「……主、大丈夫か?」

「……ああ、わけが分からんが生きている」


 いったい何があったのか分からなかったが、標的とした岩が原型を留めていないことから俺の放ったファイアボールが原因なのだろうと直ぐに思い至る。


「グローセさん、何をしたのですか!?」

「ガウ!」


『マスター、MPを使い過ぎです』

『そんなにMPを使った?』

『今ので150ほどMPを消費しています。そのため、火の杖も壊れてしまったようです』

『え? 火の杖、壊れちゃったの?』

『通常のファイアボールならMPを3から5程度の消費ですから最低でも30倍ものMPを込めれば壊れます』

『あちゃ~、200万円が一発目でパーか……』

『今後は消費するMPも考えてください』

『しかし、そんなMPを込めたつもりないんだけど? どうすれば消費MPを5に抑えられるかな?』

『口に出すとよいかと思います』

『なるほど……分かった、やってみる』


「主、火の杖はもう使い物にならんぞ」

「そのようだね。どうもMPを込め過ぎたようだ」

「どれだけMPを込めればああなるのですか?」

「ははは、どうも150ほど消費しているね」

「150って、はぁ~」


 セーラに呆れられ、リーシアはとてもキラキラした眼差しを向けられる。サンルーヴは俺の顔を舐めるのを止めてくれ。


「今度はMPを抑えるようにしてみるよ」

「それが良いです。今ので200万円の杖が壊れてしまいましたしね」


 それを言われると何も言えない。

 次は風の杖を出す。近くにあった木を標的に定める。イメージは鎌鼬だ。


「MP5を消費し、我が敵を切り裂け、ウインドカッター!」


 杖の先端の薄緑色の水晶が少し発光すると目に見えない何かが木に向かって飛んでいった。

 その次の瞬間、標的にした木の幹にスパっと切り傷ができる。あまり深くはないがMP消費が5なのでこんな物だろう。


『これってどの程度MPを込めていいのかな?』

『20程度までなら問題ないと思います。それより多いと壊れることを覚悟して使ってください』

『20ね、了解!』


「MP20を消費し、我が敵を切り裂け、ウインドカッター!」


 バスンという音とともに木の幹が大きく傷ついている。かなり深い傷なので人間や魔物相手だとかなりのダメージを与えられると思う。


 

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