救われた世界で
勇者一行が魔王を倒した。
誰もが望んだその知らせは勇者自身でも優秀な情報屋でもなく、広がる空が全人類に教えてくれたのだった。常に黒い雲が覆っていた空から光がさしこみ、久しぶりに太陽の暖かさに触れた人々は性別や身分、過去の確執などをいっさい忘れ抱き合って叫び、喜びを表現した。まさに前途洋々。勇者たちによって世界は救われたという事実は、空だけではなく人々の目にも輝きを取り戻させていた。
あれから一カ月、私が暮らす小さな村も元気に毎日を過ごしていた。ある者は魔物が大人しくなった山へ狩りに出かけ、ある者は農業に励み、ある者はその成果を使って美味しい料理を振る舞う。チビたちは外ではしゃぎまわり、その元気で周りの大人まで明るくさせていた。どこの村も同じように活気に満ちている、と風の噂で聞いたことがある。
そんなある日のことだ。二人組の旅行者がこの村に現れた。
「やぁやぁ、どうもどうも!」
背の低い方の旅行者が右手を高くあげ、陽気に挨拶をしてきた。今では大陸間、国家間の移動規制がなくなり旅行者が増えていたためこういった訪問自体は珍しくない。しかし外にいた全員が一瞬驚き、その後みながそろえた様に嬉しそうな顔つきにかわった。
「あ!勇者さまだ!」
「久しぶりですね!」
「よくぞおいでくださった」
「ゆっくりしていってね!」
子どもから老人まで声を揃えずに喜びと歓迎の意を声にして叫んだ。私たちはこの短い銀髪の勇者に村の危機を助けてもらった。だから私たちにとってこの再会の感動はひとしおなのだ。ましてこの人たちは魔王を倒した救世主。聞きたいことは山ほどあるようで、みながみな矢継ぎ早に質問をはじめていた。
「どうしてこの村に?」
「いつまでいれるんですか?」
「まおー強かった?」
「他のお仲間は?」
「どこに泊るご予定で?」
勇者は無法地帯の質問地獄にも嫌な顔ひとつせず答えてくれた。
「いやぁ人気者になったもんだ。みんな久しぶり、元気そうで何よりだよ。他の仲間はもう故郷に戻ったからあとは残ったこいつと今まで行った場所を巡っているんだ。魔王なら5秒かからなかったかな。楽勝楽勝ー。あ、宿に泊まるお金ないから誰かの家に泊めておくれ。いいでしょ?勇者さまのお願いっ」
相変わらずの親しみやすさに私たちの顔はほころんだ。さっそく村人全員で勇者さま争奪ジャンケン大会が始まり見事に私の家に泊ってもらうことになった。今夜はたくさん話を聞こう。本当に楽しみだ。
その夜、私たちはたっぷり話をした。基本的に私が質問をして勇者さまが答え、相棒の炎魔士が訂正を入れるという流れで会話は進んでいった。
「魔王はどうやって倒したの?」
「この剣でぶすっと刺して終わり!」
「俺らが魔法でサポートしてお前ら前衛が協力技で倒したんだよな」
「怪我はなかったの?」
「そりゃもう余裕よ。筋肉痛レベル」
「ついこの間まで療養中だっただろうが……」
「お金がないってなんで?王様にもらえたりしないの?」
「ここに来る途中で落として……」
「そういうことにしておくか」
「どうせ勇者さまのことだし誰かのために使ったんでしょ?……どうしてそんなに恰好つけるの?」
「んー。」
少し間が開いて、勇者さまは続けた。
「……ほらわたし、憧れられる存在じゃん?」
「間違っちゃいないが自分で言うか、それ」
「はははっ」
「私を見てる人がいるんだからお手本にならなきゃって思うのよ。私もいろんな人に会って成長できたと思うんだ。だから私もこれから会う人にとって恰好いい存在でいなきゃっていうか……あーもう何言ってるんだろ、寝る!」
「俺は良いと思うぞ。いまは空回りしているがな。がんばれ」
「ふふ、世界を救った勇者なのにまだ頑張らなきゃいけないんですね。……おやすみなさい」
私はそう言って部屋の電気を消した。私の隣で寝ている、見た目はただの少女が世界を救ってくれた。そんな救世主でも色々考えたり、悩んだりしている。私も村のチビたちからみたら大人に見えるのかもしれない。私もこれからは恰好いい大人になろうと強く思った。隣りに寝ている銀髪の少女のように。
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