灰色の魔力
孤児院を離れてから、どれくらい歩いただろう。初めて踏み入れる夜の森は静かだった。
月の光が木々の隙間から差し込み、足元の落ち葉を照らしている。僕は必死に男の背中を追いかけていた。歩くのが速い。いや、速すぎる。
「ま、待ってください……!」
思わず声を出す。その男は少しだけ足を止め、振り向く。紫の瞳が静かに僕を見る。
「遅い」
それだけ言う。
「す、すみません……」
息が上がる。足も痛い。でも、弱音は吐きたくなかった。その男は少しだけ森を見回し、呟いた。
「ここでいい」
森の中でも開けた場所だった。木が少なく、月明かりが広がっている。その男は振り返った。
「魔法を使え」
「え?」
突然言われて戸惑う。
「お前の使える魔法、何でもいい。見せろ」
僕は緊張した。手を前に出す。深呼吸。
そして魔力を集め、頭の中で考える。
……火
小さな炎が生まれる。でも――すぐ消えた。
その男は黙っている。慌てて僕はもう一度やる。
風……
落ち葉が少し揺れただけ。僕は拳を握る。
水...
少しだけ水が滴り出ただけだった。その男は少しだけ目を細めた。
「……すみません。僕まだ上手く使えなくて...。でも、頑張って練習しますから!見捨てないでください!!」
その男は少し考えていた。そして言う。
「瞳を見せろ」
「え?」
「近くに来い」
僕はゆっくり近づく。その男はしゃがみ、僕の目をじっと見た。灰色の瞳。しばらく見つめて
小さく呟く。
「……灰色」
低い声だった。
僕は恥ずかしくなってすぐに俯いた。
「……やっぱり、変ですよね」
「違う」
その男はすぐ言った。僕は驚いて顔を上げる。
「変ではない……おかしいだけだ」
「え?」
その男は僕の手を取った。手の甲、灰色のあざを指で軽く触れる。
その瞬間。
ズキッ
強い痛みが走った。
「っ!」
あざが一瞬光る。その男の目が鋭くなる。
「やはりな」
僕は混乱する。
「な、何ですか……?」
その男は少し考えてから言った。
「お前、魔力が少ないと思っているな」
「……はい」
「違う」
僕は目を見開く。男は静かに言った。
「多すぎる」
「……え?」
意味が分からない。その男は立ち上がり、近くにあった木の枝をひょいと拾いあげて地面に何かを描き出した。
「魔力は川のようなものだ。普通の人間は、一本の川。火なら火、水なら水」
線を一本引く。そして次に何本も線を描いた。
「だが、お前の魔力は」
男は僕を見る。
「川が多すぎる」
僕は呆然とする。男は続ける。
「流れがぶつかり、互いに邪魔している。だから、弱い。」
頭が追いつかない。理解ができない。
「……僕は強くなれるの?……」
男は答えない。代わりに言う。
「明日から修行だ」
僕は驚く。
「え?」
男は背を向ける。
「まずは魔力を整える。すべてはそこからだ」
月が雲から出る。森が明るくなる。
男は歩き出した。
「あの、名前...!」
「ヴァルクだ。」
「ヴァルク...」
胸の奥が熱い。強くなれるかもしれない。
初めてそう思えた。僕は空を見る。灰色の瞳に月の光が映る。その時。手の甲の痣がほんの一瞬だけ淡く光った。まるで何かが目覚めるように。
本日は20時過ぎにもう一話(ヴァルク視点)を更新する予定です!
よろしくお願いします!




