覚醒編2
○あれから、2ヶ月ほどが経った。
「お~い!いったぞ~!」
オレは支部近くの山中で玲子たちギルドの仲間と変異した動物を狩っている。
オレの役割は勢子。藪や茂みに隠れた動物を追い出す役目だ。
山中で一人、動物を追い出す役割は変異した動物に襲われる危険がある為、それなりに腕に自信のあるメンバーの役割となる。
今回、見つけた獲物は体長5メートルはある巨大な猪だ。
普通の猪の毛色は茶色なのだがこの猪は白灰色っぽい毛色だ。
サイズといい毛色といいウイルスで変異しているのは間違いない。
襲いかかってくる事を期待したのだが、オレに見つかった巨大猪は一目散に麓に向かって逃げていってしまった。
逃げていく大猪は周囲の木々をなぎ倒しながら逃げていく。
ーどれだけ怖がっているんだよ。
少し呆れながら玲子たちが待機する方向に大猪を誘導する。
「やったよ~!」
倒れた大猪の側で玲子が笑顔で手を振っている。
顔に大猪の血が飛び散っているのでちょっと怖い。
「どうだ?」
大猪を調べている藤井くんに聞いてみる。
倒れた大猪の腹や胸にはクロスボウから放たれた太い矢が数本突き刺さっている。
長く細目の矢が刺さっていないところを見ると普通の弓では効果が無かったのだろう。
「かなり毛皮が硬いですね」
大猪の内蔵を抜きながら藤井くんが答える。
倒れた大猪の毛皮を撫でて確認してみるが確かに硬い。
なかなか有効活用出来そうな毛皮になりそうだな。
「エサは普通の物を食べているようです」
藤井くんは大猪から抜いた内蔵を調べている。
「じゃあ、食べても大丈夫だね」
目をきらきらさせて玲子が大猪を見つめる。
それを廻りのギルドメンバーが生暖かい笑みを浮かべて見ている。
あの変異体の群れの襲撃以降、ギルドには新人が何人も入団してくれた。
多くは襲撃の時、共に戦った狩人の人たちだ。
「多分、大丈夫でしょう」
藤井くんの言葉を聞いて、玲子やギルドメンバーが歓声をあげる。
このサイズなら400キロは肉が取れるだろう。
普通の猪の数倍の量になる計算だ。
近くの太い木に大猪をロープで吊り下げる。
「あとは任せてください」
「あぁ、頼むよ」
大猪を吊り下げた後は新人に解体を任せて、オレは岩に腰をかけ一休みさせてもらう。
元狩人だっただけあって新人メンバーの解体はかなり手慣れている。
藤井くんは大猪の解体を見つめながら詳細なレポートを書いている。
本部に送る報告書だ。
新しく発見した変異体や変異した動物の情報は出来るだけ詳細なレポートを作り本部に送っている。
送られた報告書はさとるさんが分析してくれ、その結果が支部に送られる。
そうやって本部と支部で出来るだけ情報を共有している。
「あのでっかい蛇、美味しかったね」
玲子がオレの隣に腰かける。
面倒くさがりの玲子は細かい作業が苦手なのであまり解体には関わらない。
・・・オレが解体を任せているのは新人に経験を積ませる為だけどな!
玲子は言うでかい蛇とは一週間ほど前に退治した新生物の事だ。
その巨体や頭部に生えた角状の突起物を見た時には、ついにドラゴンを発見したと思ってわくわくしたのに、戦ってみるとただのでかい蛇だった。
炎のブレスを吐く訳でも無く、空を飛ぶ事も無く、もちろん魔法も使わなかった。
ただ巨大な体で巻き付いてくるだけだった。
男の浪漫を裏切られたので頭を叩き潰してやった。
いや、ドラゴンなんて存在したらやっかいなのは理解してるんだが、ドラゴン退治にはこう男の浪漫があるんだよなぁ。
倒した大蛇は別に毒も無かったのでマスターが蒲焼き風に調理してくれたのをみんなで喰った。
ドラゴンでは無かったが、確かにあれは旨かった。
これまで、大蛇や大猪など新種の生物が数多く発見されている。
本部と支部を合わせれば、既に20種類以上の新種を発見した。
大抵の新生物は野生動物から変異しているので退治するしかなかったが、数種類の新生物は飼育して人に馴れればかなり有益になりそうなので生け捕りにしている。
発見した時、
「○○○ボ?」
と、危険な発言が飛び出した駝鳥のような巨大な鳥。
ただし、羽毛は鮮やかな黄色では無く地味な灰色だ。
訓練すれば騎乗も出来るかもしれないが、最大の目的は玉子だ。
この巨体なら相当でかい玉子を生んでくれるだろう。
見つけた時に全員の目の色が変わった4本角の牛。
「ステーキ!すき焼き!牛丼!」
ここでミルクなんて物がまったく出てこないのがオレたちらしいよな。
一日中全員で追いかけまくり、なんとか生け捕りにした。
肉にするなら狩っても良かった事に気付いたのは生け捕り後だったので、現在も飼育中だ。
せっかく生け捕りしたし肥らせた方が旨くなりそうだ。
それに、もしカップリング出来れば繁殖も出来るかもしれない。
動物が変異すると問題が出ると思っていたが、オレたちにとってはむしろ好都合に働いている。
大型化した動物は狩るのには苦労するが一度の成功で大量の肉を手にする事が出来るし、これまで発見出来なかった動物も発見しやすくなった。
さとるさんからの報告によれば本部近辺でも有益な新生物が見つかっている。
本部では鉄分を大量に体内に溜めるモグラのような新生物を地中から発見したそうだし、地上を歩く亀のような巨大な新生物はスピードはたいして無いがパワーがあるのでトラック代わりに利用出来る可能性があるそうだ。
幸い、これまで危険な肉食獣は見つかっていないが、さとるさんの予想ではこれら大型化した新生物を補食する新生物が存在する可能性はかなり高いそうだ。
まぁ、草食動物が巨大化すれば自然と肉食動物も巨大化するだろう。
もしかすると猫が虎のように変異しているのかもしれない。
それはそれで面白そうなので内心、少し期待している。
「解体、終わりました」
「じゃあ、みんなで手分けして町に持って帰ろう」
木を組み合わせて簡単な背負子を作り肉の塊を背負う。
「じゃあ、出発!」
玲子の元気な号令で町に戻る。
「ただいま~!」
ひとまず、オレたちはギルドの宿舎に戻った。
肉を渡さないといけないからね。
「おかえり」
明るい声と共に奥から出てきたのは、以前森で出会った変異者のご夫婦の奥さんだ。
ギルドのメンバーが増えた事で支部だけでは全員が寝泊まりする事は不可能になった。
そこで町の代表者たちと話し合って町に在った公民館をギルドの宿舎として借り受けたのだ。
そして、以前出会ったこのご夫婦に宿舎の管理人をお願いしたのだ。
このご夫婦は以前は小料理屋をやっていたそうなので管理人にはぴったりだった。
「今日も大猟やねぇ」
笑いながら奥さんが大量の肉を受け取る。
「余った分はいつもみたいに配ってええんやね?」
「ああ、希望する人に配ってしまって」
電気が復活していないこの町では冷凍庫は使えない。
「塩漬けや味噌漬け、薫製にしたら結構保つで」
保存食も必要だが、今は町の住民との関係の方が重要だ。
「また捕ってくるから大丈夫だよ」
「ギルドさんは気前のええねぇ」
奥さんが感心してくれるが、オレたちはそこまで善良では無い。
感情や理性で変異者を認められない人間を胃袋から籠絡する極めて高度で悪辣な作戦なのだ。
そう説明すると奥さんにけらけら笑われた。
「こないだの一件でみんな、あんたらを認めとるよ」
町を変異体の群れから守って以降、住民のギルドに対する感情は概ね好意的だ。
「いやいや、ギルドの事をもっともっと認めてもらわないと」
「はい、はい」
奥さんに笑顔であしらわれる。
「オレと藤井くんは支部に報告に行くから、みんなは奥さんたちの手伝いをよろしく」
オレは藤井くんと支部に向かう。
玲子も同行したがったがあいつには自室の掃除を命令しといた。
支部、唯一の女性である玲子には個室を与えているのだがほとんど掃除をしていない。この宿舎に移動する時に玲子の部屋を見たのだがひどかった。ほとんど、寝るスペースぐらいしかない惨状だった。
一応、この宿舎は借り物なので出来るだけきれいに使わなくてはいけない。
放っておくといつまでも掃除をしないので玲子にはいい機会だろう。
「こんにちは」
「いつもお世話になってます」
支部に向かう道で住民からあいさつされる。
「いい感じですね」
あいさつされて藤井くんは笑顔だ。
「住民への籠絡作戦は成功しつつあるようだな」
オレも満足してうなずく。
このまま上手くギルドが町に溶け込めば、新生物探索にしばらく町を離れるのもいいな。
そんな事を考えながら支部に向かった。




