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「早いな」

「ん? まあ、食事は早い方だから」


 知らなかったの? みたいな顔をされても困る。そんな事実は知らない。菊池は満腹になったようでつやつやとした表情をしている。満足そうで何よりだ。


「食器はそこに置いたままでいいから。あと風呂入ってこい。いつもこの時間には入ってるはずだから」


 思考に没頭して止まっていた手を動かしておかずを箸で摘む。それから口内へ入れた。そして咀嚼する。


「え、お父さんが一番風呂とかそういうのは?」

「いや、そういうしきたりは特にない。階段下りきって右の突き当たりが風呂場な」


 おかずと白米をかきこみながら指差す。ここから見えるべくもないが、菊池はそれで理解はしたらしい。そう広い家でもないのでそれくらいの説明でも充分だろう。


「ふーん、意外。じゃあお言葉に甘えてお風呂入って来ようかな」


 食後の一息を早々に済ませた菊池はスクールバッグを背負って部屋の出口へと向かう。あのスクールバッグには着替えやらなんやが詰め込まれているのだろう。ドア付近まで歩いた菊池はおもむろに足を止めると藤間へと向いた。


「決して覗かないでくださいまし」

「……」


 思いついたから言ってみただけのような、昔話を思わせる台詞。そんな台詞に苛立ちを覚えるのはきっと藤間だけではないはずだ。藤間は一旦箸を置くとベッドを振り返って枕を乱暴に掴む。それからその枕を菊池へ投球した。


「鶴の恩返しか。さっさと行ってしまえ」

「きゃーん」


 菊池は咄嗟にその場にしゃがみ込んで、枕をすんでのところで回避する。菊池へ当たらなかった代わりに、枕はドアへ命中しずりずりと床へ落下した。藤間が思わず舌打ちしたところで菊池はドアを開けて部屋を出て行く。菊池が階段を降りていく足音を聞きながら、藤間は何気なくもう一度ベッドの方を見る。ベッドには菊池の携帯が無造作に投げられていた。それは持って行かなくてもいいのだろうか。まあ、入浴に携帯はいらないか。

 食事が終わったら勉強を再開しよう。菊池がいない時の方が集中出来るような気がする。そうとなればさっさと章句字を済ませてしまおう。そう結論付けた藤間は一気に白米をかき込んだ。


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