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侵攻作戦開始

 北風が強く吹き肌寒くなってきた秋の終わりにコネックは作戦を実行した。コネックは全国に数か所の基地を有していたが、数か月前のサイト急襲以外は特に目立った行動を見せてはおらず、世界平和維持局の的にはなっていなかった、というより国内でもサイトもしくは特別避難地区に属していない地域の情報を完全に知る事など不可能な事であり、その弱みが今回の電撃戦で浮彫となった。

 見晴らしのいい広大な土地に建てられたサイトがシェリル・フュウデオ隊の担当であった。部隊は多数のトラックを引き連れてでの大所帯であったが検閲もなく正門前まで来られた、もちろんここまで来たのは作戦ではなく、無知だったからである、もし作戦参謀などがいれば偵察もなしに敵陣に入り込む事などまずしない。しかし、逆にそれが敵の意表を突く形になったのであるが、リスクやダメージを考えればやはり欠陥的ではあった、まず彼らの作戦とは内部侵攻、制圧という至って簡単な作戦であった。フュウデオとシェリルである、考えが複雑になる方がおかしいであろう。ケイウッドの部下達も内政には長けていたが兵法や軍事行動については素人同然であった。維持局側も怪しんだ事は怪しんだが、部隊が隊列を整えたまま徐行して正門前まで来たので敵意はないものと勘違いをしていた様である、しかしそれもフュウデオがトラックの荷台から出てくるまでである、彼を見た者達は自然に恐怖を感じた、それはフュウデオが超越者であるからではなく、ただ単に強者を見た時に感じる動物的な直感から来るものであった。もちろんその恐怖はすぐさま現実の物となった、フュウデオがいとも簡単に鉄の扉を破壊し、内部に侵入して来た。正門を開けさせないべく敵襲の緊急警報を鳴らし、正門の護衛に当たっていた一個分隊が全員でフュウデオの前に立ち塞がり、

砲火を浴びせた、もちろん彼等はそれで終わったと思っていた、しかしフュウデオの身体には傷一つ負わせる事は無かった。フュウデオはここ数十年軍の特殊部隊で用意られていた特殊ナノ素材装備で急所を覆っており、さらに彼の両腕にもそれらしき物が巻き付けられていた。この装備はケイウッドが素材を利用し手を加え作成した物である、対接触者用防護服などとは素材も作りも次元の違う逸品である、巨体故に動きは遅く銃弾を避ける事が難しいフュウデオでも腕は目視出来ない程に素早く動かせる、彼は眉ひとつ動かす事なく一個分隊が同時に発砲した小銃の弾丸全てを捌ききったのである、この時点で分隊は四散した、人間ではない化け物だ、それしか彼らの脳裏にはなかった。フュウデオは逃亡する連中に構う事はせず、部下に正門を開けさせると山の様な巨体をゆっくり動かしながら敵陣本丸を目指した。この時すでにシェリル隊の犬達が戦場を覆い尽くし勝敗はすでに決していたと言っても過言ではない。

 川に隣接するサイトを少し遠目からケイウッドは観察していた、以前より偵察隊を送っているので敵の内情やスケジュールを熟知している、そろそろのはずだ、そう彼が思うとサイトに向けて輸送部隊らしいトラックが数台サイトの中に入っていく、それを確認するとケイウッドは部下達にサインを送り、自らも敵陣へ向かった。彼らが正門前に着くと門はすでに解放されヴェスタークがお辞儀をしながら彼らを迎え入れた。一時間ほど前にヴェスターク隊を輸送部隊の通り道に配置しており、部隊を殲滅した後に輸送部隊になりすまし堂々と正門から侵入し、門を落としたのである。この時点では敵には未だ戦意があり、銃弾が飛び交う戦場であったにも関わらずその阿鼻叫喚の中ただ一人道化を演じるヴェスタークがいた、この男にとって命のやりとりとは一体なんなのであろうか、そして万が一という理不尽が我が身には起きないという絶対的な自信がこの男にはある、ケイウッドは微笑む道化に戦慄を覚えていた。しかし彼の感じた戦慄などサイトの守りに就いていたいた部隊の感じていた恐怖と比べれば他愛のないものかも知れない、その違いも対象が明らかになっているか未知であるかの些細な違いであるが。コネックの中でも指折りの実力者二人での作戦である、失敗する方が難しいと思える程戦闘は一方的であった。両者が的確にサイト内の要所を陥落させていった、両名共に兵法家としての手腕も見せつけた、しかし両者の布陣は完全に異質でもあった。効率と無用なリスクを避けるケイウッドは部下に方陣を取らせ自らは後方で指示をしていた、それに対しヴェスタークは偃月陣形を取り自らも積極的に戦闘に参加していた、ヴェスタークの部下は先陣で舞うように戦う指揮官の勇猛であり華麗でもある姿に鼓舞され士気が高められていった。サイトの軍司令部に到達したのはケイウッドの部隊の方が若干早かった、ヴェスタークの遊び癖のせいである、この道化は事ある毎に舞台役者の様に振る舞い時間を無為に費やす場面が多かった、それでも部隊はほぼ無傷であったのだから責めようがない。両部隊が揃うと同時に本丸に突入したが、総司令官はすでに自害しており、参謀であった少将が降伏を認めた。

 

 ケイウッドの立案通りに事は進み、二つのサイトは完全に陥落した、その他の地域もほとんどがコネック側の一方的な大勝で終わり、この事実は世界平和維持局を驚愕させた。完全に意表を突かれた電撃戦ではあったが、ここまで大敗するとは誰も想像していなかった、しかしこれは世界平和維持局がコネックを最大の敵として認めた瞬間でもあった。そして、世界平和維持局本部ではこの由々しき事態に即座に対応し、方針を示した…

 

 木枯らしの吹く寒空を仰ぎながらクルトは本部演説の為に召集された広場でその時を待っていた。数多くの見慣れない顔があった理由も、この演説が行われる理由も勿論熟知していた。コネックという無法集団が無差別にサイトを攻撃している事は既に末端の者にまで知れ渡っていた。恐らく今日の演説はこれから起きるコネックとの全面対決を表明する為であろう。そんな事を考えていると、あの日彼が質問の受け答えをしたヘルムート閣下が大衆の前に姿を現した、クロムウェル閣下も後方に構えている、同じ地位の二人ではあるが演説は決まってヘルムート閣下が行った、それはやはり彼のカリスマ性が大きく影響していたであろう。クルトはあの日以来、両元帥を熱狂的に支持している、それは最高幹部だからではなく、純粋に軍人として、いや人間として感化されたのだ、と彼は周りに語っていた。

 間もなく演説が始まった。

 「諸君、我々は今、平和と自由を侵害しようとする不埒な輩に手を焼いてる、その事は君達も重々承知の事だと思う。そして、奴らが少数とはいえ幾つかのサイトを陥落させた事も事実である、しかし!我々は平和と自由を守る為に存在している!ならば今、我々が成すべき事が何かも明白であるはずだ!平和と自由を侵害する者達に慈悲は必要ない!正義は常に我々、世界平和維持局にある!私は声を大にして唱えよう!正義は我らにある、と!そして悪辣なる侵略者共に鉄槌を食らわせてやろうではないか!奴らの行った事は平和を求める国民の意思を踏みにじったのだ!

その様な輩を退治しなくては恒久的な平和など訪れないのだ!諸君!君たちは正義の為に戦うのではない、それは我々自身が正義であるからだ!正義の為ではなく、正義が戦うのだ!歴史上を見ても正義が負けた事など一度もない!何故か!それは正義が絶対的なものであるからだ!悪とは卑劣で愚弄なるものである!そのような汚れた存在が清き正しい心を蹂躙する事は出来ないのだ!悪は一時栄えても、必ずや滅びる!我々の力で悪を成敗しようではないか!諸君らは日頃から訓練に勤しみ、国民からの信頼も厚く、さらに正義に命を捧げた勇者達ではないか!その様な気高き精神を持つ我々だからこそ!悪と戦えるのである!この戦いは決して我々だけの戦いではない!我々が正義の代弁者である限り、この戦いは人類の総意である!故に我々は人類全ての為に戦っているのである!そうだ!我々は人類の未来の為に戦っているのだ!死を恐れるな!勇敢に戦って散る者は英霊となり未来永劫人々の記憶い残るのだ!肉体は滅んでも、清き正しい心は滅ばない!だから死を恐れるな!恐れる心とは弱さである!真の正義とは恐れなどない!なぜなら正義は理解いているからだ!自らの正しさを!そして正しき者は偉大なる存在から絶対的な加護を受けているからだ!そうだ!我々は加護を受けている!だから恐れるな!我々は決して負けない!

正義が負ける事など決してないのだ!諸君!声を出して唱えるのだ!『我々は平和と自由の守護者である!』さあ!我々が正義である事を忘れるな!我々は!平和と自由の!守護者である!」

ヘルムート閣下がこう告げるとその場にいた数千人の兵達が声を大にして続けた、クルトも喉が枯れる位大きな声を出しながら軍全体と一丸になって叫び続けた、周りからは気持ちが高ぶり涙を流しながら叫んでいる者達も見受けられた、その後もマントラは続き辺りは熱気に包まれていった、ヘルムート閣下の演説はまだ始まったばかりである…

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