挨拶周り その4
謎を抱えつつも私はその隣の302号室のチャイムを押した。
また無言である。無言である。無言・・・・・・留守か、そうかならば仕方ない。
そう思って立ち去ろうとした時にドタドタと音が聞こえてドアが開いた。
出てきたのはバッチリギャルメイクをしていて、髪が栗色でくるくるに巻かれていて、やけに露出度が高い服を着ている女性だった。
まぁ、要するに今時風なギャルだった。
「何あんた?あ、もしかして純一の元カノ?それとも今カノとかまさか言うつもりじゃないでしょうね?言っとくけど今カノは私だから。純一が今一番愛してるのはあたしなんだからね?」
誰だよ純一。そんな人知らないよ。しかも、もし今カノが2人もいるとしたら純一最低だよ。
「下の202号室に引っ越してきた雨宮鈴です!」
怒気を込めて言った。宜しくするつもりは今のところない。
「へー。そうなんだぁ」
急にやる気をなくした女は、さらにこう言い放った。
「で?引っ越しの挨拶なら何かあるでしょ?」
なんで誤解だった事を謝らなかった程の非常識なのに、引っ越しの挨拶の常識を知ってるんだよ。
とは思いつつも平和を愛する日本の一人なので袋を押し付けた。
「地味な女が持ってくるお菓子ってやっぱり地味なのね」
地元一美味しいと私が勝手に思ってるお菓子を侮辱した上に私が地味だと・・・・・・?
まぁ、私が地味な事について反論は出来ないが。しかし貴方は派手です。本気で。
「まぁ、一応お礼行っとくわ。じゃああたし純一とこれからデートだから」
ガチャンと閉められたドアに怒り散らすのはドアさんに失礼だ。
と、私は拳を握りしめたまま思う。平和を愛するのが日本人なら私は奴の為に日本人を捨てても良いと一瞬思ったけどあんな奴の為に捨てる訳にはいかないな・・・・・・日本国籍を。
これからは魔女に宅急便をさせる某作品の眼鏡をかけてて自転車漕いでたとある少年の『魔女子さん』をリスペクトして彼女の事をギャル子さんと呼ばせてもらおう。
名前聞いてないし。表札ないし。
さてさて。最後はあの変人な大家さんだけだ。
ギャル子さんで疲れた上にあの大家さんと対決、もとい対峙せねばならぬとは・・・・・・これは今日もコンビニ弁当だな。
そう思いながら、私は隣の部屋のチャイムを押した。
ギャル子さんがなかなか出てこなかったのは敵だと思ってギャルに変身してたからです(笑)