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友達を作るには舞台が必要って聞きました

 ザラザラと音を立てる砂を踏みしめながら僕は足を一歩、一歩と前へ進める。

 空からは僕への慰めか、同情か、それともただの辱めか。徐々に勢いを増す雨が降り注ぐ。

 ギシギシと関節の軋む音がする。限界まで酷使され続けた僕の身体は既に悲鳴を超えて断末魔の如き叫びをあげている。


 …休みたい…………寝たい…………


 精神的にももう限界なようで頭にはそういった言葉の数々のみしか浮かぶことはない。

 しかし僕はめげずに歩き続ける。先に希望があると信じて………………

 〜end〜



 …いやまて、終わるな。

 僕の人生ここで終わってたまるか。

 なんでこんなどこかも分からない地で僕は倒れてる?

 生きる意味をくれとは言わないがせめて死ぬ理由くらいは教えて欲しい。

 そうだ、あれは確かいつも通り僕が眠ろうとしていた時…




「クリスマス、か。リア充様方は揃いも揃ってご苦労なこった。」

 PCの画面には『クリスマス特集!』と銘打たれたサイト。華やかに彩られたそれは僕には少し似合わない。

 ため息をつきながらサイトを閉じ、カチカチっといつものリンクを開く。

『-Now Loading-』と読み込みを示す文字が画面を埋め尽くす。

 そう、僕は世にいうニートだ。人生の上流階級者にしてもう一つの世界を活動拠点とする者、ニートだ。

 親からはとうに愛想をつかされ友人達は皆離れていき萌えるべき嫁たちはサービス終了という非情な現実により別れを余儀なくされ、首をくくろうとした事だって一度や二度ではない。

 そんなある日、コレが僕に届いたのだ。


『Connecting…』と文字が変わり、数秒後に画面が開ける。そこに映るはもうひとつの現実。

 名は『アレフコッド』。


 ある日突然届いたメール。そこへ添えられていたリンクの先がここだった。

 新手のウィルスや詐欺等を警戒した僕だったがどうやらそうではないようだったし僕もこういう非日常感溢れるイベントは嫌いではなかったので騙されてみたのだが…これがなかなか面白かった。

 まるで意志を持ったかのように精巧なNPCに映像と見間違えるほどの高画質な戦闘シーン、何故これほどよく出来たゲームが僕の耳に…いや、目に入らなかったのかは疑問だ。

 しかし唯一欠点をつけるとすればアクティブユーザーの数だろうか。

 このゲームはMMORPGというジャンルのようだが別に戦闘だけではなく『スクール』という施設で学園生活をしたり、農園や企業を経営したり…と、まさにもうひとつの現実。

 だが不定期に行われるメール配信を受け取る以外にアカウントを作成する方法はないようで、ユーザーは普通のその手のゲームの1/100ほどしかいない。

 僕はこの第二の人生を、『剣士』として歩むことに決めた。

 学校にもう一度通いたいとも思わないし農業だったり、普通の生活には特に興味は無い?

 やっぱり普通に王道ファンタジーに憧れるのは男の子なら当然だろう。

 そうして僕はあの日、アレフコッドへ旅立った。



 …カチ、カチッ、

 部屋に響くはマウスのクリック音。

 僕はこのアレフコッドで剣士として大成していた。

 他のタイトルではそこそこ名を挙げた実績もあり、他のユーザーよりも頭一つ分抜き出た成果を誇り、それゆえに憧れられ、僻まれてきた。

 しかしこのゲームには見知った顔は全くいない、それに広大なマップ故に常に新鮮な空気を味わえる。

 しかしこう長くネトゲ廃人として生きているとなんとなくダンジョンの作りも癖がわかってきてしまう。

 今回も高難度ダンジョンをたった10分程度で最奥地へ辿り着く…はずだった。

「………?」

 僕は画面に向かって首を傾げる。

 明らかに今までのマップとこのマップは作りが違いすぎる。

 道が無数に近い数存在し、もはや癖などと言った問題ではない。

「…上等、だ…!」

 机の上のお菓子を思いっきり頬張り、画面を睨む。

 ここまで素晴らしい世界にこんな無理ゲーがあってたまるか、僕は何か見落としているはず…

 …そして2時間後、僕はついにキーボードを叩いた。

「…分からない」

 そう、二時間の思考の末に分かったことは分からない、ということ。

 とにかくこのマップから出よう。市街地へ戻り対策を練ろう。そう思いキーボードを叩いた瞬間…

 派手なSEと鳴り響くBGM。

 このBGMは…

「フロアボス…だと…?馬鹿な…すぐ後ろに出口があるってのに…」

 驚きのあまり口をついて疑問が出てしまうがそんなことは関係ない。まずはコイツを狩るのみ。

 しかし

「…?このBGM…どこから…?」

 気付けばどんどん大きくなるBGM。まるで部屋中から鳴り響くようだった。

「…不具合か?大き過ぎると親が起きてくるんだよ…っ!!」

 苛立ちに顔を歪ませ画面を睨みつける。何故かスピーカーのマークへポインタを合わせても反応しない。

 ならば…電源コード!

「…は………?抜けねえ…!!!」

 まるでコンクリかなにかで固められたかのようにコードは抜けない。筋力がそこまで落ちているわけでもないだろうし気が動転しているのだろうか。

「くっそ…!コイツを倒すのが手っ取り早いか…」

 乱暴に椅子に座り直し、操作を再開する。

 しかしやはりこのマップのボスというだけありなかなかの手応え。

 いつもなら胸を踊らせ対峙するところだが今はそんな余裕はない。

 …気付けばBGMは耳に入らなくなっていた。集中が限界に達し、僕は思考を始める。

 奴の攻撃パターンを読み切れ。

 即座に動きに対応しろ。

 僕なら出来る、そう、僕なら…………



 いくら時間が経ったろうか、数時間か、それともたった数分だったんだろうか。


 肩で息をしながらディスプレイを見やるとボスは溶けるように消え、僕のアバターに大量の経験値とアイテムが加算された。


 喜びを感じる間もなく倦怠感。僕は目を瞑り、睡眠を決意する。

 ログアウトしようと重い手を動かし…ポコン!という音で手を滑らせ最小化ボタンをクリックしてしまい、アレフコッドの下に開いていたメールソフトが画面に映る。

『新着メールアリ』という表示に目を向け、しばし迷った末にクリック。

 正直もう寝たかったが相手がアレフコッドの運営とあらば話は別だ。

 先ほどの件の謝罪だろう、さすがは対応が早い。

 と思っていた頃も僕にはありました。


「…?なにこれ、アカウントプランの変更のご案内…?」

 長い期間ネトゲーマーとしてもニートとしても歩んできた人生だがこの手のゲームでこの手のメールが送られてきたことは初めてだ。

 今までは信頼という言葉以上に信頼していたアレフコッドだが、今は先ほどの件のせいか不信感を抱かずにはいられない。

 しかし、あの時だってそうだったじゃないか、この世界へやってきた時も。

 こうして腐っていくくらいならどうせなら面白そうな餌には食いついてやろう、と半ば裏切られる事を確信しながら期待を込めてこの世界へやって来たじゃないか。

 僕は苦笑しながらリンクを開いた。


 瞬間、画面は暗転した。

 …いや、視界が、暗転した。



 そして不意に目の前を閃光が走る。

 あまりの眩しさに僕は目を瞑る。

 しかし瞼を突き抜けるその閃光に僕は呻く。

 その時、急に光を消え、視界が開ける。

 そこへ広がっていたのは


 見慣れたアレフコッドの森だった。

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