001_チュートリアル1
御贔屓下さると嬉しいです。
徐々に改稿していきます。
いつものように外回りを終え会社に戻ると、営業成績がふるわない上司から嫌味を言われる。
お客様と上辺でしか付き合わないから信頼が得られないということを分かっていない。
まぁ、伯父さんが社長で父親が専務なので成績なんて関係なく部長代理になった上司なので仕方がない。
こんな上司のお守をするのも部下の役目で、新規の顧客開拓時には半分を献上することになる。
こういった配慮ができる俺も来春には主任の目も出てきたかな、と思うわけだ。
こんな上司を相手にしているので心のケアは大事だ。
息抜きは世界初のフルダイブ型MMORPG『スマート・ワールド・ゲート』、略して『SWG』をプレイすることだ。
SWGは完全にリアルとゲームが切り分けられ、ゲームをプレイしている間はリアルの体は睡眠状態になっている。
だから寝ている間に遊べるというのが売りで、そのリアリティ感溢れる仮想世界のクオリティもあり販売本数は世界中に三千万本となっている人気のゲームだ。
SWG内での俺の分身、所謂アバターは金髪のエルフでメインジョブが魔弓術士でサブジョブに錬金術師をしている。
今日もいつものように仕事が終わるとシャワーを浴び飯を食ってSWGにログインした。
「ここどこ?」
ログインすると通常は前回ログアウトした地点にアバターが現れるはずだが、俺はこの場所を知らない。
既に解放されている30層まで踏破している俺が知らない場所だ。
よく分からないが今の俺のいる場所はリアルでよくある学校の体育館のような建物の中だ。
バスケットのゴールがあり舞台もある。
俺の周囲には多くの人が俺同様呆然と佇んでいる。
しかも人の数が半端なく多く、十人や二十人ではない。百人どころか数百人はいるように見える。体育館の中が満員状態だ。
そんなことを考えていると誰彼と騒ぎ出す。
俺同様に訳も分からない状態であれば騒ぎ出すのも無理はない。
俺だって騒いだり毒づきたいと思うがそんなことしても建設的な考えが浮かばないのはこれまでの人生で何度も経験しているから平静を装う。
暫く周囲の様子を窺う。
泣きじゃくる女性もいれば俺同様に黙して語らない人もいる。
騒ぎは収まらず周囲の人に絡み出す人も出だした。
「皆さんご苦労様。これから皆さんの置かれた状況を説明しますのでご静聴願いますね」
体育館なので舞台があり、その舞台の上にいつの間にか金髪の女性が上がってマイクを持っていた。
最初の印象は外タレさん、だった。
金髪に整った顔立ちに奇抜な衣装、テレビやネットで見るようなエンターテイナーだ。ヘソピーがキラキラ輝いている。
「何だお前はっ?」
こういう場合、彼女は俺たちの生殺与奪権を持っていることが多いのでそんな乱暴な言葉遣いは自分の首を絞めることになるんじゃないかと思う。
「ご静聴願いますね、と言いましたよね?」
金髪さんは顔に笑みを貼り付けてはいるが物凄いプレッシャーが俺たちを襲う。
大げさな表現だがロケットに乗せられ打ち上げられた時のGのように立っていられないほどのプレッシャーだ。
何人かは実際にへたり込み息も絶え絶えといった感じだ。
「あまり手間をかけさせないように気を付けてくださいね」
何もなかったかのように爽やかな笑顔を俺たちに向ける。
この瞬間、この金髪さんには逆らってはいけないと皆が思っていることだろう。
「これから貴方たちには私が管理している世界に行ってもらいます。簡単に言いますと異世界に行ってもらいます」
異世界、予想はしていた。
しかし実際に言われると俺の心にズーンと重くのしかかる言葉だ。
そして、これは力を背景にした一方的な命令なのだと理解した。
「私の世界では貴方たちには自由に暮らしてもらって構いません」
自由に暮らして良いと言われても簡単に納得はできない。
そして問題はその世界がどんな世界なのか、そしてどんな特典を貰えるかだ。
そう思っていると金髪さんが誰かを指差すのでそちらを見ると二十代のイケメンが手を挙げていた。
「はい貴方、発言を許します」
手を挙げたら発言を許すって、「学校かっ!」とツッコミを入れそうになる。
「ありがとうございます。質問をさせていただきます」
「はいどうぞ」
金髪さんはイケメン好きなのかと思うほどに先ほどの男と違い対応が柔らかい。
手を挙げたのが良かったのだろうか?
「貴方の管理する世界はどのような世界なのでしょうか? また、私たちがその世界に赴くメリットはあるのでしょうか?」
イケメンが直球で質問をする。良い度胸だ、俺には真似できない。たが、ナイスな質問だ。
「そうですね、私の世界は科学はあまり発達していません。地球の時代で言えば中世頃が一番似ていますね」
綺麗な顔には相変わらず笑みが貼り付いている。
しかしその視線は鋭く俺たちを値踏みしているかのようだ。
「ただし、私の世界には地球では採用されていないレベルやスキルといったシステムが採用されています」
会場内が騒つく。俺は声を出さない。
あの金髪さんの指示なく動いたり声を出したりするのは得策ではないと思うからだ。
何の根拠もないが従っておけと、もう一人の俺が言う。
「それと特典として種族の変更に能力値やスキルを選ばせてあげましょう」
「もう一つだけよろしいでしょうか」
「一つだけですよ」
「ありがとうございます。貴方の管理する世界から地球に戻ることはできますか?」
「……戻ることは可能です」
意外な返答に嬉しさのあまり笑みをこぼす人たち。
「但し、今ここにみえる貴方たち全員ではありません。ここには千人の地球人を集めていますが、十人。十人だけは一定の条件を満たすことで地球に戻れるでしょう」
まさかの一パーセント!
「その条件とは?」
ばか、それじゃぁ質問が二つだろうが!
俺がそう思った瞬間、再び俺たちを襲う圧力、数百人がその場にうずくまる。
「質問は一つと言いましたよ」
とんだトバッチリだ、何倍もの重力が体にかかっているようで息がしづらい。
暫くすると金髪さんの気がすんだのか、重圧から解放されると何もなかったかのように話し始める金髪さん。
「では特典を与えます」
金髪さんの声と同時に目の前にモニターのような物が現れる。
半透明のそれには『容姿』と表示されている。
周囲の様子を窺うと他の人が見ているであろう半透明のモニターは見えなかった。
しかし驚きの声が上がっていたことから他人には見えないのだろう。
「画面の左下にはポイントが表示されています。そのポイントがある限り貴方たち自身を編集できます。時間制限はありませんのでしっかりと編集してくださいね」
ポイントは二千五百ある。これが多いのか少ないのか分からない。
他の人たちのポイントも二千五百なのかも分からない。
だが、これが今の俺が使える全ポイントだ。
金髪さんの指示に従って画面の『容姿』をタップする。
現れたのは見慣れたリアルの自分の姿。
そして『種族』と『年齢』と『性別』という項目。
自分の容姿がパンイチなのは地味に嫌だ。
『種族』をタップするとヒューマン、エルフ、ドワーフなどのファンタジー系物語では定番の種族から吸血鬼やゴブリンなどの種族まで多種多様だ。
こういう場合、SWGにログインしようとしてここに来たのだから普通はSWGのシステムに似ているのが普通だと思ってしまうが、まったく似ていない。
試しにエルフをタップしてみると画面上の俺の姿が金髪、長髪、耳長、美形に変化する。
顔の造りは俺だが1つ1つのパーツが洗練された感じでかなりの美形だ。
ちょと嬉しくなって身長とか髪の毛の色などを変えて自分の姿の変化を楽しんだ。
そして画面の左下を見るとポイントが二千二百に減っていた。
もしかしてと思いエルフから元の自分の姿に戻すとポイントも二千五百に戻る。
更に『そのまま』をタップすると『種族はヒューマンで容姿はそのままで確定しますか YES/NO』と出てきた。
ポイントは二千五百のままだった。
ヤバかった、種族を変えるとポイントを消費する罠かよ。
取り敢えず『NO』だ。
種族に関してはエルフにすると二百ポイントも消費し、他にも天人などの見た目が良い容姿の種族にするとポイントを多く消費する。
逆にゴブリンやオークなどにするとポイントが減るどころか逆に増えた。
種族がヒューマンのままでも容姿を変えるとポイントが少し減る。
変更点が多いほどポイントの消費が多くなるのが分かった。
体型を細マッチョにし、吊り目を修正しパッチリ二重にして身長を五センチメートル高くした。
これで三十五ポイントも消費する。
残り二千四百六十五ポイントで次の設定に進む。
次は年齢で、リアルの年齢の二十六歳を二十歳にしたら更に三十ポイントも減ってしまった。
六歳も若返ったのだからポイントには代えられないと考え決定。
『性別』は男のままなので変更なしでポイントの変動もない。
次は能力一覧が表示された。
氏名
情報:ヒューマン 男 20歳
HP:150
MP:100
筋力:30
耐久:25
魔力:20
俊敏:25
器用:35
魅力:25
幸運:5
ヒューマンというのが地球人の標準容姿なのだろう。
まぁ、人間という意味なので間違いはないと思う。
画面上に現れた各種能力がヒューマンの標準なのかは分からない。
そしてSWGとはかけ離れた能力構成。SWGでは無いとほぼ確信する。
更によく見ると画面には『戻る』の文字やそれらしき記号もないので一度確定すると戻ることができないようだ。
種族にエルフがあるし、能力にも『MP』や『魔力』があることから高い確率で魔法があると思う。
金髪さんはスキルがある世界って言っていたが、スキルと能力に振り分けるポイントの比重をどうするか悩む。
能力の中で一番低い幸運を除けば魔力が最も低いので魔法は得意ではないと考えるのが妥当だろう。
そうなると筋力や耐久を上げて前衛向きの能力にするのが良いのか?
……ちょっと待てよ。俺は戦闘のことしか考えていなかった。
だが地球でもそうだが生産系の仕事もあれば商人のような非戦闘、非生産の仕事がある。
これから行く世界にだって多種多様の仕事があるだろう。
なら、戦闘系に拘る必要はないはずだ。
それにあの金髪さんは好きに生きて良いと言っていたし俺は性格的にも近接戦闘は合わない。
そして遠距離だからと戦闘系を選ぶ理由もない。
これはSWGではないのだ、戦闘をしなくても生きていける可能性はあるのだから非戦闘系を目指そう。
待てよ……たしか地球に十人だけ帰ってこられると言っていたよな?
帰ってくるには何らかの条件を満たす必要があるだろう。
非戦闘職でその条件が満たせるのだろうか?
分からん……どうするか……
分からないものは仕方がない。非戦闘職でもある程度の戦闘ができる仕様で考えるしかない。
能力の中で最も高い値の器用を上げる案が浮かぶ。
しかし異世界に送られていきなり生死をかけた戦いがないとも限らない。
あの金髪さんならやりかねない、と思うべきだ。
移動直後の戦闘を想定するべきか、それとも生産や商人の方向性で行くか、中途半端に満遍なく振るのはダメだ。
そんなことはあの金髪さんは嫌いのはずだ、何の根拠もないがそう思う。
……よし、これで行こう。
幸運を上げる。幸運を一上げるのに七ポイントも使う。
幸運を百まで上げて六百六十五ポイントも消費。
幸運値は百より上げることはできなかったので、これがマックスなんだろう。
器用も百まで上げる。器用は一上げるのに二ポイントの消費なので百三十ポイントの消費だ。
あとちょっと期待を込めて魅力を五十まで上げる。これは俺のエゴである!
ここで長考する。もしかしたら生産でもMPが必要なのだろうか? よくあるパターンだとMPを消費して生産する。
その場合、いくら器用が高くてもMPが少なくて生産ができないなんて落ちに成りかねない。
ならばMPを伸ばすのもありか、と。
MPは一上げるのに一ポイントの消費なので五十ポイントを消費して百五十まで上げる。
これで残り千五百六十五ポイントになった。
能力はこれで終了なので『次』をクリックして確認メッセージに『YES』。
氏名
情報:ヒューマン 男 20歳
HP:150
MP:150(50↑)
筋力:30
耐久:25
魔力:20
俊敏:25
器用:100(75↑)
魅力:50(25↑)
幸運:100(95↑)
次はスキルだ、と思ったらここで意外な画面が現れる。『成長補正を決めてください』と。
先ほどの能力アップを台無しにしかねないシステムだ。
とは言え、決めなければ先には進まない。
現在の成長補正は『HP』から『魅力』まで画面に表示されている。
あれ……幸運は?……まさか幸運は先ほどの能力で固定なのか?
なら百にしておいて正解だった。
成長補正は全て『C』、大概のゲームでヒューマンは平均的な種族ってイメージがある。
成長補正はそれを具現化しているようだ。
MPを『C⇒B』にしてみると二十ポイントを消費、そして『B⇒A』で三十ポイントを消費する。
まさかと思い『A⇒S』もあったが五十ポイントも消費し、その上は……あった、『EX』で百ポイントの消費だ。
器用も上げたが『EX』はなく『S』止まりなので『S』にしておいたし、魅力は『A』に上げたので残ったポイントは千二百十五ポイントだ。
最後はスキルの画面だ。いや、最後かは分からないけどね。
しかしやっとスキルの画面となった。なんだか長かった。
スキルは上から『アクティブスキル』、『パッシブスキル』、『魔法スキル』、『ユニークスキル』の順に4種類がある。
一般的な考え方として『ユニークスキル』は強力なスキルのことをいうはずなので下から行こうと思う。
タップすると画面にズラーーーーっとスキル名が表示される。
『剣王』や『賢者』などの定番から『お笑い芸人』なんてネタ系?まである。
一通り目を通し『魔法スキル』、『パッシブスキル』、『アクティブスキル』の順に網羅していく。
そしてここでポイントを全て使うつもりでスキルを選んでいく。
またのお越しをお待ちしています。