全ての元凶はそこに
藤間は頭を上げると根拠を口にする。それを言わないことには菊池は信じないかもしれない。信じなかったのだから信じてもらえないのも自業自得だ。だが信じてもらえるために努力はしなければいけない。それこそ以前の菊池のように。
「さっきの蹴りで確信した。あの蹴りは菊池俊輔だ」
蹴った後に、蹴った相手の上でけんけんをする。年賀状だけのやり取りになってしまうよりも前に、菊池が蹴りを繰り出すところを見たことがある。蹴りに至った経緯までは覚えていないが、恐らくは喧嘩だろう。児童は抑えが利きにくい分、喧嘩に発展しやすい。
とにかく、蹴った相手の上でけんけんをしてバランスを取るのは菊池俊輔独特だと思う。だから蹴りで確信した。目の前にいる女装男子は間違いなく菊池俊輔だ。これまで疑っていた自分が馬鹿らしく思えてくる。まどろっこしいやり取りなんて飛ばして、最初から蹴りを見ていれば必要以上に疑うこともなかったのだ。いや、そんなことを今更言っても仕方のないことだが。
藤間の根拠を聞いた菊池は最初こそきょとんとしていたものの、次第に笑い始めた。両手で顔を隠して、笑う。笑い声はしないが笑っていた。そしてどこか恨みがましく藤間を見る。
「…………そんなにあっさり信じないでよ」
「お前は菊池だろう」
「そうなんだけどね。そんなに簡単に信じてもらえちゃうと私の一週間はなんだったのかなーとか思ったり……まあいいや。結果良ければ全て良しって言うしね」
何やら勝手に自己完結してしまったらしい。どうやらその口振りから察するに一週間の間に何かをしていたようだった。
「とりあえず!」
菊池は話を強引に切り替える。この話題に固定しておく理由もないので藤間は流されるままにしておいた。
「はい、これ」
菊池は制服の胸ポケットから何かを取り出した。そして藤間へと手渡す。思わず受け取れば、手の中に小さなストラップが乗っている。
「……これは?」
「ストラップ。真司が会った菊池が持ってたストラップ」
見てみれば、確かに藤間の手の中にあるのはあの菊池が持っていたストラップだった。全国的に有名なキャラクターの顔が、色違いで刺繍されている。紛れもなく数年前に藤間が作ったものだ。断言出来る。
「ちょっと預かってて」
「は? どういうことだ」
そもそも何故菊池がこれを持っているのか。いや、菊池は菊池なのだから持っていておかしくはないのだが、このストラップは書店で見かけた男が持っていた。このストラップを菊池に似た男が持っていたからこそ、藤間は勘違いしたのだ。それなのに菊池がストラップを持っている。どう考えてもおかしい。だが菊池はそれについて説明をすることはなかった。
「説明出来なくはないんだけど長くなるから面倒臭いなあ。あ、そうだ。私の家に行こうよ」
「は?」
意味がわからない。菊池の発言には何の脈絡もなかった。全くそうなる流れが理解出来ず一語だけを返すと菊池は続けた。
「ほら、百聞は一見に如かずって言うじゃない? 聞くより見た方が早いわ」
「……」
そういうことか、話を聞いてもよくわからない。そんな藤間を見抜いているのか、菊池は続けた。
「ね、だから家に行こうよ。そうすれば全部はっきりするわ」