不審に大胆な
進学を機に連絡を取ることがなくなる友人というのは案外多い。
その中には、年賀状のやり取りだけは毎年律儀にしている友人というのも含まれていたりする。藤間 真司が待っている友人というのは正にその、年賀状だけは送りあっていた旧友だ。
これまで年賀状以外のやり取りはなかった。だが、今回に限っては来たのは年賀状ではなく手紙だった。内容は久々に会いたいといったものだった。会いたいというのなら、会うのも吝かではない。それから何度か手紙のやり取りをし、待ち合わせの日時や場所を決めた。それがここ、ファストフード店だ。
ファストフードなら学生でも気軽に利用することが出来るし、人を待って時間を潰すのにも問題ない。何よりテーブルで勉強が出来るというのが藤間にとっては何よりの好条件だった。暇があれば勉強をしていたい。藤間にとって勉強は義務として渋々やるべきものではなく、自主的にやるものだった。言わば趣味。そう言うと大抵はおかしいと言われるのだが勉強は楽しい。難易度の高い問題が解けた時の快感は何にも劣らないと思う。これが理解出来ない人間はかなり人生において損をしている。
待ち合わせに利用した店は藤間の家の近くにあった。待ち合わせ相手は駅をいくつか経由した場所に住んでいて、学校終わりにそのまま待ち合わせることになっているからもう少し時間がかかるだろう。何なら学校のない休日に会っても良かったのだが、旧友は何故か一刻も早く再会を果たしたいようだった。文面で不思議とそれが伝わってきた。ちなみに、メールアドレスを手紙で送って、メールでやり取りすれば良かったことに気付いたのは今日になってのことだ。勉強を趣味としているから頭は悪くないはずなのだが、何分応用力がない。
とりあえず適当に注文をして、品物を受け取ったところでテーブルへつく。流石に何も注文せずに人を待っているというのも店に悪い。テーブルにつくと、品物は脇に置いて、鞄の中を覗き込む。中には教科書を始めとして参考書や問題集が詰め込まれており、どれから手をつけるか悩んだ。どの教材もそれぞれに魅力的だ。
「数学……は昨日やったな。古典にするか」
悩んだ末に藤間は古典の参考書を引っ張り出すと、胸ポケットに挟んであったシャープペンを引き出した。それから何度かカチカチと音を鳴らして芯を出す。同時にもう片手では参考書を開いた。以前はどこまで進めただろうか。手をつけたページと何もしていないページは、感触でわかってしまう。嵩を増したページと、真新しいページの境界を見つけたところで藤間はそのページに手をつけていく。ポテトやハンバーガーに手をつける気にはなれなかったが、これは旧友にでも譲ればいいだろう。そこまで考えたところでポテトやハンバーガーについての関心はぷっつりそこで途切れてしまった。そんなことより、勉強に集中したい。
それなのにそれにはあっさりと邪魔が入ってしまった。
「よいっしょ!」
歳不相応な掛け声と一緒に、藤間の向かいへ少女が座った。いや、少女というのは不適切だ。恐らくは藤間と同じくらいだろう。膝よりやや短めな紺のスカートはきっちりと折り目がついている。こまめにアイロンをしているのだろう。ブラウンに染められたボブは彼女の陽気さを具現化しているかのようだ。顔には淡い化粧がされていて、やや大人びた印象を受けた。背伸びしている印象はない。歳相応のお洒落だ。
彼女は何の断りもなく、藤間に相席した。肩にかけていた軽そうなスクールバッグを奥へ投げ、それに彼女自身が続いた。ここで、何事もなかったかのように会話を試みてみる輩もいるにはいるのだろうが藤間にはそんな度胸はなかった。だからベタに問う。
「どちら様ですか」
年下か年上かわからないので、念のために敬語を使っておく。参考書に視線を落としたままというのも失礼だろう。一旦手を止めて、彼女を見る。すると彼女はにこにこにやにやにまにま。要するに、気味が悪いくらいの笑顔を浮かべた。