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『心眼鏡(こころめがね)』

掲載日:2026/05/01

今日はセールスマンの水谷は、いつもの訪問販売とは少し変えて、高校の校門にこっそりやってきました。高校生なら上手いこと、セールスも成功するんじゃないかと、そういう思惑です。ちなみに水谷は、以前は少し変わった石鹸の訪問販売をやっていたんですけども、なぜか販売の商品を持っていくと、訪れていたアパートは誰もいなくなっていました。全く業績の上がらない水谷は、クビになって今度はメガネの訪問販売を始めることにしました。


学校の先生に見つかって追い出される前に、なんとかターゲットを見つけて商品のサンプルでも渡さないと。そう思いながら水谷がキョロキョロしていると、のり子が登校で正門の方に来ました。水谷は早速のり子の方に近づきました。


「こんにちは。朝早いですね。ちょっとだけよろしいですか。あなたはすごく可愛いから、きっと気になる彼氏とかもいるでしょう」


のり子は、いきなり何を言い出すのかと唖然としていました。水谷は構わず続けます。


「このメガネをかけて覗けば、相手の心がわかるんですよ。どうですか、すごいでしょ」


のり子は、頭の悪い人なのかなと思いながら、「はぁ」と息を吐きながら、相手にしないで、正門をくぐって校舎の方に行こうとしました。


「ちょちょ待ってください。本当なんです」


そこへ見回りに来た学校の先生がやってきました。手には竹刀を持っています。


「こらぁ!こんなところで何やっとるか〜!」


大きな声が響きます。水谷はびっくりして、焦って、のり子に急いでメガネを渡し、「これはサンプルですので良かったら使ってください」って言いながら、走って立ち去って行きました。

のり子の手には、水谷から渡された黒縁メガネが残されていました。


のり子は、その日もごく普通に授業を受け、ごく普通に帰ろうとしましたが、ふと朝渡されたメガネの事を思い出しました。これで気になるマサトのことを覗いたらどうなるんだろう。そんなことが頭によぎりました。マサトが好きな人のことがわかるのかな。のり子は、運動場に行ってみました。そこには、マウンドでボールを投げているマサトの姿がありました。クラスで一番の、いいえ学校で一番のイケメンであるマサト。のり子が来る前に、すでに何人かの女の子がギャラリーとして来ていました。


メガネを取って、自分の目にかけようとするけれどもなかなかかけることができません。どうしよう、見たいけど見る勇気がない。のり子は結局、練習が終わるまでずっと彼のことを見ているだけでした。


あたりはすっかり日も陰って薄暗くなってきています。のり子は、連絡もなしに家に帰るのがとても遅くなってしまいました。玄関を開けると、案の定お母さんが激しく怒っていました。のり子は、ふてくされながらも「そんなに怒らなくても」と思い、お母さんの心を覗いてやろうと、手に持っていたあの眼鏡をかけました。


すると、怒りの裏側に、娘を心から心配し愛する深い心が見え、のり子は思わず涙があふれてきました。「お母さん、ごめんなさい」のり子は、素直に謝っていました。その態度に、母も「ちゃんと連絡はしてね」と言い、いつもの優しい口調に戻りました。


のり子は、この眼鏡は本物だと気が付きます。


夕食の席、テーブルにはお父さんが新聞を広げて不愛想に座っています。お母さんの問いかけにも「うん」とか「ああ」とかしか返事しません。試しにお父さんを覗いてみると、その心はお母さんへの誕生日プレゼントのことでいっぱいでした。不器用な愛に、のり子は思わず吹き出してしまいます。もうすぐ、お母さんの誕生日です。お父さんは、誕生日の思案で返事が上の空になっていたのだと、のり子は気が付いてお父さんが急に優しく見えました。


次に、彼氏がいるお姉さんを覗いてみました。すると、「アイドルの顔」が浮かんできました。今、まさにTVで流れているコマーシャルに出ていたアイドルです。お姉さんの心の中は、アイドルをピンクの淡い光が取り囲んで見えました。お姉さんの彼氏さんが知ったら、どう思うのでしょうか?のり子は、この事実は話さないでおこうと決めました。


翌朝の、朝食のときに家族がテーブルを囲んでいます。のり子は、また例の眼鏡を掛けました。


お姉さんが「あんた眼鏡とかしてたっけ?目悪いの」と聞いてきました。のり子は、ちょっとドキッとしましたけど、ファッションで遊びで掛けてるだけ、度はないのって、適当に答えてごまかしました。


さて、眼鏡をかけて覗いてみると・・・


お父さんは、まだお母さんへのプレゼントのことではなく、自分の財布の中を不安げに眺めている様子が浮かびました。あまりの、お父さんの普段と違う、寂しそうな顔に、ちょっと吹き出してしまいました。


お母さんは、そんなお父さんを見つめながら、いつもお仕事お疲れ様と、無理しないでねという、優しい気持ちが浮かんできました。のり子は、夫婦なんだなぁって、温かい気持ちになりました。


お姉ちゃんを見てみると、今度は、朝のTVでニュースをやっているのですけど、そのイケメン新人ニュースキャスターに夢中です。淡いピンクの光に囲まれています。のり子は、彼氏さん大丈夫かなと、ちょっと心配になりました。


「人の心はいつも同じじゃない。お小遣いやプレゼントのことを考える時間もあれば、イケメンにときめく時間もある。知らないほうがいいこともあるし、心を知って奥にある優しさを知ることもあるの」と、のり子は知りました。


きっと、私の好きなマサトの心も、覗くたびに違う心が見えるのね。そして、わたしの頑張り次第では、私の顔が見えるようになるのかも?と、ちょっと自信過剰に(いいでしょ?)考えたりもしました。




翌朝、校門で待っていた水谷が「どうでした、すごいでしょ?今ならたった3000円ですよ」と必死に売り込んできましたが、のり子は晴れやかな顔で答えました。


「これ、いりません。お返しします」


今日は、どんな心の色が待ってるのでしょうか?


のり子の一日が始まります




  おしまい


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