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012_風雲急を告げる3

 


 領主館から戻ると戦いが見えるかは分からないが商業ギルドの屋上に上がる。

 この町でもっとも高い建物がこの商業ギルドらしく、商業ギルドの職員も俺同様に屋上で戦況を見守っている。


 しかし戦場が遠くてよく見えない。

 だから人目の付かない所に移動して【通信販売】で双眼鏡を幾つか購入した。

 一番高い建物の屋上なので双眼鏡を使えばよく見える。

 数は圧倒的に魔物の方が多いがその多くは低ランクのグラスウルフらしいので数の暴力で押されているということはないようだ。


 左側の冒険者の一団が戦線を押し上げると、中央と右側も徐々に戦線を押し上げる。

 僅かにだが冒険者の方が押している。

 このまま押し切れれば言うことはない。


 左側は数人のパーティーなのか、そのパーティーが圧倒的な力でグラスウルフを倒している。

 双眼鏡の倍率を上げて見ると黒髪の女の子が二人と金髪のエルフと思われる女の子がグラスウルフをなぎ倒している。

 黒髪の女の子は一人は双剣、一人は槍を使い、金髪エルフの女の子は弓と魔法を駆使して戦っている。


 双眼鏡越しでも【鑑定】できるか試したら見えてしまった。

 双剣の黒髪の子はミホ・イナバ、槍の黒髪の子はアサミ・タナカ、金髪エルフはカナミ・サンジョウと出ているので俺と同じ転移者だと思って間違いないだろう。


 彼女たち三人が先頭に立ち左側の冒険者はドンドン戦線を押し上げていく。

 しかし中央や右側の冒険者がそれに付いていけていない。

 左側の中でさえも三人が突出しているのでこのままだと彼女たち三人が魔物の中で孤立してしまう。


「ヘンドラー様、それは何でしょうか?」


 声を掛けられたので後ろを振り向くとそこにはアンブレラさんが俺の持っている双眼鏡に興味津々の視線を向けている。


「これは双眼鏡という道具です。戦場が遠いのでこの道具を使うとよく見えるのですよ」

「ほう、スキルの【遠見】のようなものですか?」

「さて、【遠見】を持っていないので何とも言えませんが、使ってみますか?」

「是非に!」


 アンブレラさんに双眼鏡の使い方を簡単に説明し、使ってもらう。


「素晴らしいですね。戦場が手に取るように見えます!」

「それは差し上げます。商業ギルドに避難させていただいたお礼です」

「し、しかしこのような貴重な物を頂いてもよろしいので? ヘンドラー様が使われるのでは?」

「もう一つ持っていますので大丈夫ですよ」


 アンブレラさんは俺と並んで双眼鏡を覗き戦場の趨勢を窺う。

 戦いは夜まで続いたが決着がつかず、ハジメの町の周辺に置かれた魔物除けの効果によって魔物が後退するので一時休戦となる。

 日の出とともに戦いが始まったので冒険者も疲れ果てているようだ。


「そういえば領主様やこの町を守る兵は何をしているのですか?」

「領主軍は冒険者が突破された場合に備えて待機しています。それに夜間の警戒は領主軍が担当していますので冒険者は安心して寝れます」


 アンブレラさんが教えてくれた場所を見ると確かに領主軍が待機しており、これから冒険者と入れ替えで周辺警備にあたるようだ。


 商業ギルドは今回のスタンピードに対し物資の供出をしている。

 既に冒険者ギルドの周囲では炊き出しが行われ怪我をした冒険者にはポーションが惜しまず使われている。

 そして職人ギルドでは冒険者の武器や防具の修理を無料で行い、修理もできないような場合は格安で武器防具を提供している。

 それ以外にも町の住人が総出で冒険者の後方支援を行っている。


「行こうか」

「どちらに行かれるのですか?」

「グラスウルフの死体を回収するんだ」

「グラスウルフを? 毛皮ぐらいしか使える部位がないですが?」


 セーラは価値がほとんどないグラスウルフの死体回収を不思議がっている。


「俺は戦えないからグラスウルフの死体を買い取り、今回の冒険者たちの報酬の足しにしてもらおうと思ってね」

「良い考えだとは思うけど領主様が冒険者への報酬の上乗せをするとは限らないですよ」

「それは領主様の(うつわ)次第だね。俺がどうこうできる話でもないからね」

「主はそれで良いのか?」

「俺の自己満足のための偽善だよ」


 偽善と言うよりは自分の利益のための行動なんだけどね。


 俺たちが城門に到着すると既にグラスウルフの死体がうず高く積まれた山がいくつもできていた。

 責任者の騎士に領主の許可書を見せ死体の山に近づき手をかざす。

 ストレージに回収するためだがストレージのことは秘密にしたいので言い訳は考えてある。


「き、消えた!」


 確認のため付いてきた騎士だけではなくリーシアやセーラも驚愕の表情を見せる。

 初めて人前で見せるストレージへの回収。

 山となっていたグラスウルフは一度に回収できるようだ。

 一つ目の山を回収しストレージ内のグラスウルフの死体の数を確認すると三十匹と出ていた。

 ザッと見た限り同じ規模の山が十五もあるので約四百五十匹分の死体があることになる。

 報告にあったグラスウルフの数からすれば半分以下だ。


「これは私のスキルです。内密にお願いしますね」


 騎士だけではなくリーシアやセーラにも目くばせする。

 グラスウルフの死体の山を回収していく途中で死んだ冒険者の死体が積まれているのを見た。


「埋葬はしないのですか?」

「今は戦時なのでまとめて火葬することになります」


 冒険者の死体の数は五十人分はあるようだ。

 今のままでは俺もこの冒険者のように殺されてしまう危険性は高い。

 だから近付く死を避けられるだけの、足掻くことができるだけの力が必要だと思う。

 それが俺自身の力じゃなくてもリーシアのように俺を主と認めてくれる人や仲間でも良いと思う。それが俺の力になるはずだ。


 冒険者の死体に黙礼してグラスウルフの死体回収を進める。

 全部で十六山、四百五十六匹のグラスウルフの死体を入手した。


「グローセさん、向こうから誰か来ます」

「魔物?」

「いいえ、人のようです」


 グラスウルフの死体の回収が終わり数を申告し終えたので町中を商人ギルドに向かって歩いているとセーラが人が近付いてくると言う。

 街中なので魔物ではないと思ったけど今の時期だと魔物の可能性だってあるだろう。

 リーシアが即座に俺の前に出て俺を守る態勢をとる。

 既に日は暮れており非常時なのであちこちでかがり火が焚かれているが、それでも暗いので誰かが近付いてきていても俺には分からない。


「やっぱりだ!」

「そのようですね」


 暫くして俺でも目視できるほどに人が近付いてきた。

 そして俺たちを見て何か言っている。


「何者だっ!?」


 リーシアが警戒を一段上げて盾を構える。

 影は三人分。更に近付いてきたので顔が見えるようになった。

 黒髪の少女が二人と金髪の少女が一人。見覚えがある。


「止まれっ! それ以上近付くな!」


 リーシアが三人に静止を促す。


「そうカリカリしないでよ。私たちは敵じゃないよ」

「そんなに警戒しなくても良いよ。敵じゃないから」


 日本人だと思われる三人の冒険者。彼女たちは馴れ馴れしく俺たちに話しかけてくる。


「私たちはそこの黒髪のお兄さんに少しだけ話があるんだけど、今話せるかな?」

「そのお兄さんに少しだけ聞きたいことがあるの」


 先ほどから話しているのは二人だけ。

 一人は二人の後方で俺たちを警戒しているようだ。


「私に話? 何でしょうか?」

「その二人がいない所で話せます?」


 人気のない所で話をしたいようだ。

 多分、日本人か確認したいのだろう。


「この二人は私の護衛なので貴方たちの要望に応えるのは無理です」

「……では、ここで確認するけど、お兄さんは日本人ですか?」

「にほ、何ですか?」

「「「え?」」」


 予想通りの質問なのでとぼけてやった。

 彼女たちが信用できる人間だと分かるまでは俺が日本人だというのは秘密にしておこうと思う。

 幸い彼女たちの中で【鑑定】を持っているのは後ろで警戒している金髪のエルフで、しかもランクが『C』なので俺の【偽装(B)】を看破できないだろう。


「ちょ、ちょっと、どういうことよっ!?」

「どういうことなのか聞きたいのは私であって貴方がたではないでしょ? いったい何が知りたいのですか?」


 黒髪のミホ・イナバは先ほどまでの余裕の笑みが消えている。

 同じく黒髪のアサミ・タナカは明らかに狼狽えている。

 こいつらその程度のことで狼狽えるのかよ。

 ポーカーフェイスって言葉を教えてやりたいと思う。


「話がなければこれで失礼しますよ」

「え、あ、ちょ」


 ミホ・イナバが焦っている。

 だけど俺は無視し迂回して道を進もうとしたら金髪エルフのカナミ・サンジョウが道を塞ぐ。


「おかしい。先ほどのグラスウルフの死体を回収したのはアイテムボックス。もしくは何かのアイテム収納系のスキル。だけど貴方のスキルにはそれに相当するスキルはない」

「【鑑定】をお持ちのようですね。しかし他人のステータスを勝手に見るのはマナー違反ですよ」

「む、……」

「それと貴方の【鑑定】はランクがそれほど高くないようですね。低ランクでは高位のスキルは見えないと聞いたことがありますよ」

「え……?」


 嘘だよ。

 放心状態のカナミ・サンジョウを避けて道を歩き出す。

 俺の横で歩くリーシアは嬉しそうな顔をしていた。

 セーラは俺の後方で周囲を警戒している。


『インス、千人の地球人は全員このハジメの町や付近に転移したの?』

『いいえ、誤差はありますが凡そ百ヶ所に分けて送られています。この町にどれだけの人が送られたかは分かりかねます』


 百ヶ所ってことは十人程度の地球人がこの町にいる可能性があるのか。

 俺たちがこの世界に転移させられて半月ほど経っているからその間に町から移動した人もいるかも知れないから多少は少なくなっている可能性はある。

 しかし逆に増えている可能性もある。


 あの三人娘は当てが外れたためか俺を追いかけてはこなかった。

 追いかけてきても対応は変わらないけどね。


 商人ギルドで用意してもらった部屋で休ませてもらう。

 リーシアとセーラが寝静まる頃に起き出しグラスウルフの死体を【通信販売】で売る。

 四百五十六匹で千百二十九万千四百七十二円になった。

 一匹あたり二万四千七百六十二円で個体差や破損状況で単価が変化するらしい。

 四百五十六匹なので領主には二百二十八万円を支払うことになる。

 しかし今回のスタンピードはまだ終わっていないのでグラスウルフの死体はもっと増えるだろう。


 取り敢えず【通信販売】の取引額が全然足りない。

 目標は一億円の取引であり、【通信販売】のランクアップなのだ!


『そういえば、この世界の商品も取り扱えるようだけど、どういうこと?』

『【通信販売】は『使用者が認識している世界の商品をスキル上で売り買いできる』スキルです。マスターがこの世界を認識している現在ではこの世界の商品がラインナップされています。ただし、スキルランクが低いことで全ての商品が解放されているわけではありません。それは地球の商品も同様です』


 そういえば武器を探していた時にプラスチック爆弾とか戦車とか戦闘ヘリなんかは商品になかった。

 【通信販売】のランクが上がることで俺が購入できる商品が増えるってことなんだろう。

 益々取引額を増やさないといけないな。

 そうなると買うよりは売る方が金額が高いから魔物を狩りそれを売るのが一番効率が良いということだよな。

 よっしゃ~、当面の方針と目標が決まったぞ。


 

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