伝説の魔物と裏切り
夕暮れの孤児院は、静かで穏やかなはずだった――
僕はペンダントを返してもらおうとライルを探すが、なかなか見つけられない。
あの火魔法でペンダントを取った嫌な奴。早く大事なペンダントを返してもらわなければならない。
そうしているちにその静けさは突如、轟く唸り声と共に破られた。
「――グァァァっ!!」
遠くの森から、魔物のうめき声が聞こえる。
あの森は普段は穏やかな森だが、森の奥には魔物たちがたくさん住んでいる。
孤児院は森の近く、街からはなれた隅にあるが、普段は魔物は森の奥にしかいないので魔物がここにくることはなかった。
だが、聞こえた魔物の声はとても大きく近かった。
空気が震え、孤児院の窓がガタガタと揺れる。僕は思わず身体を固くする。
手の痕も、チクチクと疼き出す――まだ何の意味も分からないのに、身体が反応しているみたいだった。
「ライル!ライル、どこにいるの!?」叫びながら僕はライルを走ってさがす。恐怖で心臓がバクバクと鳴る。
そのときだった。
ドォオオオオン!!
突如大きな衝撃が地面を揺らした。
爆風と共に孤児院の高い塀がガラガラと一瞬で瓦礫に変わり、そうしているうちにゆっくりと30メートルほどの巨大な怪物が出現した。
「え....ドラゴン…?」
声が震える。僕の小さな手は、知らず知らずに胸の前で握りしめていた。
魔物の中でもドラゴンはなかなかお目にかかれない伝説級の生物だ。普通に暮らしていたら人生で一度も目にしない人間の方が多い。ドラゴンを倒すには兵士が何百人も何千人もいないと倒せない存在とも言われている。
ほんの時折、森の遠くで人々がドラゴンのうめき声、とささやかれる声が聞こえるが、人々は「森の神のいたずらだよ」と笑い、ドラゴンの存在をほとんど否定した。
ドラゴンが街を襲うことは世界的に見ても100年に数度しかないからだ。
目の前にあらわれたドラゴンは黒い鱗に紫の目をしていた。時折、黒い鱗の間から紫色の魔力のようなものが出ては周囲の空気を染めている。
孤児院の子供たちは驚き、泣き、逃げ惑った。
ドラゴンがこちらに向けて手を軽く振りかざすだけで周りのコンクリートは粉々に散る。
セレナ院長はドラゴンを見て、一瞬驚いては急いで何かを詠唱をすると孤児院は巨大な大きな輝く光のシールドに覆われた。
セレナ院長は光属性で強大な魔力をもつ持ち主なのだ。
「みんな、街の中へ!!」
セレナ院長の声。だがその表情はいつもとは違って、とても険しい。
僕と一瞬目が合ったかと思うと、院長はすぐに目をそらしてまた何かを詠唱した。
するとセレナ院長の作った光のシールドは一部崩れ、その隙間からドラゴンはギョロリと僕を見た。
そしてセレナ院長は何も言わず僕に背を向けて走り去っていった。
「院長、どうして…?」
もしかして、僕、見捨てられたの?
もしかして、囮に...されたの?
ドラゴンからしたら僕なんていうちっぽけな存在は片手を振りかざすだけでもすぐに殺せるだろう。でもドラゴンが僕を構うその一瞬で他の子たちが少しでも逃げられると判断したのかな...
僕は巨大なドラゴンになす術もなくその場に呆然としていた。
ドラゴンが紫色の目をぎょろつかせながら一部壊れた光のシールドをさらに壊して粉々にし、僕の前にたちはだかる。
その時――
「リオ、!危ない!」
ライルの声がした。赤い瞳が夕日を反射して輝いていた。




