そして振り回されて
正門で待つ菊池はかなりの注目を浴びていた。
進学校の正門で、底辺学校の制服を着た美人が待っていれば注目されるのも無理はないだろう。菊池は無遠慮な視線をいくつも受けていたが全く動じることなく誰かを待っていた。いや、この際「誰か」などと言って現実逃避すべきではないだろう。菊池は藤間を待っていたのだ。
「何しに来た」
出会い頭にいきなりそんなことを言ってみる。これで藤間を待っていたのでなければ爆笑ものだが、幸いにしてそういったことはないようだった。
菊池は声をかけられて初めて藤間に気付いたらしく、くるりとこちらへ目を向けた。藤間が校内にいるのを視認した時点で出入り口を眺めていても良さそうなものだが。
「何しに来たとはご挨拶ね。わかりきってるじゃない」
藤間の言葉に何故か気分が害したらしく、頬を膨らませた。何度も言うようだが男がそんな仕草をしても全く可愛くない。
菊池からしてみれば今回の訪問はわかりきったことらしいが、藤間には全くもって予想出来ない。ただ首を傾げるばかりだ。そんな藤間の様子を見て、菊池は溜息を吐く。どうやら呆れているらしい。呆れられるような真似をしただろうか。
「あのね、私達は付き合ってるんでしょ?」
「まあ、一応な」
付き合っていると堂々言えるわけでもないが、そう頼まれた以上は付き合っているのだろう。それなら菊池の言葉を肯定するしかない。躊躇いがちに頷いてみれば、菊池はずいっと藤間へ近寄った。顔が近い。
「付き合ってるなら一緒に帰るとか普通なんじゃないの?」
「……まさか、そんな理由で?」
顔が近いので、数歩後ずさりながら問う。まさかとは思うがそれだけのためにわざわざ来たのか。それだけのために無駄な注目を浴びて、何の連絡もなく。だがそれだけの理由でも菊池にとっては動くには充分だったとするべきか。
「そんな理由? 私にとってはすごく大事なことなんだけど。はーん、真司は私のことその程度に思ってるんだ?」
「……お前な」
何だろうか、この茶番は。恋人ごっことでも言うべきか。ここ数日何もなかったがそれは単に菊池が行動を起こさなかっただけで、何もしなくてもいいということではなかったらしい。引き受けた以上はやるしかないのだが、いつ誰の目に付くともわからない場所で恋人ごっこは憚られた。しかし菊池は大真面目らしい。流石にそんな人間を前にしてそれを一蹴することは出来ない。
「引き受けてくれたからにはちゃんと付き合ってよ」
「……わかった」
菊池の要求は一緒に帰ることだ。それは確かに恋人らしい行為と言えよう。藤間としてもそれくらいはしていいか、と思う。学校も違うことだし、一緒に帰っているのを誰かに目撃されたところで、菊池のことが露見することもないだろう。それに藤間と菊池が一緒にいるところを見かけたところで、問い詰めるのは友人Aくらいなものだ。こういう時は知人が少なくて良かったと思う。
そうと決まれば藤間のやることは決まっている。