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ラスト: そしていつもの日常

 

 魔装騎兵の暴走事件から、数日が過ぎた。


 あの後アンドロメダは、ゴーレムが押さえてから十分くらい経過したところで、ようやく動きを停止した。老人の魔力が尽きたのだろう。再び暴れだす可能性が無いとも言えなかったので、空助は暫く様子を見たが、もう動きだす事は無かった。

 こういった事態の際に外部からでもハッチが開けられるように、緊急のハッチ開閉スイッチが魔装騎兵には付けられている。ただ頭部の付け根の所にあるため、動きを停止してからでないと押せなかった。

 そうして、ようやく空助達は老人を救出することが出来たのだった。


 幸い特に人的被害もなく目撃者も殆どいなかったので、警察が来る様なことは無く。騒動の張本人である老人の処分は、空助達だけで決めることにした。

 と言っても、機体修理することを約束させただけである。

 本来、魔装騎兵で人を襲ったなどという事が警察に知れたら、魔装騎兵の扱う資格が停止になるだけではなく、老人は確実に臭い飯を食べる事になっていただろう。ただ本人も反省しており、棺桶に片足突っ込んだ老人なのでそれは勘弁してやった。


 騒動の後で、数時間にわたって老人はエリノアにこっ酷く絞られたので、整備されて機体が戻ってきても当分は乗ろうとは思わないだろう。

 ただあの老人は、また直ぐ何か別の問題を起こすに違いないと、空助は確信していたが。


 ただそんなまだ起こってないことに気をくだく余裕は空助にはなかった。 大会のことである。

 三週間後に控えた校内選抜戦に向けて、訓練する事の方がよほど重要だった。空助が待ち望んでいた、校内選抜戦――通称『校内戦』に向けて。


 大会の競技それぞれには、基本的に代表者一名ずつしか選出されない。そのたった一名の枠を賭けて、全校生徒が競い合う事になるのだから、それは熾烈な戦いとなる。

 去年は経験不足もあって、予選敗退してしまった空助だったが、今年こそは絶対代表になって『銀河大会』まで勝ち上がってやる、と固く誓っているのだった。




「で? これがその特訓なわけ?」



 エリノアの馬鹿にするような声が、空き地の中央に立つ空助に突き刺さる。

「うるせえ! 俺に言うな!!」

 エリノアに背を向けたまま、空助が怒鳴り返す。


「兄ちゃん、やっちまえー!!」

「眠い……」

「ああ、ミアちゃん! こんな所で寝ちゃ駄目だよ!」

 続いて、他の幼馴染達の無節操な声が聞えてくる。

 が、この場にいる人間はそれだけではなかった。


「見生おおおおぉぉぉ!! 餓鬼と乳繰り合ってんじゃねえぞコラァ!!」

空助に怒鳴りつけたのは、以前空助を襲った不良のリーダーだった。その周囲には不良の仲間達の姿がある。ただし以前よりも数は増えている。


「ああ!? 誰がこんなガキと!? ふざけんな!!」

 売り言葉に買い言葉、という事で空助が怒鳴り返した。対不良の場合、気持ち的に圧された方が不利なのである。だが、空助は少々言葉を間違ったらしい。

 空助の背後で、"プチン"と切れた少女が暴力的な気配を発していた。


「約束通り、仲間を集めて来てやったぜ!!」

「今日はこの前のようにはいかねえぞ、コラァ!!」「泣いて詫びいれるまで勘弁しねえぞ!! ラアァ!!」

 集まった不良達から罵声が跳ぶ。三十人近くいる不良達のそれは正直聞くに堪えない。

 空助は双眸に危険な光を宿して、彼らをグルリと見回した。

「上等だ……」

 そう言って、指をボキリと鳴らす。そして戦いの合図かの如く、雄雄しく叫ぶ。


「来いやああああああああぁぁぁぁ」

 まるでその声に吸い寄せられるかのように、不良達は一斉に空助に襲い掛かった。



 乱闘を始めた彼らを、エリノアは冷たい瞳で一瞥する。

「ミア! 何寝てるのよ、起きなさい!」

 エリノアはうとうとと、舟を漕いでいたミアを激しく揺さぶる。

「うーー、ねむい……」

 ミアは目を小さく開くと、不機嫌そうに呟く。ただ、それは揺り起こされたことに対してではなく、眠りを妨げられた事に対してのようだった。


「昨日夜更かししてたらしいし、それが原因だよ」

 イヴァンが理由を話す。

 ミアは見た感じはまんまお子様なのにもかかわらず、夜寝るのだけは年齢相応に遅かった。

「学校でも寝てたでしょう!? まだ寝たりないの!?」

 呆れるエリノアだが、ミアの返事は無く、再びカックンと首が折れる。

「もう! いいから来て!!」

「うーー」



 一対三十で始まった戦いだったが、既に一対二十ほどになっていた。

「うがっ」

 また一人倒れる。これで一対十九である。

「ごはっ!!」

 また一人。

 空助が一度拳を振るうと、確実に一人数が減っていった。そんな不甲斐ない不良達に、空助の不満が浴びせられる。

「オラオァァァァァ!! 威勢がいいのは口だけかあ!?」

 その挑発に元来短気な不良達は、憎らしげに空助を睨んで怒鳴り返す。


「なめるなあああぁぁぁ…………ぁ!?」

 いや、怒鳴り返そうとした。

 しかし、語尾は徐々に力を失っていった。最後には不良達の誰の顔にも、驚愕の表情が浮かんでいる。その視線は空助、というよりその背後に向けられていた。


「どうしたコラァァァァァァァ!?」

 寧ろ、不良達を叱咤するように大声を出す空助だったが、不良達の視線が自分を捉えていない事に気付いたのか、チラリと背後を伺った。そして、固まる。

 そこには、一体の巨大な召喚魔がいた。岩石に覆われたその身体で、ボディビルダーのようなポーズをとっている。


「なあっ!? な、なんでゴンが!?」

 不良達と肩を並べて驚く空助を、まるで蠅を見るような目で見つめたエリノアの口から、冷酷な言葉が発せられる。


()って」

 最後通告も何もない。いきなりクライマックスである。


「うーーーーーーーーーーーーーーー」

 眠いのを起こされて、苛立っているのだろう。ミアが柔らかい髪を逆立てて唸った。その様子を見て、リーヌがミアの事を"猫みたい"と思っている理由が分かった気がした空助であったが、言葉にはならなかった。ミアが一体何をゴーレムに指示したのかは分からないが、間違いなく空助にとって喜ばしい内容ではないだろう。そう悟ったからだ。


 そんな空助を嬉しそうにゴーレムが見下ろす。

 召喚魔と召喚士の関係は複雑である。雇い主と雇われ者の関係であるとも言えるし、仲の良い友人とも、恋人のような関係とも言える。ともかく、確かな信頼関係を気付いた先に、召喚魔は『召喚』に応じてくれるようになるのだ。

 目の前のゴーレムも同様である。そんなゴーレムが自分よりも親しげにミアと接する空助の事を、快く思っている筈もなく――――

 率直に言えば、ゴーレムは空助のことが大嫌いなのだった。なので、こうしてミア本人から攻撃(・・・・)指示が出たことを心底喜んでいた。正直、その周囲の不良達などゴーレムの視界に入っていなかった。


「ゴオッ♪」

 そしてゴーレムは、嬉しそうに嫌らしく笑う? と空助に攻撃を開始した。


 と言っても、殴ったり蹴ったりではない。単純に、空助に向かって倒れこんだのだった。ただのボディプレスである。

 しかし、ゴーレムは全長十五メートルはある。そして体中は岩石で覆われている。重量も圧して知るべしである。

 空き地を埋めるかのような巨大な身体が、空助に迫る。必然的にその周囲にいた不良達も巻き込まれるのは必死だった。


 涙を流しながら、近くにいる仲間同士で抱き合っている不良達が、切ない悲鳴を上げる。

「「「うぎゃあああああああああああああああ」」」


 空助も何故こうなったのか事情が分かないまま、

「うおおぉぉぉ何でだああああああぁぁぁ…………」

 迫り来る巨大な影を見つめて――――

 空き地に爆音が響き渡った。


 後に残されたのは、興奮したように雄叫びを上げている勝利と、心配そうに空助の名前を呼ぶイヴァン。

 完全に眠りについたミアと、そっぽを向いて「ばか」と呟いたエリノアだけだった。

 こうして空助達の一日は、いつものように過ぎていくのであった。



 ―NEXT?―

短いですが、この話はこれで終わりです。

冒頭に書きましたとおり、いつかこれの続き――――というか、本編を書きたいと思っております。(その前にもう一つ本編前の話を上げるかも?)


尚、今回は他の作品と異なり、会話文を多めにしてみました。新しい試みでしたが、形になっていたら幸いです。



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