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ケイウッドは考える

ケイウッドは椅子に座り長い会議テーブルに肘を乗せて考え事をしていた、特に考える事は無かったのだが、とりあえず他の者達が来るまで時間を潰さなくてはならなかった。そこで彼は各政治体制の理想と現実について思いをはせながら、考えを殴り書きではあるが手元の紙に書いていた、まずは君主制や貴族政等の権威主義について書き始めた。

 『これらの理想とするところは個人や少数の人物が定めた正義、秩序、目的を民衆と分かち合いそれらの理想を実現する事にあったはずである。民衆とは従順なものだ、一部の知恵や力のある者達が全体をコントロールするなら疑問を持たずに従う、特に王権神授説などの絶対的な存在が授けた権力であると言われれば納得するしかない、勿論これは無知による所が大きいが、責任から逃れたいという欲求も含まれている事だろう。しかし問題は権力を持つ事によって増大する欲望に歯止めがきかない所だ、数世代に渡る権力の横暴は際限を知らず民の狭量限界まで圧迫、そして暴発する、この体制はバランス云々以前の問題だろう、私利私欲の欲望によって支えられた政治体制等機能するはずがない、稀に生まれる名君の確率に対して暴君や暗君の生まれる可能性は圧倒的に高い、それでは長期的な発展を望む事は難しい。それでは民主主義はどうか、これも権威主義に似た所が多い、国民の支持によって決まる政治体制の理想は素晴らしいのかもしれないが、大多数の意見とは然るところ少数の者達がいかに民衆思想を操作出来るかである。実際に、資本主義が台頭していた今世紀初頭は正に金が物を言う状態であったであろう。ほぼ全ての報道機関は最大支持を得ている候補者しか宣伝はしない、その数少ない候補者も資金が豊富な者達だけが大々的な政治宣伝を行える、事実多数の選挙の結果とは宣伝費用に比例していた場合が多い。これは永続的な力を得る訳ではないが、根本的には権威主義とあまり変わらないのではないだろうか、勿論極端な意見を持つ政党等は支持を得られないのでそこまで悪政が敷かれる事はないが、それでも大多数の人間が必ずしも正しい訳ではない。民主主義の問題点は、国民の意見を聞く事で支持を得るのではなく、いかに国民の意見を操作出来るかが重要になってしまった事ではないか、しかしやはり民衆操作の面では民主主義に勝るのは難しいだろう、何よりも国民が選んだ政府なのだ、その事実だけで体裁が整ってしまう。もし国民が政党を選ぶのではなく、国政の姿勢を選び、政党等に縛られない議会が国民思想を反映させられれば理想的なのだが、それだと政治家になる見返りが極端に少なくなる、国は潤い、政治家は細る、アイロニーなのだろうか。それに対し全体主義は完全に真逆と言える、一つの政府が社会理念、社会正義、社会秩序、全てを決め、それを絶対的な信条として国民の生活方法を決める。これ程矛盾した政治体制も珍しい、国民あっての政府のはずが本末転倒、政府の為の国民になっている。だが、これも皮肉な話だ、自己犠牲が美徳なのであれば全体主義こそ至高の体制であるべきだ、個人の理想や意見を全て捨て社会全体の為に生きる、なんとも聞こえはいい。だがもちろんそんな高貴な理想を人間が現実化出来る訳がない、政府機関の者達も私利私欲を完全に捨て社会の為に働く事などあまりにも虫がよすぎる。力を手に入れて純粋な権力のみを欲するならば正義ともいえるだろう、しかし大多数の者にとっては純粋な権力など目前に広がる煩悩と欲望の前には無意味である、自らの欲求を完全に捨て去り権力のみを欲する事は極めて奇異である、その様な異常な精神が社会全体で膨らむ事が可能であればこれ程効率的な社会制度はない…』

 ここまで書いた後に彼は一度頭を整理し、どの様な社会体制が今一番必要なのだろう、と考えを巡らせた。

『世界平和維持局の行っている事は全体主義に近い権威主義だ、確かに今の様な混沌とした世界ならば国民を守る上では理想的な社会体制かも知れない、しかし、生き物から苦労や努力を取り上げる事は間違っている、生き物は苦しい状況から次なる発展へ向け躍進するのだ、その自然の理を歪める事があってはならない、人間である以前に生き物なのだ、すでに人間かどうかも怪しい私でも生き物であるという事実は揺るがない…』

 するといきなり扉が開きヴェスタークが入ってきた、いつみても彼の変態、もとい、変わった面持ちは変わらない。入ってくると同時にマントを翻しながら自らの席の前まで来るとケイウッドに会釈し着席した。ケイウッドが目をノートに落とした直後、再びドアが開き今度は巨人と言っても差し支えの無い巨体が部屋の前で入りたくても入られずにいた、ヴェスタークが両開きになるもう一方の扉を開けて何とか入れた。ヴェスタークは身長が185㎝を超える程の高い身長であるが、この巨人は余裕で2mは越している上に体格が異常な程大きく200Kgは軽く超えているであろう、隣にいるヴェスタークが小人の様ですらあった。この頭を短く角刈りに剃り上げた巨人の名前はフュウデオ・オブロフスキィ(Fudeio・Obrovsky)とにかく無口で知られている男である、彼の席だけ特別な椅子が用意されていた、特別大きな椅子も彼が座るとまるで玩具の椅子の様であった。ここで一息つけた、しかし、ケイウッドは若干困っていた、この面子、無口の巨人に奇妙な仮面男、これでは日常会話的な空話が出来ない、仮面男だけでも会話に違和感を覚えるというのに、さらにこの巨人の圧倒的な存在感が重苦しい空気を醸し出していた。そうこうしている間に扉が元気よく開きシェリルとグレンが入ってきた、この妙な部屋の雰囲気を壊してくれた彼女とグレンはまるで天使と従者であった。何よりやっと全員が集合したので会議に入れるのである、それが彼にはなにより一番嬉しかった。そして全員が席に着くとケイウッドは改まって全員に会議の議題を伝えた。

「この度のサイト陥落の勢いに乗り、これより我々は複数のサイト同時侵攻作戦を開始したいと思 います。」

これはケイウッドが信じる正しい道の具現化であった、それが万人に対して正義でなくとも彼は自分の信じる正義に向けて全力を注ぐであろう、彼らの行動が正しいか誤っているかは問題ではない、個人の信じる正義を裁く権利とは一体誰にあるのであろうか?変化を求める強固な意志が例え悲劇を招くとしても、それは怠惰と堕落に感けるよりも自然の理に適っているのではあるまいか、それを悪として裁く事は正義なのであろうか?それは個人の意見に任せるとしよう。何はともあれ、激動の時代はまだまだ始まったばかりであった。

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