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ご家族シュミレート

 結局、菊池の家に菊池が連絡を入れることを条件に宿泊を許可することになった。菊池は連絡を入れなくても大丈夫だとかぶつぶつ文句を口にしていたが黙殺した。何の脈絡もなく外泊するだけでも非常識なのだから。連絡くらいは入れておくべきだろう。そこは何としても譲らなかったので菊池は渋々自宅へ連絡を入れた。


「……うん、そう。……ん? ああ、一応。わかってるわよ、うん、はい」


 連絡を入れる段になった途端に急に元気がなくなったような気がしたのだが、気のせいだろうか。まあ、家でまでこれまでのテンションを維持しろというのは酷だろう。大人しいのならそちらの方がいいと思うし。どちらかと言えば今までのテンションにうんざりしているのだ。静かにしておいてくれるに越したことはない。


「はい、じゃあね」

「……もう終わったのか」


 携帯を畳んだ音がしたので菊池を見てみれば、携帯をポケットにしまい込んでいた。急な外泊の連絡にしては早過ぎはしないだろうか。いや、こういうことに家族が慣れていれば対応も短くなるのだろうが。そうやって外泊の連絡は長くなるものだと自分の価値観だけを元に決めつけて菊池に苦言を呈するのは違う気がする。だがそれは高校生としてどうなのか。それは何か言うべきであるような気がする。どう何を言うべきか、それに悩んでいると携帯を完全にしまい込んだ菊池がにまにました笑みを浮かべてこちらを見ていた。少し前からこちらを見ていたらしいが、藤間がそれに気付いたことにより更に笑みを深くした。不気味だ。


「……何だ」


 ただ見られているのも気分が悪いので素直に聞いてみる。すると菊池はその表情を崩さないままに「ふふふ」と楽しそうな声を漏らした。不気味だ。


「真司はほんと真面目だよねー」

「貶してるのか?」

「まっさか。誉めてるわよ。真面目でちゅねー」

「やっぱり貶してるだろう」


 何を指して真面目だと言っているのかは知らないが、どう考えても良い意味ではないだろう。藤間からすれば至って普通なことしか言っていないはずなのだが。藤間の常識が間違っているというのか。いや、そんなまさか。


「で、真司はお母さんに許可取らなくてもいいの?」

「女装した旧友を泊めるから、って? 猛抗議食らうのは目に見えてるからな。もう直接行く」


 律儀に許可を取ろうとして猛抗議をされて、HPを大幅に削った状態で帰宅しようものなら勝ち目はない。根気で勝ってしまえばいいのだ。ここで無駄に気力を消費することはない。


「ごめんね。追い返されたりしない?」

「大丈夫だろう。上がり込んでしまえばこっちのものだ」


 あの親に息子の友人を追い出すなどという真似が出来るとは思えない。良くも悪くも両親は外聞を気にするのだ。家に上がり込ませて泊めると言い切れば文句を言いつつも渋々了承するのはわかりきっている。藤間にはねちねちとして説教が待っているのだろうが、菊池の押しに負けたのだから仕方ない。それくらいは甘んじて受けよう。押しに負けてしまったのは藤間だ。


「ああ、表面を取り繕いながらも激情を必死に抑え込んでる母の姿が容易に浮かぶ……」

「あはは。私から言っといてなんだけどごめんね」

「いい。一度承諾した以上は放り出す気もない」


 とは言うものの、これからを思うと憂鬱だ。まず菊池が男であることは信じてもらえないだろう。信じてもらえたところで女装趣味の友人を持っているということでちくちくと何かを言われる可能性は充分にある。とことん常識から外れることを嫌がる親なのだ。藤間の勉強趣味も過剰だと言って決していい顔はしていない。時折窮屈さを感じることはあったがまさかこういった形ではっきりとした窮屈さを感じるとは思いもしなかった。今更価値観を変えようなどと無理なのだろうが、とにかく憂鬱だ。菊池の手前、正面衝突にはならないだろうがそれでも気が重い。


「部屋がないんだが」

「真司の部屋でいいわヨ!」

「殺意を覚えるな。夜は気を付けろ」

「夜這い?」

「今すぐ抹消してやろうか」


 冗談みたいなやり取りを交わしたところで憂鬱は消えるはずもなく、気分が重いまま帰宅することとなった。


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