プロローグ-終りが終わって始まりが続く
最期に覚えているのは、天も地もない真っ白な世界だった。
14年間絶望の鼎で煮込まれ続けた生贄の名は芹花。
ぎゅっと瞑った瞼の感覚はもうない。
父親に振るわれた暴力で喉が腫れあがって細くなった気道に嘔吐物が詰まったのは理解していた。
皮肉にも、酸素を奪われた事で、徐々に全身の痛みが薄れていく。
彼女には物心つく前から、暴力にさらされていた記憶がある。
他人は誰も助けてくれない。
そう言いながら私を殴り続ける父はきっと正しい。
だって他人でないはずの母ですら、同じ空間にいるのに助けてくれないのだから。
もう充分だと思った。
もういらない。
私が世界に見捨てられたんじゃない。
世界を私が捨てるの。
こんな世界、もういらない。
もう二度と、こんな世界に生れたくない!
先刻まで噛みしめてた唇の裏側が痺れたように白く泡立つ。
耳鳴りが遠くなった時、年の解らない女の子の声がした。
『本当に?』
真っ白にざわつく世界に、赤い花弁が降る。
本当はくやしい、何故自分が死ななくてはいけないのか?
でもそれ以上に、彼女の心は絶望に蝕まれていた。
絶望とは死に至る病だとは良く言ったものだ。
「「ほんとうよ。もうこんな世界で生きていたくないの。」」
一枚、二枚……そして次第に量を増した、まがまがしいまでに紅い花弁は、芹花の最期を真っ赤に塗り替えて行く。
赤に塗りかえられた世界は暗くなり、そして何も残さなかった。
*****
……芹花は産まれる前の記憶。
そう解っていてもリオルーチェの小さな心臓は張り裂けそうに痛みを覚える。
今生と真逆の芹花。
誰からも手を差し伸べられることのなかった前世。
確かに、『もう二度と、こんな世界に生れたくない!』とは言った。
だけどそれは、異世界に生まれたいっていう意味では無かったのだが……。
元:芹花/享年14歳にして、現:リオルーチェ3歳は、今自分が幸せである事を理解しているが故に非常に困惑していた。