表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/25

扉の向こう

扉の向こう




 この扉の向こうには、一体、何があるのだろう


 どんなことが待ち受けているのだろう


 待ち受けている? いったい、誰が




 扉を開けようとドアノブに、手を伸ばそうとする、ひとりの男がいる。



「……なんだ。妙な胸騒ぎがする」


 ここに来る途中ですれ違った、パトカーや救急車のことを思い浮かべる。


「なにがあったのだろうか……」


 気になって後ろを振り返る。なにもありはしない。

「何をびびっているんだ……」


 気を取り直してもう一度、ドアノブに手をかけようとした。だが男の右手は何も掴むことができなかった。


 男がつかもうとしたドアノブは、すでにそこにはなく、大きな闇がぽっかりと目の前に広がっていた。


 差し出した男の右手は、恐ろしく強く、そして信じられないほどの速さで何者かによって、食いちぎられていた。


「うわぁっ!」

 男は声を出しかけたが、それを最後まで言うことはできなかった。


 ドアの前には右手くびと、頭をうしなった男の体が、できの悪いマネキンのように立っていた。


 ガリガリガリッ……。


 バリバリッ……。


 それは男の右手くび、次に頭蓋骨が何者かによって噛み砕かれる音である。


 シュシュッ! シュシューーーー!


 できの悪いマネキンは、大量の血を噴出しながら膝から崩れ落ちる。が、倒れると同時に闇の中に引きずり込まれていった。


 ガチャッ。


 扉は、静かな音を立てて閉じた。


 ガリガリガリ……。


 バリバリ……。


 その音だけはしばらくドアの外に漏れていた。




 この扉の向こうには、一体、何があるのかしら


 どんなことが待ち受けているというの


 待ち受けている? 本当に?




 扉を開けようとドアノブに手を伸ばそうとするひとりの女がいる。



 扉を開けようとドアノブに手を伸ばす。


「なんでだろう。ドキドキする……」


 胸の鼓動が高まる。ここに来る途中ですれ違った、恋人たちのことを思い浮かべる。


「どうしてわたしたち、あんなふうになれないのかな……」


 思わず引き返そうかと立ち止まる。

「なにを迷っているの……、わたし。ここまで来たのに今更引き返してどうするのよ」


 意を決してドアをノックしようとしたわたしの手は、ドアに触れることができなかった。一瞬何が起きたかわからなかったけど、何かがわたしの右手を掴み、それから――。


 気がつくとわたしのからだは、彼の大きな腕の中に包まれていた。

 彼は痛いほどわたしを強く抱きしめた。


「いやっ」


 わたしは声を出しかけたが、それを最後まで言うことはできなかった。


 彼の唇がわたしの声をさえぎった。


 ドサッ!


 わたしは左手に持っていたカバンを床に落とした。糸の切れたマリオネットのように膝から崩れ落ちそうになる。が、そんなわたしを彼は力強く支えてくれた。


 カチャッ……。


 扉は、誰にも気付かれないような静かな音を立てて閉じた。


 愛し合う二人の吐息が、ドアの隙間から、漏れていた。





 あなたの目の前、その扉の向こうには、一体、何があるのだろう


 どんなことが、あなたを待ち受けているのだろう


 待ち受けている?


 いったい誰が……




 おわり


同じシチュエーションでも、どんなことが起きるかわからない。扉の向こうに待ち受けるもの。それは恐怖なのか、素敵な出会いなのか?

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ