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異常事態発生

 藤間は即刻登録名を変更するために携帯を操作する。だが、それに対して菊池は何故か不満そうだった。頬を膨らませている。だから、男子高校生がそんな表情をしても何の可愛らしさも発生しない。


「えー、可愛いじゃない。だって真司が登録したら本名で入れるでしょ? しかも姓名で」

「当たり前だろう」


 中にはあだ名で登録する主義の者もいるらしいが藤間には理解できない。いや、状況にもよるのだ。普段からあだ名でしか呼び合わないような関係ならそれでもいいと思うのだ。むしろ姓名で登録してしまうとタイムラグが生じてしまう。一瞬誰のことかわからない、なんてこともありえるのだ。そして藤間の場合、友人にあだ名をつけることがそもそもない。だから呼び名で登録しようとするとせいぜい名字呼びということになってしまう。そうなると姓名で入れてしまった方がいいのだ。佐藤などは何人もいるので「佐藤」と登録してしまうわけではわからない。適材適所だ。いや、これは誤用か。まあいい。


「むう、じゃあせめて「きくちしゅんすけ」って全部平仮名で」

「馬鹿っぽいだろ」

「馬鹿でもいいのー。可愛く見せたいのー」

「却下。馬鹿になりたいなら一人で勝手になっていろ。俺を巻き込むな」


 菊池の譲歩をあっさり却下して、藤間は登録名の変更を進める。きちんと「菊池俊輔」に訂正したところで、ようやく携帯を閉じた。折り畳み式の携帯ならではの「ぱく」という音がする。

 ようやくこれで話が一段落、といったところか。一方的に藤間がそう思っているだけかもしれなかったが、意外とそういうわけでもなかった。話が一段落ついたと思ったのは菊池も同じようで、だが藤間とは反応が異なった。目の前で両手を叩いて、目を大きくする。やはり仕草のひとつひとつが古典的だ。可愛くなりたいと言うのならそこからなんとかした方がいいのではないだろうか。


「あ! そういえばこんなプチ同窓会をするために会いに来たんじゃなかったわ」

「……違うのか」


 ここまで来て何の話もないということは、てっきりそういうことだと思っていたのだが菊池の態度を見るに本題はあったらしい。考えてみれば、何の用もないのに旧友に今の姿を晒すのは些かハイリスクだろう。まあ、菊池がそのリスクを自覚していればの話だが。


「違うわよ! プチ同窓会にするならもう少し人を呼ぶわよ!」

「ツッコミどころはそこか」


 また話が逸れそうになってしまっているが、まだ大丈夫だろう。藤間の予想通り、話がこれ以上逸れてしまうことはなかった。菊池がこれ以上話を逸らさせまいとやや強引に話を戻す。いや、次に続く言葉を聞く限り、話を戻したことにさえしばらく気付くことは出来なかったが。



「真司、付き合ってくれない?」



 言い出しにくそうな雰囲気さえもなく、菊池はぬけぬけと言い放った。問われた藤間はと言えば、ベタな返し方をしたりしてみる。


「どこに?」

「そうじゃなくって!」


 ベタなかわし方に対して、菊池はテーブルを叩く。シェイクがテーブルの上で傾いて倒れそうになるが、菊池はそれを掴んで阻止した。テーブルを強く叩き過ぎたらしい。しまった、という顔をする。それでも前言を撤回するつもりは毛頭ないようだった。

「違うわよ。ありがちな返答しないでくれる? 真司の真面目さはそりゃ魅力だけど今回に限ってはその真面目さはどうかと思うわ。付き合うのは場所じゃなくて、交際ってことよ」

 不満そうな台詞に反して、菊池はどこか楽しそうだ。もしかすると藤間のそういうリアクションを密かに期待していたのかもしれない。期待されていたとしてもこれ以上のリアクションは取りようがないので、気付かなかったことにしておこう。


「とりあえず説明を」


 菊池に交際を申し込まれた。それはいい。理解したくはないが理解した。しかし同性の旧友に交際を申し込むからにはそれなりの理由があるのだろう。久々の再会でいきなりの申し込みとなれば尚更だ。これで理由がないなどと言うはずがない。。あるはずがない。


「詳細を話せ。返事はそれからだ」


 理由も聞かないままに返事は出来ない。菊池も説明無しで返事をもらえるとは思っていなかったのだろう。神妙な面持ちで頷いた。尋常ではない理由があるにはあるようだ。


「どこから話せばいいかなあ……」


 先程、女装の理由を話す時以上に躊躇っている。話すこと自体を躊躇っているというよりは、発言のようにどこから話すか悩んでいる色が強い。そんなに切り出しに迷う内容なのだろうか。藤間は聞く側の人間なので、菊池が切り出すのを待つしかない。菊池が一番わかりやすいと思う切り出し方を自分で考えてもらうしかない。藤間は聞くだけだ。

 菊池はシェイクのストローを手でいじりながら、言葉を選ぶ。流石にシェイクを飲みながら話す気にはなれないらしい。それくらいには真剣に話しているのだろう。


「えーと、私に告白してきた男の子がいるのよ」

「待て」


 菊池が真剣に話そうとしてくれているところ申し訳ないのだが、出だしからして嫌な予感がする。出だしからしておかしい。待つだけだ、などと言いながら全くもって準備など出来ていなかった。出だしの衝撃が強すぎる。そういう部類の話なのか。待て、待ってくれ。


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