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西の国の悲劇?

苦も無く次々に筆を走らせるシェリに、食べ物や花瓶の花など目に付く物を色々描いて貰うが、すぐにネタは尽きた。

究極の箱入り姫であるリオルーチェは余りにもこの世界の事を知らなさすぎるのだ。


もっとも、芹花の記憶が無ければ、知らない事を知らないままで過ごしていただろう。

難解なクロスワードを解く様に糸口を求めてシェリに質問をした。


「シェリはお休みの日は何をしているの?」

 答えられる範囲でお願いします。と、副音声で添えながら、子供の好奇心を装いキラキラした目をイメージして問いかける。


「そうですね、明日は友達と観劇に行ってきます。」

 もしかして彼氏と?とか聞いてみたかったけど、私今、無垢な3歳だからね。


「どんなおはなし?」

 って、まだ観てないから解んないですよね。

と思ったけど、そうでもないらしい。


ここ数年でかなり人気の脚本で、繰り返し上演されている巫女姫と騎士の悲恋ものらしい。

物語くらい、ハッピーエンドにすればいいのに……、リオルーチェには理解できないが悲劇系の需要はある様子。


エンディングの仕掛けの派手さが良いと、シェリは言う。

シャンデリアが落ちて来る的な?と言う突っ込みは心の中に留める。


「巫女姫を抱きしめたまま、来世でどうやって甘やかすかとか歌いながら大きな剣で姫ごと自分も串ざしで紅い花が舞台全体にぶわって散るんです!」

 どこかうっとりと言われて、シェリってそういうのが好きだったのかと意外に思う。

その騎士が兄様なら簡単に、二人で助かる方法みつけてくれると思うのだけれど……。


「それは、楽しいの?」

 そう言えば、簡単にキャラクターが死ぬロボットアニメに芹花がマジギレしてたのを思い出した。

全然関係ないけど、芹花の好きなキャラクターは、世界観違えど、お兄様みたいな金髪で緑目のキラキラした性格紳士の王子様だった。

それにしても、最後不幸になると解っている物語を見に行く心理とは……。


「……毎回、騎士役がかっこいいんです。」

 見た目が格好よくても、お姫様一人助けられないんでしょ?とは聞けない。

ファンの前で作品けなすなって芹花の読んでた何かのマナーに書いてあった。


「お兄様よりも?」

 首をかしげるリオルーチェに、シェリは苦笑いをした。

……言ってもお兄様6歳児だし、シェリにはお兄様の良さが解んないのかしら?


「この演目、西側の国では上演できないんですよ。」

 きたきた。

そういう話好きよ……多分。

もはやカルタ関係ないけど!


大きな声では言えないけど……スキルラ神国という国で実際に起きた事件を元にしてるという噂があるとか。

リオルーチェの居るフォティニア王国からは大陸の隅と隅で一番遠い国らしい。

そう言えば、舞台の最後で、紅い花って……。


何かを思い出しかけて眠くなった。

「シェリ、ごめんなさい。また眠くなったみたい……。」

 ベッドの真ん中に運ばれる途中で、記憶が途切れて……。


紅い花でつながれた夢に切り替わった。



……自分の何倍もの大きさの人間に暴力をふるわれるのは、とても恐ろしい事だった。

それが父親と言うよく知った人間であるという事は、何の救いにもならない。

生き残りたいと、もう終わりにして欲しいの中間で、回数を重ねる事に、だんだん何も感じない様に自分に鍵をかけて行く。

3歳の芹花にはそれで精いっぱいだった。


散々芹花に暴力をふるった醜悪な生き物は、酔いつぶれて眠っている。

今、濡れたティッシュで鼻と口をふさいだら、これはもう芹花を二度と殴らないだろうか?

幼い脳で必死に考える。

……失敗したら?

失敗したら殺されるのは自分。

怖い……、殺すことより、殺すのに失敗した時の事を考えると怖くて、自分の弱さが惨めで声を殺して泣いた。


痛みにきしむ身体に力を入れて立ち上がる。


台所に逃げていた母親の元へ行く。

芹花が近づいたことに気づいても振り向きもしない。

母を見ていると、子供を産む時、女の人はとっても痛い思いをするというのは嘘だと思う。

痛い思いをして生んだはずの子がサンドバック代わりにされてても何ともないのだから。


「お父さん寝たよ。」

 出来るだけ感情を殺して話しかける。


「そう。」

 興味なさそうな声に苛立つ。


「ねえ、お母さん、どうしてお父さんは私を殴るの?私は殴られる様な悪い子なの?」

 年相応に聞える言葉使いで、しかし子供らしさのないはっきりとした発声で、母を断罪する。


少し考えて母は答えた。

「それはね、芹花が産まれた時、逆児さかごで仮死状態で、黄疸おうだん斜頸しゃけいだったから過保護になってしまったのよ。」

 やっぱり伝わらなかった。

何もかも芹花のせいにして母は逃げた。

こんな、ゴミから産まれた子供だから、クズに殴られるんだとそう思うと奥歯に力が入った。


父はよく、母に馬鹿女と言う。

馬鹿じゃなかったら父と結婚してないだろうから、それには同意しているけれど、あまりにも馬鹿と言う言葉一つで済ますには……。


「……そう。その時死んでれば、殴られなかったのにね。」

 芹花は、逆児も仮死状態も黄疸も斜頸も別に珍しいことではないと産婦人科で働いている祖母に言われて知っていたけど

今はこれ以上父の傀儡かいらいと話をする気にはなれず、痛む身体を休める為、眠りについた。




……次の瞬間、明るい世界に引っ張られる。

「リオ、起きたのかい?」

 コーンフラワーの深い青の瞳が、気遣わしげに覗きこんできていた。

リオと近い銀色のサラサラの髪、白皙の美貌の青年は、とっても忙しいこの国の王様だ。


「熱を出したと聞いてね。」

 そして、王妃おくさんや子供をとても大事にする人だ。

……そうか、熱を出してたのか、私。

お兄様ごめんなさいと謝りつつ、頭を撫でる父に甘える。

しかし、父は今、お仕事と母の事で手いっぱい胸いっぱいのはず。


わたくしは大丈夫です。父さまは、お時間があるのなら、母さまのおそばに行ってさしあげて?」

 実は今、母のお腹に新しい命が居るのです。

リオルーチェ的にも素敵なお姉さんになるべく背伸びしたいのです。

弟でも妹でも大事にします。


それに、兄も居るので寂しくないのです。

ええ、兄が私を寂しがらせる訳ないのです。


「私、もう一回寝ます。そしたら治ると思うので、父さまは、お仕事がんばって!」

 どうせすぐ兄が来るはず。

そう思いつつ頭を撫でられながら再び目を閉じた。


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