その5: クレヨンの在処
土手下の隣を流れる幅五十メートルほどの川の表面に、夕陽の光が淡く反射している。オレンジ光で染まった地面に、トボトボと歩く二人の影が長く伸びていた。
そんな儚さを感じさせる世界の中で、少女は憤っていた。厳密に言えば、少女が怒り始めて既に一時間は経過している。
「全く! デリカシーに欠けてるのよ! あの男は!!」
少女とは、エリノアだった。本来は白くきめ細かい肌が赤く染まっているのは、夕陽の所為だけではないに違いない。
「ミアもそう思うでしょ!?」
「あう……」
空助の無神経さに対して不満を上げては、自分の後ろを付いてくるミアに同意を確認する。という事をずっと繰り返していた。
ただ、エリノアは別に明確な回答を期待しているわけではない。ミアはそういう少女ではない事もあったし、それ以上に、ただ愚痴を聞いて貰いたいだけだったからだ。
だが、それに付き合わされるミアとしては堪ったものではない。長時間に及ぶエリノアの怒声によって、頭をフラフラとふらつかせていた。
「年頃の女の子に向かって、む、む、胸が無いなんて! ホント最低! でしょ!?」
「…………うぅ」
「仲間外れにするしさ……。私にだけ優しくないし……」
「…………?」
エリノアの不満は最高潮に達していた。一時間かけて、ようやく一番の本題に達したようだ。
だから、ダウン寸前だったミアが、何かに気付いて目を輝かせていたのには気付かなかった。
「もうちょっとさ。私のことを……だ、大事にするべきだって思わない?」
エリノアは恥ずかしそうに、ぼそぼそっとそんな台詞を吐く。
本来は白くきめ細かい肌が赤く染まっているのは、夕陽の所為だけではないに違いない。
だがエリノアの肝心の質問には、幾ら待っても返事が返ってこなかった。
「……って、ミア聞いてる!?」
頬を膨らませて背後を振り返ったエリノアだったが、ついさっきまでそこに居た筈のミアの姿がない。
「あれ? ミアはどこ?」
慌てて周囲を見渡したエリノアは、直ぐにミアを見つける事が出来た。
両手を前に突き出すように伸ばして、とてとてと前方に向かって走っていたのだ。
突然の奇行を怪訝に思いながらも、エリノアは後を追いかけた。
ミアはとても足が遅いので一瞬で追いつく。エリノアは併走しながら尋ねた。
「ちょ、ちょっと!! ミアどうしたのよ!! 急に走り出したりして、何が……」
そこまで言いかけた時、エリノアの視界からミアの姿が忽然と消失した。
正に一瞬の出来事だった。
「へっ? あれ? ミア!?」
更にエリノアの視界が一瞬影で覆われて、直後に強烈な破砕音が聞えてきた。思わず首を竦めたエリノアにどこからか飛んで来た土砂が降り注ぐ。
「うわっぷ。な、なによ一体!?」
顔や身体にかかった土埃を手で払いながら、エリノアは視線を巡らせ――――ある方向で固まった。
先程まで罵詈雑言を吐いていた憎い相手が、魔装騎兵と思われる機体に追われているのを捉えたのだ。どう見ても、襲われているようにしか見えない。
それを見て、エリノアはキッと表情を引き締めると、躊躇うことなく直ぐに行動を開始したのだった。
***
「おーー。あーちゃん」
すれ違いざまに空助の小脇に抱え上げられたミアが、両手を頭上に伸ばし嬉しそうに雄たけびを上げる。
ただ今ミアは横向きに抱えられている。"頭上に伸ばした"と言っても実際に伸びているのは、地面と平行で、空助の進行方向にである。
いつも眠たそうなにトロンと下がった垂れ目の少女は、基本的に表情が変わらない。幼馴染だからこそ分かる喜びだった。
そんな少女に、空助は開口一番目的を告げる。
「おうミア。いい所に居たな。召喚してくれ、召喚」
「う?」
「いいから、召喚だ……なるべく、でかい奴をな」
「うー? ……わかった」
空助たちがミアに希望を見出したのは、ミアが召喚士だからだった。
そのミアにでかい召喚魔を召喚させてこの場を凌ごうとしていたのである。
事情はよく分かっていない風だったが、この少女が空助の頼みに嫌と言うことは滅多にない。早々に頷いてみせた。
「う」
だが、直ぐに困ったような声を上げる。
「どうした!?」
何か問題があるのかと、慌てて確認した空助にアンドロメダが迫ってきた。アームが振りおろされる。
「何くそっ!!」
ミアを担いだままだが、空助はまるで重さを感じていないように跳躍してその一撃を躱した。
疲れている体で無理をした所為か、空助の息は更に乱れる。そんな空助に対して、悪い知らせがミアの口から伝えられた。
「クレヨン……ない」
「何ぃ!? 『触媒』を、どっかに落としたのか!?」
クレヨンは、ミアが『召喚』を行う際に使用する触媒である。
空助は今のジャンプがいけなかったのかと、首を背後に回して地面を探ろうとするが――――
「ちがう」
ミアは首を振る。
「じゃあ、どうしたんだ!?」
「クレヨン……無くなったから、リーヌと今日買いに行く……」
「はぁ? …………あ!」
空助の脳にミアの片言の言葉が浸透するのにかかった時間は、十秒程だった。
その後、空助の脳裏に一時間前のリーヌとの会話が蘇った。
『どうかしたのか?』
『いえ、実は今日この後一緒にお買い物をする約束だったのですけれど』
『あーなるほどな。……アイツのことだから絶対忘れてるな』
『ははは……』
『ええ、そうですねきっと』
「買い物って、触媒のこと、だったのか!」
空助はてっきり洋服とか、買出しとか、そんな話だと思っていた。
思わぬ事態に途方にくれる。
「う?」
「じゃあ、召喚は……」
無様にも、答えの分かっている希望に縋るが――――
「できない」
やはり無様だったようだ。ミアにきっぱりと告げられる。
「馬鹿野郎! ちゃんと、補充しとけ!!」
「だから、今日……」
理不尽にも怒鳴る空助だったが、この場合ミアの言う事の方が正しい。非常に稀なケースだった。
「ちきしょう!!」
空助は思わず夕陽に向かって叫んだ。
「あーちゃん」
そんな暗い雰囲気に覆われていた空助に、ミアが呼びかける。
「はぁ、はぁ、何だ?」
ミアは一度首を捻ってアンドロメダを見つめた後、空助に視線を向けなおして、ぼそりと尋ねた。
「……鬼ごっこ?」
「違う! 遊びじゃ、ない!! 嬉しそうな顔、するな!」
ミアの瞳はキラキラと眩しいほどに純粋な輝きを放っていた。
***
一方。その時イヴァンは、空助達からは少し後方に居た。
空助がミアを掻っ攫う直前に、進路上に通行人の姿を発見した為である。急いで先行して、土手下から土手上への退避を促していた。顔見知りだった為、イヴァンの言葉に素直に従ってくれたのは僥倖だったと言える。
ただ、その避難誘導をしている間に、空助達がイヴァンを追い抜いてしまっていた。
同じように進路上に人がいないとも限らない。汗が顎を伝い地面を濡らすほど止め処なく溢れていたが、一度大きく深呼吸して呼吸を取り戻すと、イヴァンは再び後を追って走り始めた。
この時。その人に助けを呼んでくれるように頼んでおかなかったのは、失態であったように思える。だが、何よりも空助達の事を心配していたイヴァンにそれを求めるのは酷だったのだろう。
***
「はぁ、はぁ……ミア」
頼みの綱が失われ、さぞかし意気消沈しているかに思われた空助だったが、まだ目に力は失っていなかった。何か思惑があるような表情で、ミアに呼びかける。
「う?」
「……リーヌが、何処にいるか、分かるか?」
ミアは今携帯を持っていない。それを知っている空助がそれをミアに頼むと言う事は、『念視』してくれという事に他ならない。
ただ、別に『視る』事に忌避感を持っていないミアは、すんなりとリーヌの位置を探り始めた。瞳を閉じて、ピンと突き立てた両手の人差し指を、それぞれ左右のこめかみに添える。
「……うー」
ミアの頭の中では、いつも通る通学路、駅前の商店街、文房具屋と、まるでリーヌの道筋を辿るように靄かかった映像が切り替わっていった。そして、突然その映像がクリアになる。リーヌの目と同調したのだ。つまり、今映っている映像こそが、今正にリーヌの視界に入っている情景だった。
ミアはゆっくり目を開く。
「どうだ!?」
「ぶんぼーぐ屋の、じーちゃんとこー」
ミアが盗み見たリーヌの視界には、文房具点の店主の姿があった。どうやらリーヌは店主と談笑しているらしい。
「まだ文房具屋か……」
答えを聞いて、空助は考え込む。
「往復で、十キロ以上、あるな……。だが、クレヨンは、リーヌが、持ってると、考えていいな」
疲れているだろうに、空助の口からは思考が漏れている。
悪癖かどうかはさておき、空助は物事を考える時には口に出して思考する癖があった。言葉から判断すると、空助はクレヨンの所在を知りたかったようだ。
「うー?」
「後は誰が、取りに行くか……だ、がっ!」
考え込んでいた所為か、空助はアンドロメダの一撃への反応が僅かに遅れてしまった。巻き上がる土砂の礫が、空助の背中に降り注ぐ。
「いててっ! くっ、そんなには、持たんな……ん? ミア!?」
空助の視界の端に、ミアが痛そうな表情が映りこんだ。空助は慌ててミアを注視する。
「ううー、足に当たった……」
どうやらミアの剥き出しの足に、今の礫が当たったらしい。痛そうにミアが足を擦っている。
「この体勢は、危ないな……。はぁはぁ……よっ!」
空助は呼吸を一度整えタイミングを図ると、小脇に抱えていたミアを自分の身体の前で抱え上げた。
「おーーー」
嬉しそうにミアが雄叫びを上げる。
「だっこーーーーーー」
ミアが喜んでいるように、空助は所謂お姫様抱っこにかえたのだった。自分の身体でミアへの礫を防ごうという気らしい。
腕の中ではしゃいでいるミアを、しんどそうに眺めて空助は思案する。
「しかし、どうするか……」
このまま空助が文房具店に向かうわけにもいかない。そんなことをすれば、背後のアンドロメダは間違いなく空助を追って来る。街中で暴れられたら、どれほどの被害がでるか分からないからだ。
ミアに頼むと言う方法もあったが、空助はあまり気乗りはしなかった。なんせ、ミアは幼稚園児に匹敵する程の足なのだ。それも足の遅い子供の。ここから文房具店までは五キロ以上離れている。往復で十キロだ。ミアに頼んだ場合、一体どれ程の時間が掛かるか分かったものではない。間違いなくその前に空助の体力が尽きてしまうだろう。
なので、空助としては消去法的にイヴァンが追いついてくるのを待っているしか無かったが……。
「……兄ちゃーーーーーーん!」
どこからか、空助の幼馴染の声が聞えてくる。空助を兄と呼ぶのは一人だけ……という訳でなかったが、こんな能天気そうなデカイ声の持ち主は一人だけだった。
「おー、かーちんだ」
ミアが手を振る。
一体どこから叫んでいるのか。遥か前方にある勝利の身体は米粒ほどに小さかったが、爆音と土煙を上げながら瞬く間に空助達に近づいてきた。
「いい所に! ってお前、どこまで行って、やがった!!」
ズザザザッ、と勝利は急ブレーキをかけて立ち止まると、空助に併走し始めた。その上で、勝利は能天気な声で空助の問いに答える。
「二倍ってどれくらいか分かんなかったから、学校まで行ってきた!」
そうか、と一度頷いてから僅かな間を置いて、空助は突っ込み所に気付いた。
「隣町じゃねえか!!」
「おう!」
空助達の通う高校は、隣町にあった。勝利と別れた場所からは、八キロ近く離れている。加えて、別れてからまだ三十分程しか経過していない。その短時間で往復十六キロを走覇したというのだ。しかも勝利はまるで疲れている様子はない。恐るべき走力、体力である。
――――なにせ、勝利は魔法をうまく使えない。その成果は全て自前なのだ。
空助も呆れていたが、それは勝利の身体能力の出鱈目さではなく、そのお頭具合にだった。これくらい勝利には何でもない事をよく知っているのである。
「おう! じゃねえ!!」
「二倍こえてるよな?」
「……ああ十分な」
アホな回答に、どっと疲れる空助だった。
ただ、そんな空助に勝利が不満げな叫び声を上げる。
「それより、兄ちゃん!!」
「ああ? 何がだよ」
怪訝な目を向ける空助に、勝利は器用にも走りながら両手を頭上に突き上げ、全身で自分の怒りを表現する。ぼさぼさの髪が逆立っている。その強い怒りが伺えるようだ。一体どんな理由だというのか。日頃あっけらかんとしている勝利が、これほどの怒るとは余程の理由に違いない。
その理由とは――――。
「ずるいぞ! 俺をのけ者にして、自分達は鬼ごっこしてるなんて!!」
やはり下らない理由だった。
「鬼ごっこーーーー」
勝利に同調したのか、ミアも雄叫びを上げる。
「ちげーよっ!」
残った体力まで根こそぎ奪われ脱力する空助に、アンドロメダが迫る。辛うじて躱したが、際どい。空助は危うく巻き込まれる所だった。
そんな空助の様子など全く気にせず、目の前でアンドロメダを見た勝利が興奮したようにはしゃぐ。
「おおすげーー! あれ乗ってるのエリノアか? 鬼はエリノア? 俺も混ぜてよ」
「ちげーーつってんだろうが!! はぁはぁ……疲れる……」
さしもの空助も、この状況下で勝利とミアを同時に相手をするのは一苦労のようだ。二人のテンションと反比例して、空助の意欲は下がっていく。いつもはツンツンと逆立った黒髪も、どこか悄然としているように見える。
ただ、直ぐにそんな場合ではないと自分を叱咤し、空助は隣を走る勝利に視線をやった。
「それより、勝。お前に、頼みがある」
「何だ? それ聞いたら仲間に入れてくれるか?」
「……はぁはぁ。……ああ、入れてやるから、聞け!」
「おう!」
仲間に入れて貰えるなら何でも聞く、とばかりに勝利は元気よく返事をする。それを苦々しく思いながらも、空助はミッションを説明する。
「今から、文房具屋に行って、リーヌから、ミアのクレヨンを、貰ってこい」
「ミアのクレヨンーーーー」
「リーヌも参加してるのか? ひでぇよ兄ちゃん!!」
「やかましいっ!! いいから、分かったか?」
完全に息が上がっている空助は、言葉を短く切りながら勝利に確認する。
「クレヨンだな? 分かった行ってくる!!」
「クレヨンを、貰ったら……。空き地だ。空き地に、持って来い!」
「うん。分かった!」
返事だけは非常に素直である。勝利は集合場所を告げた空助の言葉に答えると、現れた時と同様にまるで弾丸のようなスピードで、空助達の前から離れていった。
それを空助は疲れた目で見送って、
「後は、空き地まで、逃げ切る、だけだが……」
目標である空き地の方角に視線を向けた。空き地は今空助達がいる場所からは、川を挟んで丁度反対側にある。なので、この先にある橋を渡ってグルリと廻る必要があった。
再びアンドロメダが追いついてくる。大きく頭上にアームを振りかざして、空助目掛けて叩きつけた。今までで最も大きな破砕音が上がる。
意識を違う場所に向けていた為、空助は僅かに反応が遅れてしまう。アームの直撃こそしなかったが、魔装騎兵が砕いた地面から弾き飛ばされた拳大の石が、空助のわき腹に命中した。
「ぐはっ、ごほっ、がはっ……くっ、ちきしょう!!」
一瞬呼吸が詰まったが、それでも何とかミアは落とさず、スピードも落とすことなく空助は耐え抜いた。
「うー? あーちゃん?」
「何でも、ねえ」
不思議そうに見上げるミアに、空助は意地を張る。
――――そんな空助の頑張りへの天からのご褒美であったのかもしれない。
「……おーー。倒れたーー」
「はぁはぁ、あ?」
ミアののんびりとした声に、ハッと気付いて空助が走りながら後ろを振り向くと、今の一撃の影響か、アンドロメダが地面に倒れこんでいた。
「し、しめた! 今の衝撃で、体制を、崩したか!!」
操縦者がいない為か、アンドロメダは起き上がるのに苦戦しているようだった。
「はぁはぁ、よ、よし、今のうちに、空き地に……」
ここに来て千載一遇の機を得た、と感じた空助は残りの力を振り絞って、走るスピードを上げた。
***
「はぁはぁはぁ……。後、少しだ……」
川にかかっている橋を渡り、空き地を目前に捉えた安堵からか、空助が呟きを漏らす。
少し余裕が出来た為か、空助は背後から近づいてくる人の足音を察知することが出来た。肩越しに振り返る。
「はぁはぁ。やっと、追いついたよ……」
今にも力尽きそうな様子のイヴァンだった。
「おーー。いーくん」
「はぁはぁ。奴は!?」
一人のんびりとイヴァンに手を上げているミアを他所に、空助が問う。
「立ち上がるのに、手こずってた、みたい。だけど、もうすぐ、来るよ」
「周囲に、人は?」
空助が橋を渡る際に確認した時は人通りは全く無かったが、念の為の確認だった。
「はぁはぁ……。誰も、居なかったよ……」
「そ、そうか……はぁはぁ」
イヴァンの返答に、空助は安心する。
「アキ君、空き地に、行くの?」
空助の進路からそれを推測したのだろう。イヴァンが空助に尋ねる。
「はぁはぁ。ああ、はぁはぁ。勝が、クレヨンを、取りに、行ってる」
「ミアの」
ミアが何故か胸を張る。
「空き地が、待ち合わせ、場所だ」
「で、でも、はぁはぁ。空き地だと、逃げ場が、ないよ?」
空き地はそれほど広くない。それを思ってのイヴァンの問いだった。だがそれは空助も分かっていた。
「そうだな、ただ、はぁはぁ。どのみち、もう体力がない」
空助は苦笑いを浮かべて答える。
「単純に、逃げ回るより、はぁはぁ。攻撃を、躱し続ける、方が、まだ楽だ」
「き、危険、だよ」
心配そうな顔になるイヴァンだったが、空助は疲労の色がありありと見える顔で、微かに口角を上げて笑う。
「あ、あと、二、三分もすれば、勝が来る、はぁはぁ。少しの間、だけだ」
それは勝利への信頼ゆえの答えなのか。
ほどなくして、三人は空き地に辿り着いた。空き地の中央に陣取り、呼吸を整える。二人の荒い息が空き地を支配する。立ち止まった事で一気に汗が噴出しており、ポタポタと流れ落ちる大量の汗が地面を濡らしていた。
「むーー!!」
下ろすのを忘れているのか、空助はミアを抱えたままだったので、空助の汗はミアに降りかかっていた。ミアは嫌そうに、身を捩ってそれを躱そうとする。暴れ始めた事でようやくミアのことを思い出したのか、空助がミアを地面に下ろそうとした時――――
「!! アキ君、上っ!!」
イヴァンの声が、空助に鋭く突き刺さった。
「っ!?」
完全に死角だった。
空助達は空き地の入り口を警戒していたが、アンドロメダは入り口を通ることなく、空高く跳躍して直接空き地の中央に降り立とうとしていたのだ。
見上げる程の高さから、一気に空助目掛けて降下してくる。完全に虚を付かれた格好で、空助は逃げる暇も無く、アンドロメダの落下の勢いを利用した攻撃を、その身に受けようとしていた――――
「アキ君っ!!」
イヴァンの悲鳴だけが、空き地に響き渡った。