セレナ院長
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雨が止み、孤児院には午後の柔らかい光が窓から差し込んでいた。
それを横目に僕は部屋の片隅で今も動けずにいた。
火を起こす練習、水を操る練習、風で紙を舞わせる練習……全部、思うようにできない。灰色の瞳はぼんやり光り、胸の奥にぽっかり穴が開いたように孤独を感じていた。
「リオ、大丈夫?」
背後から柔らかい声がした。振り向くと、セレフィーナ・ヴェイル...この孤児院の院長が静かに微笑んでいた。彼女の輝くような金色の瞳は優しく、落ち着いた雰囲気が漂う。孤児院で唯一、僕を気にかけてくれる存在だ。
孤児院のみんなは彼女のことをセレナ院長と呼んでいる。
院長はこの孤児院で子供たちに生活の仕方やこの世界のこと、簡単な魔法や読み書き等を教えてくれる。
「えっと……僕……うまく魔法ができなくて……」
小さくつぶやく僕の声は、恥ずかしさと情けなさで震えていた。
セレナ院長は軽く肩に手を置く。
「焦らなくていいのよ、リオ。君には君だけの歩み方がある。周りと比べる必要はないわ」
その手の温もりに、僕の胸が少しだけ軽くなる。
「……でも、僕が弱いからライルにもペンダント取られちゃったし…」
涙がうっすら浮かぶ。セレナ院長は静かに微笑む。
「そうなのね...リオ、あのペンダントは確かに今はあなたの手元にないかもしれない。でもね、あれは君に託されたもの。親が君を想って置いていった、大切な“愛の印”なのよ。ライルも話しあったらきっと返してくれるわよ。」
胸がぎゅっと締め付けられる。
「でも、僕は捨てたらたんでしょ。」
声が震える。セレナ院長は優しく微笑む。
「正直、あなたには酷かもしれないけれど、私は違うとも言えないし、そうとも言えない。断定するには情報が少なすぎるわ。でももし私が子供を捨てるとしたらあんな大事なペンダント、わざわざ子供にあげないわ。だから私はリオの両親はきっと何か事情があったと思うわ。たとえ目に見えなくても、君を想う気持ちは確かにある。それに、私は答えがわからないことに対して悲しい方向に考えるより、幸せな方向に考えてほしいわ。」
セレナ院長は両手で僕の小さな肩を包むように握る。
「リオ……強さってね、魔法の力だけじゃないのよ。誰かを想う心や、何事にも挫けない心。そういうものも全部、強さになるの」
その言葉に胸が熱くなる。僕はペンダントを握りたくなるけれど、ライルに取られてしまった。手元にはない。
でも、言葉だけでも十分温かかった。目の前の院長の瞳に、愛情があることを感じたからだ。
「……僕、もっと強くなりたいな……」
小さな決意が胸に芽生える。孤独の中に、少しの光が差し込む瞬間だった。セレナ院長は微笑みながら、そっと僕の頭を撫でる。
「その気持ちを大事にしなさい、リオ。君の力は必ず花開く。その日まで、私は君のそばにいるわ」
窓の外には、雨上がりの空に虹がかかっていた。灰色の瞳の僕に、ほんの少し光が差し込む―。
「……ライル……ちゃんと返してもらおう……」
胸に小さな怒りと悔しさが混ざる。けれど、セレナ院長の言葉を思い出し、少し前向きになれた。




