表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
18/25

ゆめのあと

 ゆめのあと




 夢から覚めない少女


 少女は、夢の中で、遊んでいる


 その遊びをやめない限り、現実の世界に戻ることは、出来ない


 だから僕は、少女の夢の中に入り込み、少女に呼びかける


 その声は、届いているのか、届いていないのか


 少女は、振り返らない


 夢の中で 足をかすみとられる


 少女に近づくことも出来ない


 夢の中で僕の行動は、制限される


 見るものすべてがぼんやりしている


 耳にする音も、本当に聞こえているのか、或いは僕の頭の中で鳴り響いているだけなのか区別もつかない


 すべてが儚げで、現実感がない


 記憶も断片的にしか、たどることが出来ない


 時系列が、でたらめで、何一つ確かなものなどないように思える


 夢の中で唱えた呪文は、夢の中で解かなければならない


 精神と肉体の不一致


 死と隣りあわせとは思えないほどにアンニュイな感覚


 生に対して不誠実で、死に対して、無防備


 僕は、たくさんの蟻たちに運ばれてゆく、コガネムシの屍のようだ


 彼らが生きてゆくために、僕の骸が役立つというのなら、それもいい


 廻る輪の中で、繰り返し、繰り返し行われてきた摂理


 でも、少女はそんな蟻の巣穴を、小さな小石で埋めてしまう


 僕は、僕の役割を、果せずにいる


 ねぇ、お願いだから、お母さんのところへ、ママのところへお帰り


 僕は少女に、どう接すればいいのかがわからず、思いつくままに言葉を選ぶ作業を繰り返す


 時々その言葉は、僕の胸に強烈な衝撃を与える


 その感覚はとても痛くて、つらくて、悲して、せつなくて


 なのに少女を見ていると、痛みも、つらさも、悲しみも、せつなさも、少しずつ和らいでいく


 だけど、もうゲームは、おしまいにしよう


 そろそろ、時間だ


 さぁあ 僕と一緒に帰ろう


 君は、狂ったように、首をふる


 何度も何度も首をふる


 勢い余って、君の首はそのまま地面に転げ落ちてしまう


 蟻たちは、仕方がないので君の首を担いで、どこかに持ち去ろうとする


 僕は、どうすることもできずに、君の首を見送る


 置き去りにされた、コガネムシの骸


 それが僕


 ならば君は、一体、誰なんだい


 君は……、君は……




 激しく体をゆすぶられて、僕は目を覚ました。

「あなた、大丈夫?」

「ああ、大丈夫だ……、心配ない」

「泣いているの?」

「えっ? そうか……、少し嫌な夢を見ていたようだ」

「そう。そうなの……、冷たいお水、持ってくるわね」

「すまない」

「なぁあ」

「えっ? どうしたの?」

「俺は、寝言で何か言っていたか?」

「よく、聞き取れなかったけど。確かゲームがどうのって……」

「そうか、ならいい」

「本当に、大丈夫? 最近、あまり良く眠れていないのではなくて?」

「そんなことはないさ。眠らなきゃ、夢は見られないだろう」

「それはそうでしょうけど……」


 妻は、心配そうに僕の顔を見ていた。すると何か思い出したという顔をして、すっと立ち上がり、私の肩にそっと手をあてがいながら言った。

「怖い夢をみたときはね。その夢のことを誰かに話せば、もう続きは見ないし、たとえ見たとしても、話を聞いてくれた人が助けに来てくれるそうよ」

「あれ? なぁー、今の話……、前にも話してくれたっけ?」

「どうだったかしら。子供の頃、怖い夢を見て泣きながら目を覚ますとね。そうやってパパが言い聞かせてくれたの。不思議とそのあと、同じ怖い夢は見なくなるのよ。本当よ」

「そうか。うん、ありがとう」


 妻は、もう一度私の顔を覗き込むと、安心したような顔をして台所へ水を汲みにいってくれた。

「あんな変な夢の話。どこから話したらいいものだか……」

 充電中の携帯電話の横にメモ帳が置いてあった。仕事関係のメモが殴り書いてある。私はそのメモを破り捨て、新しい紙に覚えている夢の内容を書き始めたが、結局、丸めてゴミ箱に放り投げた。


 丸められたメモは、ごみ箱の淵にぶつかり、床に転げ落ちた。 

 それはまるで、少女の首のようだった。






おわり 





このお話は、僕が眠っているのかおきているのか、夢うつつなときに見た「まるでひとつの小説のよくできたオチ」を眺めているような夢を見たときの話。この短編「週末、公園のベンチにて」の最終話としてふさわしいと思った作品です。記憶の断片をつなぎ合わせて、なんとなくそれらしくはあるんだけど、ぜんぜんそうでない気もする。僕は夢の中で物語を構成し、頭の中のどこかにストックする作業を寝ている間にしているようなのだ。


その引き出しを開けるためにはいくつかのキーが必要で、それはこうして書き続けることで通勤の電車の中、家のお風呂の中、何気ない誰かとの談笑のなかに隠されている秘密の鍵を見つけることができるわけだ


あとはそれを文章にするだけ


めけめけとはそういう存在なのかもしれない



2015/03/02

『ふと、視線を移すと、充電中の携帯電話の横にメモ用紙が置いてあった。仕事関係のメモが殴り書いてある。私はそのメモを破り捨て、新しい紙に覚えている夢の内容を書き始めた。


 こうして僕の、物語を書く旅は始まった。』


となっていたのですが

どうしても結びの部分が気に入らなかったので、書き直してみました。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ