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コネック作戦会議

窓のない会議室では静かに作戦内容が伝えられていた、ケイウッドは今回の作戦がどれ程重要な事か理解していたので計画を念密に考えた、今回の作戦では全部隊が動く、ケイウッドは当初三つのサイト攻略を考えていたが、彼は二つに減らした、シェリルは単独での作戦遂行は難しい、フュウデオはサイト陥落後の事後処理能力に欠ける、そしてヴェスタークを単独で行動させるのも安心出来ない、その様な理由で彼はサイトの数を減らした、なにより二つのサイトに絞る事で陥落は盤石なものになる、その効果は大きい。そこで編成をシェリル・フュウデオ隊とケイウッド・ヴェスターク隊に分けた、しかしこの部隊編成の問題はシェリル・フュウデオ隊の事後処理にあった、シェリルは処理能力が高い訳でもない、フュウデオに至っては皆無である、そこでケイウッドは彼直属の部下数名をシェリル隊に加える事でそれを補う事にした、ケイウッド・ヴェスターク隊はほぼ全ての能力が必要値を大幅に上回っていたので部下の数名を異動させてもなんら問題はなかった。今回は犠牲を少なくする為に接触者部隊は使わず、コネック正規兵で作戦が遂行される、その為に前回の様な奇抜で低リスクな作戦は実行出来ず、正攻法での襲撃になるので失敗は許されない、試行錯誤を繰り返し練り上げた作戦である、ケイウッドには自信があった。

 しかし、その作戦も部隊が作戦通りに動いてくれてはじめて成功するのである、彼にはそこが不安であった。シェリルはあんな調子だがしっかりと命令通りに動く、フュウデオも無口で何も言わないが命令を理解しその通り行動する。不安要素はこの仮面の男である、ケイウッドは実際の所ヴェスタークに恐れすら感じていた、この男が命令違反をした事はないし、行動も効率的でむしろ模範的ともいえる、頭の回転も速いし、感も鋭い、戦闘能力もかなり高い、それに何故かは分からないが下の者達からの人望も厚い。非の打ち所がない名将と言っても過言ではない、しかしだからこそ恐怖を感じる。この男は道化を演じている、これだけバランスの取れた者が愚者を演じている、それがあまりにも不気味であった。この間の山間部サイト陥落も、彼のヴェスタークに対する畏怖を強めた、彼の行った敵将の公開処刑、普通ならばこんな残虐行為を見せられて同調する者などいない、しかしあの場にいた維持局の兵士達のほぼ全てがコネックに寝返った、ただ立場を変えただけではない、狂信的とも思えるほどコネックの、いや、ヴェスタークの理念に陶酔している。この仮面の男が愚者を演じるのは、周りを安心させておいて反旗を翻す機を待っているのではないか、馬鹿らしいと思いつつもケイウッドはそんな疑念をヴェスタークに抱いていた、そんなケイウッドの考えをヴェスタークは知ってか知らずかいつも不気味に微笑んでいる、周りがどんなにこの仮面の男を笑い者にしてもケイウッドはこの男を笑う事はしないであろう、なにより彼は恐れていた、この男を笑った時が自分の最期ではないか、と。

 一通りの作戦について話し終わるとケイウッドは質問があるか聞いた、即座にシェリルが元気に手を挙げた。

「前の作戦で幹部になった人はいるんですか?」

「残念ながら、今回の接触者の中にはおりませんでした、超越者である確率は1パセーント未満  ですので仕方ないですが、本当に残念です。」

 ケイウッドは肩を落とし頭を振りながら答えた、超越者というのは感染後に身体進化を遂げた者達の事を指した、名付けたのはケイウッドである、コネックの幹部構成は{超越者は幹部である、幹部は必ずしも超越者ではない}という形だ。今現在までで利用価値のない超越者にケイウッドは会った事がなかった、ほとんどの超越者はバランス型であったが中にはフュウデオの様な異端者もいた、しかし知性面が乏しくとも戦闘力は組織でトップクラスである。その為、コネックは超越者を自動的に幹部にした、万が一使えない者が幹部になったのであれば後で降格すればいいだけの事である。重要な戦力になる超越者が得られなかった事は確かに肩を落とす理由の一つかも知れないが、ケイウッドの落胆する大きな理由としては新しい研究材料が手に入らなかった所が大きい。この変人、もとい、学究の徒であるケイウッドは幹部であろうが仲間であろうが彼の研究意欲を燻る者は全て被験体であり研究対象なのである、そして今現在彼の一番の興味は彼自身も含めた超越者である、他の者に止められているので実行には移していないが、彼は非超越者全員に接触者ウィルスを投与する事を推薦した事もある、それは憎悪や破壊欲求からくるものではなく、純粋な探究心が元であった、しかし他の者達から反対意見が出ると周りが驚くほどすんなりと引き下がった。もともとそれが組織としては非効率である事を彼自身が一番知っていたので引き下がったのだが、だからこそタチが悪い、言いかえれば自ら不条理と分かっていても探究心を抑える事が出来ないという事である、しかもそこに悪意はないので彼にとってそれを正義とさえ呼びかねない、実際に彼の信条は全体の向上の為には個人の犠牲はやむを得ない、である。もちろん周りは彼のこの異常な研究心の事をよく心得ているし同時に観念もしている、日常でのケイウッドと超越者の挨拶はまさに研究者と被験者の質疑応答と変わらなかった。もちろん超越者でなくともシェリルの様な特異な人間も彼の研究対象であった事は言うまでもない。

 シェリルの質問の後にヴェスタークが手を挙げ質問した

「此度の作戦でサイト陥落を完了した後、我々はどうすればよいのかな?」

「本部からの応援部隊が到着するまでは滞在して頂き、現場の治安回復及び維持に専念して頂  きます。その後に幹部全員を召集しての会議が予定されておりますが、詳細は決まっておりませ ん。」 

「陥落後の混乱を治めるには相当の指揮力が必要と思うが、私と博士が一緒に行動するよりは  別々に行動した方が効率的だと思えるのだが?」

 ヴェスタークは不気味に微笑みながら意見した、ケイウッドはこの男のこういう所が気に障った、ヴェスタークは自分に監視役が付いている事を承知している、その上であえてこちらの出方を見るかのようにあざとく振る舞うのだ。ケイウッドはフュウデオとシェリルを軽く見た後に答えた。

「陥落後は確かにお二人には向かない作業ですが、私の部隊から指揮監督に優れた者数名に  補助させます、しかしサイトを攻める面においてはシェリル隊の機動力とフュウデオ隊の破壊力の 組み合わせがもっとも相乗効果のある効率的な編成だと考えました。」

 ヴェスタークは笑みを浮かべながら同意し、うなづいた。本当に得体の知れない不気味な男だ、ケイウッドは内心そうは思っていたが、彼の能力を軽視する事は出来なかった、何よりもこの男も大切な研究材料の一つなのだ、無為に離反させる訳にはいかない、そんな複雑な胸中であった。

 シェリル、ヴェスタークと質問の順が回ったので一応ケイウッドはフュウデオに目をやったが、もちろんこの男が喋る訳もなくただ黙って巨大な腕を組んでいるだけであった、気が付けばシェリルが何やら楽しそうに犬の両手を持ってフュウデオの腕に犬の肉球を押し付けながら遊んでいた、それでもフュウデオは動かず、犬は若干困った様子で主人のなすがままにされていた。この時ケイウッドは自らの編成に若干の不安を持った事は言うまでもない。

 かくして会議は終了し、各部隊が戦闘準備に取り掛かった。この時はケイウッドでさえ勢力の拡大に準ずるリスクと犠牲しか考えに含んでいなかった。誰が、勝つか負けるか、それ以上の結果を予想出来るであろうか、しかし結果が表れるのはまだ当分先の事であった…

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