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傍若無人、反面

 いくつか入り組んだ道に入って、周りに人気がないことを確認する。野次馬根性の強い輩が尾行して来てはいないかと思いもしたのだが、それは流石に自意識過剰のようだった。二人の周りにはこれといって人はおらず、強いて言うなら猫がまったりと横切ったくらいだ。ふむ。


「……まあ、このあたりでいいか」


 あまり周りの視線を気にし過ぎるというのも不毛というか。結局外にいる限りは誰にも見られないなんてことは不可能なのだ。これくらいの人気のなさで妥協するべきだろう。人が来た時は来た時だ。別に聞かれて困る話をするわけでもない。


「ちょっと、どこまで行くつもり」

「いや、もうここでいい」


 これまで黙っていた菊池が聞いてきたところで、藤間は足を止める。それから掴んでいた菊池の腕を放す。しばらく掴まれていたせいで痛むのか、菊池は何度か腕をさすった。力を込めていたつもりはなかったのだが、無意識の内に込めてしまっていたのかもしれない。菊池が文句を言ってこない以上は憶測でしかないので何も言わないことにする。憶測で謝罪するよりも、今は言うべきことがある。


「あまり目立つ行動は控えろ」


 友人Aの追及を回避するだけでも藤間にとってはかなりの労力を要する。それに菊池を見かけた誰かが藤間へ問いただしに来るという恐れも全くないわけではなかった。藤間にはそれが何よりも鬱陶しい。勉強に充てている時間と気力をそちらへ充てなければいけないのだ。藤間にとってこれ以上苦痛なことがあろうか。否、ない。


「一緒に帰ることが目的なら連絡をしろ。正門で待つな」


 事前に連絡が入っていれば藤間の方から待ち合わせ場所を指定してから一緒に帰ることも出来ただろう。何も正門で待たなくとも、というのが藤間の意見だ。学校の近くならいくらでも隠れて落ち合えそうな場所はある。菊池の今回の行動は単独故に悪戯に目立っているのだ。せめて連絡を入れてほしかったというのが何よりの本音ということになる。

 藤間の主張が伝わったかどうかは微妙なところで、菊池は首を傾げた。これが女性の仕草なら文句なしに可愛いところなのだがいかんせん菊池は男だ。見ている藤間としては複雑な気分にならざるを得ない。何が悲しくて可愛らしく小首を傾げる男を見ていなければいけないのか。


「真司は目立つのが嫌いなの? 自分は普段から目立ちまくってたくせに?」

「嫌いだ。それから、俺は目立っていたことはかつて一度としてないからな」


 無自覚に目立ちたがっていたかのような物言いは心外だ。いつだって藤間は慎ましやかに生きてきたつもりだ。変人と評されることにしたってありがちな話だろう。友人に「変わっている」と評価される。実にありがちな話だ。

 とりあえず藤間の気持ちは伝わったらしい。菊池は何やら考え込んでいるようだったが納得には至らなかったようで、疑問符を浮かべながら口を開いた。反論。


「でもね、私といる以上目立つのは仕方ないことだと思うの。それをわかった上で引き受けてくれたんでしょ?」

「そうくるか」


 確かに、菊池は目立つ。女装の事実は知る人ぞ知る、な状態なのでそこまで影響して来ないとは思うのだが問題はそれ以外の要素だ。女装した菊池は女にしか見えない。修行でも積んでいるのか立ち振る舞いもまさしく女そのものであり、ぼろが出てしまうことはなさそうだった。早い話が美女だ。外見だけで言うなら何の文句もない美女。まあ、それぞれの好みもあるだろうが。とにかく、菊池は美女であり悪戯に周りの目を引く。それが藤間からすればかなりの苦痛だ。菊池と歩いていただけで普段の三倍視線を浴びた気がする。あんま美人と一緒にいるだなんて何者だ、とでもいったところか。いっそ女装野郎だということを白状してやろうかとも考えたがそれはそれで注目されてしまうだろ。どっちもどっち、八方塞がりだ。一体どうしろというのか。

 菊池は目立つ。それは揺るがしようのない事実だ。認めよう。菊池は目立つし、藤間はそれを理解した上で頼みを引き受けた。それも認めよう。そこまで認めてしまうと菊池の反論が正しくなってしまうが、それでも言わせてもらいたい。藤間にだって主張はある。


「目立つという事実に胡座をかいて目立たない努力をしようともしないのはどうかと思うがな」


 目立つのは仕方ない。だが自覚があるのなら目立たないように工夫することも不可能ではない。例えば変装。著名人も顔を隠すために帽子やサングラスを着用すると言うし。まあ、今回はそれをすれば逆効果にもなってしまいかねないが。極力地味な格好をしてくるとか、目立たない場所を待ち合わせ場所にするとか。工夫すべき点はいくらでもある。その努力を怠っていることが腹立たしくて仕方がない。後日友人Aに説明することを思うあまりの憂鬱が、八つ当たりという形になってしまっているのかもしれなかったが自覚したところで止まらない。 「俺は学業の妨げにならない程度という条件を出したぞ。その条件を遵守するのがそちら側の義務だろう」


「う、まあ……」


 菊池にも理解しやすいように言葉をかみ砕く。そんな気さえ回せなくなってきている。物事は考えるより口に出した方が纏まりやすいと言う。今回などは特にそうだと言えた。こうして口にすることで漠然としていた苛立ちがどんどんと形になってしまっている。口に出して纏めることが悪く作用していた。藤間は人差し指を菊池の眼前に突きつける。藤間の独壇場となってしまっているため、菊池はたた押されるがままになってしまっていた。


「義務を果たさないのならこちらも然るべき対応をさせてもらうが」


 条件が守られないなら頼みを引き受けるつもりはない。やや厳しいが悪戯に目立つことで学業を妨げになってしまう可能性は充分にあった。それなら目立つことは極力避けてもらわなければ困るのだ。


「う、それって……引き受けてくれないってこと?」

「その理解で正しいな」


 勢いに任せて菊池に馴染みがないような言葉を使ってしまったが伝わるには伝わったらしい。確認してきたところをみるにそれが正しいのか自信はなかったようだが。


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