紛れもなく同一人物?
このままでは菊池の自責の時間が始まってしまうのではないかと危惧したが、幸いにしてそんなことはないようだった。菊池は数瞬黙ってはいたものの、気持ちの切り替えがついたのか急に声を明るくさせて話題を変える。
「あ、そういえば誰がベッドで寝て誰が布団で寝るの?」
「好きな方を選べ」
その内決めなければいけないことだとは思っていた。二人とも入浴を済ませたことだし、そろそろ決めてもいいだろう。これまでぼんやり考えていたことを口にしたところで、菊池が目を真ん丸くした。
「……私が選んでいいの?」
「客だからな、一応」
いつも通りベッドでもいいし、布団でもそれはそれで新鮮味があっていい。結局のところ、こだわりがないだけなのだが菊池はそれをいいように受け取ってくれたようだった。わざわざ否定する必要もないので誤解されたままにしておく。誤解されたままでも何の不都合もない情報だ。
選択権を与えられた菊池はといえば、さきほどまでのしおらしさなど嘘のように消え失せて意気揚々とベッドを指差した。
「じゃあベッドで!」
「即答か。まあ、いいけどな」
たまには布団で寝るのもいいだろう。床に近いからと言って寝心地が悪いと決まっているわけでもない。
「決まったところで言うのもどうかとは思うんだが、まだしばらく勉強するから先に寝ておいてくれ。電気は消していい」
「いや、いいよ。私、電気点いてても寝られるし。目が悪くなるといけないし」
菊池はすぐに寝るつもりらしい。携帯を枕元に置くと、いそいそとベッドに潜り込む。菊池の言葉には既に欠伸が混じり始めていた。まだ十時にもなっていないのだが、健康優良児なのだろうか。
「夜更かしはお肌の大敵だからね」
「女子高生か」
「女子高生よ」
「……ツッコむ気力も起きないな」
スルーでいいだろうか。藤間がそんなことを考えている隙に菊池はすっかり掛け布団を肩まで被ってしまっていた。それから片手を上げて、ひらひらと振る。
「じゃ、おやすみなさい」
「ああ、おやすみ」
それだけ返すと藤間は勉強を再開するべく、勉強机へと向かった。それから閉じていた参考書を開く。そこまで問題を解いていたか、ざっと記憶を振り返ったところで後方から規則的な寝息が聞こえてきた。
「…………まさか、もう寝たのか」
どれだけ寝付きがいいんだ。慣れない場所ではなかなか寝付けないと思うのだが、そんなことはないのだろうか。ここまで寝付きがいいと演技じゃないのかとさえ思う。そんな疑惑すら持った状態で、振り返って菊池を見てみる。
「……」
間違いない、と思う。ぴくりとも動かないし、その割には規則的に肩が緩慢に上下している。こうして見ていると女子のようにしか見えない。仕草や挙動をとっても男だと認識させられることはなかったと思う。だからこそ思うこともあったりして。コイツは本当に菊池俊輔なのだろうか。いや、疑いようもないのだがここまで別人だとつい疑ってしまう。
「菊池俊輔?」
まあ、菊池俊輔だろう。