フォティニア王国の育児日記
アルフェラートは、フォティニア王国の第一王子として生まれた。
魔力と才能さえあれば割と何でも有りなこの世界においても、規格外のスペックを持って生まれた奇蹟の子だった。
一歳の時に、その子の未来を占う為に行われる選び取りの儀で、「世界を三回滅ぼして余りある力を持つ」と微妙に不吉な神託を受けてなお、
天使のような外見と、にじみ出る知性も相俟って、実力重視の国柄において未来を託せる子だと両親は素直に喜んだ。
ただ、赤子特有の行動があまり見られず、
手がかからないと言えばよく聞こえるが何にも執着が無いようだと乳母の報告を受け、その点のみ気にはかけていた。
だがそれも、3歳を迎えてまもなくの頃、妹姫であるリオルーチェが産まれるまでの事。
妹姫の誕生に際して「私がこの手で取り上げます」と言いだした、治癒魔法も含めた各種魔法完備!な王子(……重ねて言うが3歳である。)に対し、
今回はやめておこうなと、父王自ら説得するというハプニングはあったが、
妹の眠る揺り籠を優しく揺らしながら、
「母上のお腹の中に忘れてきたものを持って生まれて来てくれた気がします。」
とはにかむ王子の頭をなで、どこかほっとした。
その時生まれた、第一王女のリオルーチェは、とある事情から、結界の張られた部屋から出せないでいる。
何の因果か、次代はなかなかに尋常で無い子が呼び寄せられるようだ。
守る為とはいえ、本来様々なものに触れ、見聞きし、心身ともに成長するべき時期に閉じ込めておかないとならない事は、両親にとってなやましい事でもあった。
世界で一番の魔力を誇る王子に、彼が愛してやまない妹姫を護る結界をはる為、城内で使う力を制限するように伝えた所、理由を問われ、
ついうっかり『ある国から狙われる可能性のある徴をリオルーチェが持って生まれた』事を教えてしまい、
「どこですか?そんな国、今日中に滅ぼしてきます。」
と、言われたのも、彼の王子、何度も言うが、3才の時の話。
怒りも何も感じてない、当たり前の声と言葉が一層怖かった。
いやまずい。
まだ何もされてないのに、疑惑のみで先制攻撃は、国としても力を持つ王子としても、今後の事を考えると、かなりまずい。
取り敢えず落ち着かせよう。
というか、落ち着くのは自分か?とか思いつつ、父の顔から、絞り出した王の顔に切り替え、
「世界はそんなに簡単には出来てない」
と抽象的な言葉で諭して、その場を乗り切ろうとしたところ、
「では、私にも対処できるよう教えてください」
とせがまれ、なし崩し的に前倒しで王子様教育を始めるという、小さなハプニングはあったものの、あっと言う間にめきめきと成長を遂げた。
産まれてくるまでは、将来国を背負って立つ身だからこそ、小さい頃はのびのびと……、なんて思っていた時期が私にもありました。
と、フォティニアの氷の王、フェルディオスは遠い目をする。
ちなみに氷の王などと呼ばれているのは、銀髪碧眼の冴えわたる容姿の所為で、中身はお人好しで子煩悩という、良い意味で完全に見かけ倒しだ。
4才の頃から身分を隠し、城下町で魔力の結晶である純魔石を売り、小遣いを自力で稼いでいる旨を部下に知らされた時には、王妃と二人で、育児書をひっくり返して頭を抱えたが、便利な魔道具を開発するようになった5才の頃、ふっきれた。
もう、好きにさせてやるのが良い。
ちなみに魔石はいくらでも作り出せるそうだが、本来貴重なものである為、いきなり市場相場が崩れるといけないので、事前に売る量は決めているらしい。
同じ頃から他国より指名で何やら依頼を受けるようになったようだが……、頼むから自分が王太子だって事だけは忘れないで欲しいと思った。
そして、王子の作った通信用魔道具にガイラルディア帝国の幼馴染みから緊急通信が届いた。
6才になった王子宛てだ。
彼の国の8歳になる13番目の子も、いよいよ大変なようだ。
今日中に対処させるからお前の血魔石持たせておけと返信すると、すぐに返事が来る。
『すまない後は頼んだ。』
非常に速くて簡潔な返事だ。
うっかり丸投げされたが、うちの息子じゃなきゃもうあれは無理って事だろう。
王女なら嫁に貰って終わりに出来たかもしれないが、どうしたものかな?
朝食前のおはようの為、息子は間違いなく妹の部屋に居る。
最近では、リオも喜んでいるようだし、諦めと言うか、兄妹仲が良いのは良いことだと思う様になった。
「マイスにアルを呼んで来させてくれ」
近くにいた雑用係……かつての護衛に指示した。
息子は、自分の願いを聞いてくれるだろうか?
国王は眼を閉じ、眉間を摘まんだ。
ぼつのサブタイトル候補:僕の考えた最強のお兄ちゃん
僕が誰か解ったらネタバレなのと視点が王様よりになったので
使いませんでした。
読みにくい?
修正すべき?