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010_風雲急を告げる1

 


 午前中を護衛たちとの親睦に時間を割いた俺は昼御飯で更に彼女たちの胃袋を掴んで午後一で商人ギルドに赴く。

 その際にはリヤカーに赤ワインとワイングラスを満載させ、そしてリヤカーを引くのはご存知リーシアだ。

 さすがに全部載せることができなかったので赤ワイン五十本とワイングラス二十セットを商人ギルドに持ち込む。


「今日は賑やかですね。それに華やかです」

「護衛の冒険者の皆さんです」


 アンブレラさんと軽く挨拶をし、持ってきた赤ワインとワイングラスをプレゼンするために別室を用意してもらった。


「モジャ・ガッチーだ。珍しい酒を飲ませてくれると聞いた、よろしく頼む」

「グローセ・ヘンドラーです。お酒の試飲をお願いします」


 酒の試飲をアンブレラさんに頼んだらこのガッチーさんがやってきた。

 どうやら酒はガッチーさんの専売らしくアンブレラさんだけではなく他のバイヤーも決して侵してはならない聖域らしい。

 もろドワーフなんですが。


 リュックサックからワインボトルとワイングラスを取り出すと、2人は目を大きく見開き固まった。

 俺はそれを無視してワインボトルのコルク栓を抜き、ワイングラスに注ぐ。


「なんと美しい……」


 アンブレラさんがポツリと呟くのが聞こえた。

 ワイングラスは念のために四つ持ってきたので自分の分を含め三つに赤ワインを注ぎ、二つをアンブレラさんとガッチーさんの前にスーっと移動させる。


「この酒は香りを楽しむのが私の故郷の慣わしです。口に含む前にこうしてグラスを回し香りを楽しんでください」


 俺がやってみせると二人も真似をしようとワイングラスを持つが、その手は僅かに震えていた。

 ワイングラスに鼻を近づけ香りを楽しむ二人は少し顔が緩んだ。

 赤ワインを一口分口に含むと更に香りを楽しむために舌の上で転がし、そして飲み込む。そして目を見開く二人。


「こ、これは美味いっ!」

「はい、大変美味しいです!」


 ガッチーさんは二口、三口と赤ワインを飲む。

 俺が教えた一般的だと思われる赤ワインの飲み方だけではなく自分なりの赤ワインの飲み方を見つけるかのように。


「しかも酒精が強いの。エールなどでは比べるにも値せんな」

「最初にフルーティーな酸味がきて、次に渋みがきますが、これが良いですね。嫌な渋みではない」

「うむ、決して嫌な渋みではない」


 そんな二人にはリュックサックから取り出したチーズを渡す。


「チーズです。おつまみにどうぞ」

「む、これは合う!」

「はい、甘みと塩気が何とも言えませんね、このお酒に合います!」


 結局、二人は七百五十ミリリットルのボトルを空けてしまった。

 特にガッチーさんの喰い付きは凄く、持ってきたサンプル用の赤ワインだけではなく売り物の方まで開けようかという勢いだった。


 そして商談タイム。

 赤ワインの味を知った二人はどれだけの値を付けるのか。

 そしてワイングラスの価値が分かるのか、二人が相談のために席を外している間がドギマギだ。


「お待たせしました」

「待たせてすまぬの」


 相談が終わり部屋に入ってきた二人。

 ガッチーさんの髭もじゃの顔から少し出ている鼻先などが少し赤い。

 試飲で一本空けるのは飲みすぎだと思います。

 そして二人が俺に提示した価格は赤ワインは一本五十万円。

 ワイングラスが一セット百三十万円。

 当然ながら商人ギルドへの専売という条件が付いた。


「チーズもあれば高額で買い取ります」


 おつまみのチーズも好評だ。だが、チーズは保存状態次第で直ぐに悪くなるので売らない。


「すみません、チーズは滅多に手に入らないのです」

「残念ですが、仕方がありませんね」

「それとワインは冷暗所で保管してくださいね。日が当たる場所の保管は品質が悪くなりますので注意してください。また、ワイングラスの方は衝撃に弱いので取り扱いには十分に注意してくださいね」

「はい、これだけの物ですからしっかりと管理いたします」


 取引が決まるとガッチーさんの管理の下、赤ワインとワイングラスの引き渡しが行われた。

 赤ワインは木箱に入っているので全ての木箱を開け中の赤ワインを確認していく念の入りようだ。

 そしてワイングラスの方はアンブレラさんが受け持っているようでワイングラスも全てが確認されている。

 どうもガッチーさんはワイングラスにはあまり興味がないようで百三十万円の値を付けたのはアンブレラさんぽい。

 だが、ドワーフだけあってワイングラスの薄さや透明度の高さなどの品質はガッチーさんも分かっているようだ。


「そうだ、アンブレラさんから要望があった白砂糖ですが、何とかなりそうです」


 一度に大量に卸すのは避けたい。

 既存の砂糖を卸している商人との軋轢が気になるからだ。

 しかし考えてみれば既存の砂糖よりも白砂糖は高額で売られているので価格帯で住みわけができるのではと思う。

 価格の住みわけができているか確認しながら分納していこうと思う。


「本当ですか、それは良かった」

「量が多いので一気には運び込めませんので数回に分けて納品しますね」

「はい、ありがとうございます!」


 白砂糖の納品日程を決め、更に残りの赤ワインとワイングラスの納入日程も決めて商人ギルドを辞した。


「あまりこの町のことを知らないのだけど、どこか案内してよ」


 フランクにエブリたちに町を案内してほしいと頼む。


「良いですよ。どこに行きたいですか?」

「ん~、そうだ。魔道具を売っている店に行きたいな」

「分かりました。こっちです」


 エブリを先頭にライラとウィットニーが俺の左右を守り、後方にリヤカーを引いたリーシア、その更に後方にセーラの隊形で道を歩く。

 ここまで物々しくしなくても良いと思う。


「ここです」


 古びた店先の前で立ち止まったエブリが店を指さす。

 皆で入っても邪魔になるのでエブリとリーシアを連れて入る。

 他の三人にはリヤカーを見ていてもらう。

 店の中には色々なアイテムが置いてあり、カウンターの向こうには皺深い顔のお婆さんが鎮座していた。

 ちょっとビビった、ミイラかと思っちゃった。


「ジンジャーさん、客を連れてきたよ」

「ああ、見りゃ分かるよ」

「こんにちは、グローセ・ヘンドラーと申します。少し見せてくださいね」

「好きに見ればいいさね」


 店主はジンジャーさんというらしい。

 好きに見ていいと言われたので好きに見させてもらう。



 種類:魔道ランタン(下級)

 説明:魔石を動力源とした発光具。発光量はそれほど多くない。



 種類:魔道テント(下級)

 説明:室内を拡張したテント。広さは幅四×奥行四×高さ三メートル。



 種類:ロウポーション(HP)

 説明:HPを即座に三十ポイント回復する。



 種類:ロウポーション(MP)

 説明:MPを即座に三十ポイント回復する。



 種類:ロウポーション(毒)

 説明:軽度の毒を中和する。



 種類:ロウポーション(麻痺)

 説明:軽度の麻痺を中和する。



 種類:魔物除け(下級)

 説明:魔物が嫌う臭いを出し寄せ付けない。低ランクの魔物にしか効果がない。効果時間は約十時間。



 魔道ランタンは【通信販売】で電池式のランタンを購入できるからそれほど良いとは思わない。

 しかし魔道テントは良いね。見た目は二メートル四方の大きさしかないのにその倍、面積だと四倍の広さがあるんだ。

 それからファンタジーの世界の定番であるポーション類は買っておこう。

 いつ何があるか分からないから必需品だ。本当はもっと効果が高いポーションがほしい。


「魔道テントはもっと内容量が大きい物はないですか? それとポーションも効果が高い物がほしいのですが」


 皺くちゃのジンジャーさんに在庫を聞いてみる。


「魔道テントは中級ならあるよ。ポーションはミドルポーションとハイポーションまでなら用意できるね」

「中級の魔道テントとハイポーションはおいくらですか?」

「中級の魔道テントが二百万円、ハイポーションはHPが三万円、MPが五万円、毒が二万円、麻痺が二万円、石化は六万円だよ」

「石化もあるのですね。では中級の魔道テントを一つと、ハイポーションを各種十本。ミドルポーションを各種二十本下さい」

「金はあるんだろうね?」


 鋭い視線で俺を値踏みするジンジャーさん。


「問題ありません。因みにミドルポーションのお値段は幾らですか?」

「ハイポーションの半額だよ。それと石化はミドルにはないよ」

「分かりました。ではハイポーション各種十本が合計で百八十万円、ミドルポーション各種二十本で百二十万円、それに中級の魔道テントが二百万円ですね。あ、そうだ、魔物除けも効果が高い物がほしいのですが」

「……魔物除けは中級と下級しか置いてないね。中級が三万円で下級が一万円だよ」

「では中級の魔物除けを二十個下さい。六十万円を追加なので全部で五百六十万円ですね」

「……ああ、五百六十万円だね」


 俺がミスリル貨五枚と大金貨六枚をカウンターの上に置くとジンジャーさんはそれを懐に仕舞い重い腰を上げる。


「今揃えるからちょっと待ってな」


 店の奥の方へ向かったジンジャーさんは十分ほどで全部のアイテムを揃えてくれた。

 ストレージに入れたかったけど、人目がある所でストレージを使うのは控えたい。

 だから外で待つ三人も呼んで皆でリヤカーに積み込む。


「アンタどこぞの貴族様かい?」

「いいえ、私はタダの平民ですよ。ただ暫くすると旅にでるつもりなのでその用意をしているだけです」

「そうかい、旅をね」


 ジンジャーさんはそれ以上何も聞かなかった。

 こういう時は何も聞かないものなのだろう。俺には分からん。


 数日は家と商人ギルドの往き来と町中の散策をする。

 護衛がいるというのはとても気持ちが落ち着く。ビクビクしなくて良いからね。


 そして護衛の四人とも大分仲良くなった。

 彼女たちは俺が用意する料理が気に入って今では俺の料理中毒になっている。

 そして家にいる時はリーシアの訓練の相手にもなってくれるのでリーシアのレベルも上がっている。



 氏名:リーシア・オーガン

 職業:アタックガーディアン・Lv6

 情報:オーガ(変異種) 女 15歳 従者

 HP:1200(S)

 MP:65(E)

 筋力:270(S)

 耐久:280(S)

 魔力:21(E)

 俊敏:90(B)

 器用:33(D)

 魅力:33(D)

 幸運:5

 アクティブスキル:【百武の守り(D)】【破壊の斧(D)】

 パッシブスキル:【身体強化(D)】【斧盾術(D)】

 魔法スキル:

 ユニークスキル:【絆】

 犯罪歴:



 良い感じでレベルが上がっているし、スキルのランクも順調に上がっている。

 因みに『アルスの剛腕』のタンクであるウィットニーのステータスは筋力が百五十で耐久が二百だったので、既に能力は超えている。

 スキルだって同じDランクだ。因みにHPは五百ほどなので倍以上だ。

 ヒューマンとオーガではベースが違うので仕方がないだろうが、リーシアの脳筋ステータスぶりが遺憾なく発揮されている。


 エブリたちが護衛となって五日目。

 商人ギルドから帰ってくる途中に面談をして落とした『暁の雷鳴』に遭った。

 普通に道でばったり遭っただけで遭いたいとも思っていなかったので軽く会釈だけして通り過ぎようとしたら絡まれた。

 だが、今やDランク冒険者のタンク職であるウィットニーを凌駕するステータスのリーシアにあしらわれて涙目で逃げていった。

 何がしたかったんだろうか?俺に絡んで何かあれば冒険者ギルドに通報されると思わないのかな?


 七日目。お馴染みとなった商人ギルドへの納品後に再びジンジャーさんの魔道具屋に赴いた。

 ジンジャーさんに呼ばれたんだ。


「呼び出して悪かったね」

「いえいえ、お話があるとか?」

「ああ、これをアンタに買ってもらえないかと思ってね」


 ジンジャーさんがカウンターの上に置いたのは見た目は何の変哲もないウエストポーチだ。


「これはっ!?」

「ん? エブリはこれを知っているのかい?」

「これってマジックポーチじゃないですか?」

「マジックポーチ?」

「エブリの言う通りこれはマジックポーチさね。どうだい、買わないかね?」


 マジックポーチといえばファンタジー系の定番で俺のストレージに似た能力のウエストポーチだ。


「いかほどで?」


 ストレージがある俺には必要ないが、こうして売りに出されるってことはストレージよりは一般的なんだろうと思う。


「二千万円だよ」

「に、二千万!」


 エブリが盛大に吠える。

 確かに二千万円といえば高額だが、今の俺には買えない金額ではない。



 種類:マジックポーチ

 説明:時間経過停止と内容量を拡張したウエストポーチ。内容量は十立方メートル。



 ジンジャーさん曰く中級だからそれほど容量が多くないそうだ。

 それでも希少な収納系マジックアイテムなので二千万円もする。

 やはりストレージは隠しておいた方が良いな。


「良いでしょう、購入します」

「そうかい、毎度アリだよ」


 ミスリル貨を二十枚カウンターの上に置き、ジンジャーさんが数えるように一枚一枚手に取っていく。

 今までで最高値の買い物をしてしまった。明日も商人ギルドに売りにいかねば。


 十日目。

 明日の朝で護衛依頼が完了する。

 もう十日程護衛をしないかと持ちだしたら四人ともOKしてくれたので延長の手続きをしに冒険者ギルドに向かう。

 だが、事件はその道すがらで起こった。


「大変だ! 魔物が押し寄せてくるぞっ!」


 

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