拡大編10
○首に紐を括り付けられた妖精もどきは森の中を飛んでいく。
紐が短いと自由に飛べないし長すぎると木々の枝に絡まってしまう。
紐の長さを調整しながら妖精もどきが出来るだけ自由に飛べるように注意する。
こいつに女王蜂的な存在がいるのであれば、そこに逃げ込むと思うんだが、さてどうかな?
そのまま紐を握り妖精もどきが飛ぶに任せる。
何度か枝に絡まりそうになりながら妖精もどきは森の中を飛び続ける。
そして半時間ほどが経った頃、森の中に異様な物を見つけた。
泥で出来た塔のような建造物だ。
テレビで見た海外の白蟻の蟻塚のようだ。
ーあれが巣なのだろうか?
妖精もどきの紐を引っ張って手元に寄せる。
妖精もどきは明らかにあの蟻塚(蜂塚?)を目指している。
周囲に他に奇妙な物も無い事からあれが妖精もどきの巣と断定する事にした。
ー正直、めんどくさくなってきたし、夜が明けてしまうと困る。
朝になってオレがいないのがバレると怒られてしまう。
手の中で暴れる妖精もどきの首に指をかけ軽く力を込める。
ボキッ
乾いた音がして妖精もどきの首が折れた。
妖精もどきの死体を捨てようと思ったが、思い直して腰の袋に入れて持ち帰る事にする。
損傷の少ない死体はさとるさんへのお土産になるかもしれない。
妻と嫁に怒られた時は本部にいる副ギルド長にお願いして庇ってもらおう。
オレは静かに蜂塚に近付く。
ーでかいな。
オレの身長とほぼ同じだ。
観察してみると上部に穴が空いている。
ここが出入り口なのだろう。
巣の中の構造は不明だが、中にみっちり妖精もどきが詰まっているとこを想像するとかなり気持ち悪いな。
ーふむ。
オレは周囲から枯れ枝や枯れ草、樹皮などを集めて巣の周囲に積み上げていく。
充分に巣の周囲に可燃物を積み上げて上の穴に切り落とした枝を無理矢理突っ込んで蓋をする。
枝を突っ込んだ時に気付いたがかなりの強度がある巣のようだ。
枝を無理矢理突っ込んだ時の衝撃で中の妖精もどきも目を覚ましたみたいだ。
蓋代わりの枝がごそごそ動いているが深く突っ込んでいるので抜ける事は無いだろう。
オレは懐から野外活動で使うライターを取り出す。
マスターからすりこぎで火を起こす方法も習っているが便利な道具が使える内は使わないとね。
カチカチッ
積み上げた枯れ草などに火を付ける。
小さかった火が徐々に広がっていく。
ー蜂退治にはやっぱり火だよね。
延焼しないように気をつけて大きめの枝も火にくべていく。
まるでキャンプファイヤーのようになった炎が巣を焦がしていく。
ーう~ん、どれぐらい焼けばいいのかな?
中が多層構造になっていると仮定するとかなり長時間焼かないと熱は伝わらないだろう。
・・・この方法は失敗だったか?
時間が無いのにこの方法だと時間がかかるな。
単純に蜂退治には火だと考えたが巣を壊して内部の妖精もどきを倒した方が良かったのかもしれない。
でも、そうやって妖精もどきに逃げられると問題だしなぁ。
調子に乗って枝をがんがん追加したので炎はかなり大きく燃えている。
ーこれは怒られる事を覚悟しないといけないな。
ちょっと暗い気分でオレは燃え上がる巣を見つめた。
「なにをしてるの!」
オレは妖精もどきの巣のすぐ傍で優子さんに怒られている。
あの後、町を囲んでいた変異体の群れがほぼ全滅しているのを確認したマスターたちが森の中の炎を見つけてやって来たのだ。
しかも、優子さんと香織さんを連れて・・・
いや、やって来るのは当然だし覚悟もしてたんだけど、もうちょっと心の準備をする時間が欲しかったなぁ。
「何時間ぐらい燃やしてるの?」
マスターの質問に答える。
「ざっと2時間ぐらい」
巣の外壁は炎で黒く変色している。
「念の為、もうちょっと燃やした方がいいわね」
マスターが指示を出しみんなで枝を投入する。
「これが妖精もどきの巣なの?」
「あぁ、間違い無い」
復活した玲子が興味深そうに巣を見つめている。
うむ、昨夜の事は忘れてくれるようだな。
さすが、玲子。いい奴だ。
「あたしたちはこのまま巣を監視するから真人ちゃんは傷の手当てをしてきなさい」
「ん?大丈夫だよ」
鎧のおかげでそれほど深い傷は負わなかった。
代わりに鎧はぼろぼろになってしまったけどね。
「いいから行きなさい」
「いえいえ、お気遣い無く」
絶対、オレはここから離れないぞ。
「真人、行くわよ」
優子さんがオレの手を引く。
「・・・はい」
優子さんに手を引かれオレはとぼとぼと歩き出す。
「わたしの分も怒っといて下さい!」
「任せておいて!」
香織さんの言葉に優子さんがガッツポーズで答える。
「もう!こんな無茶して!」
戦場跡を歩きながら優子さんがオレの腕をつねる。
林だった戦場は木々がなぎ倒されちょっとした広場になっている。
広場には様々な変異体の死体やその破片が散らばっている。
ーう~ん、我ながらよく暴れたもんだ。
自分でも感心してしまう。
ここの死体は後でマスターたちにお願いして出来るだけ回収してもらおう。
今までオレたちが倒した事の無い変異体も多いし、中には有効活用出来そうな変異体もいた。
変異体を活用する事に関してはこれまであまり考えてこなかった。
変異体と呼んでいるがあくまであれはウイルスで変異した元・人間だ。
ゴブリンやトロールは小型化や大型化した元・人間だと思うが、妖精もどきは元・人間とは考えにくい。
人間はいくらなんでも、あそこまで変異しないと思う。
という事はウイルスが人間以外にも感染しているって事だ。
これまで人間以外に感染しなかったウイルスが変異しているんじゃないだろうか?
専門的な知識の無いオレでは確実な判断は出来ないが、そんな感じがする。
ーまだまだ、世界は変わり続けるようだ。
広場に飛び散った変異体たちの死体を見ながらオレはそう思った。
支部に着いたオレは優子さんの手で鎧を乱暴に剥ぎ取られ椅子に座らされた。
そのまま、優子さんはオレの傷を調べ手当てしてくれている。
優子さんは傷を調べる間も手当てする時もずっと無言のままだ。
「あの、優子さん?」
「知りません」
う~ん、これはかなり怒っているな。
幸い、オレの傷は大した事は無かった。
変異体に噛みつかれた腕が肉を少し持っていかれているだけだ。
もちろん、卵なんかは産み付けられていない。
手当てを終えた優子さんがオレの正面の椅子に座る。
・・・
怖い顔で優子さんがオレの目をじっと見ている。
「・・・反省はしてる」
「反省だけ?」
優子さんがオレを睨む。
「なんて説明していいのか分かんないけど、優子さんと香織さんのおかげでオレのこことここは満足してる」
オレは自分の胸と股間を指差す。
それを見て優子さんに顔が少し赤くなる。
昨夜の事を思い出したのだろう。
「でも、ここが満足してないのはオレにとっても周りにとっても危険だと思う」
オレはぐっと握った拳を優子さんに見せる。
「・・・どういう事?」
「こうもぞもぞするんだよね」
握った拳を軽く掻く。
オレの心の奥底には血に餓えた狂暴な魂がある。
それが変異する以前からあったのか、変異して現れたのかは不明だが、それを押さえ付けるのは不可能だとオレは感じている。
押さえ付ければいずれ心を破ってその狂暴な魂は暴走するだろう。
「戦う事が好きって事?」
理解するのが難しいのか優子さんが首を傾げる。
優子さんの言葉に頷く。
そうなんだ。
オレは戦う事が好きなのだ。
「はぁ」
優子さんが大きくため息をつく。
・・・嫌われたかな?
どきどきというより、びくびくしながら優子さんの次の言葉を待つ。
優子さんが静かに椅子から立ち上がった。
「こんなどうしようも無い人をこんなに愛しちゃう私ってダメな女」
そう言って優子さんはオレの頭をその胸にぎゅっと抱え込んだ。
オレはほっとしながらその暖かな感触に身を委ねた。
○抱き締められたオレはそっと優子さんの腰に手を廻す。
「ありがとう」
どうしようもないオトコでごめんね。
「いいの」
優子さんがゆっくりオレの頭を撫でてくれる。
優子さんの胸の谷間に顔を埋うずめたオレは腰に廻した手で優子さんの背中を撫でる。
お返しだ。
いい妻を貰って幸せだな、オレは。
次回はお昼ごろに投稿予定です。




