順風満帆、学業計画
朝に話した通り、菊池が学校にやって来ることはなかった。実はと言うと約束を破って迎えに来るのではないかとも考えていたのだが杞憂だったらしい。約束はきちんと守るタイプのようだ。認識を改めなくてはいけない。
「なあなあ! だから昨日の美女は何なんだよ! 彼女か! 彼女なのか!?」
「……」
菊池への認識を静かに修正していると、横から喧しい声が飛んでくる。思わず耳を塞ぎたい衝動に駆られながらも何とか堪えて声がした方を一瞥した。
「答える義務はないし俺は帰る。邪魔をするな」
纏わりついてくる友人Aを適当にあしらって玄関へ向かう。
「あるだろ! 俺達友達だろ!?」
「友人だからと言って彼女の有無を知っている必要はないだろう」
「……親友だろ!?」
「勝手に格上げをするな」
以前に見かけた菊池のことを友人Aがしつこく聞いてくる。菊池が男だと訴えることはもう諦めた。友人Aはいくら言っても信じないだろう。それならば時間の無駄だ。だいたいにして、知っている藤間でさえ嘘臭いと思うのだ。菊池をちょっと見かけただけの友人Aが信じてくれるわけもない。
「教えろよー。何で教えてくれないんだよー」
「しつこいぞ、お前」
いい加減鬱陶しくなってきた。友人Aの追及を振り切るべく、藤間は走り出す。追及を、というよりは友人Aを物理的に振り切るのが目的だ。
「おい! ちょっと待てよ!」
友人Aはしばらく藤間を追いかけてきたようだったが、学校を出たあたりで追うのを諦めたようだった。それを振り返って確認してから、歩調を弱める。
「……よし」
これでようやく書店で参考書を買いに行ける。連れもいないことだし、今日は好きなだけ悩んで参考書を買おう。