交流編3
○うん、うん。
あの二人ならお似合いだな!
「どうしたんですか?」
無事、依頼を終えて戻ってきた香織さんがにやにやするオレを見て、不思議そうな顔をする。
うむ。奥手なさとるさんとのんびり屋さんのさくやさんの幸せの為に、ここは香織さんにも協力してもらうべきだろう!いや、この際、ギルド全員で応援すべきだな!
オレが香織さんに説明しようとすると
「だめです!やめてください~」
後ろからさくやさんに口を塞がれた。
え~?なんで?
ズルズルさくやさんに引っ張っていかれる。
さくやさん、力強いねぇ。
「香織さんやみんなにも協力してもらおうよ」
「だめです!そっとしといてくださいよぉ」
「え~、そんなつまんない」
「つまんない?それ、どういう意味ですぅ?」
え~っと、さくやさん、半目でにらむのやめて。
オレとさくやさんは食堂の隅でこそこそ話し合う。
「まだ、自分の気持ちもはっきりしてないんですから協力は早いですよ~」
「こういうのは勢いが大事だよ」
「勢いでお付き合いするなんて無理です。無理です!」
さくやさんがぶんぶん首を振る。合わせて尻尾ものたうってる。
「でも、さとるさん人気あるから急いだ方がいいと思うよ」
「やっぱり、人気なんですかぁ?」
さとるさんは頭が良く、優しい。
外見も慣れてしまえばかっこいいと感じるのではないだろうか?
オレがうなずくとさくやさんは大きくため息をつく。
「・・・でも、私はこんな身体ですし」
「いや、それは関係無いと思うよ。ワタシは」
「そう、そう。むしろ、さとるさんなら喜ぶと思うな」
「でも、好奇心だけでお付き合いするのってどうなんでしょうか?」
「好奇心だけなら問題だが、好奇心プラス愛情なら問題は無いね」
「ってか、さとるさんが愛情だけで付き合うのってオレ、想像できない」
「あ~、なんとなく分かりますね。それ」
「確かに好奇心も愛情もあってこそ、さとるさんには相応しいね」
オレたちは大きくうなずく。
「・・・あの、どうして香織さんと京子さんまで会話に加わってるんですかぁ?」
おや、いつの間に?
「だって、わたしルームメイトです」
「ワタシはパーティーメンバーだね」
二人とも胸をはって自信満々に宣言する。
うん、納得の理由だね。
「むしろ、真人さんはなぜ、この問題に関わっているのかね?」
「ん?オレはさくやさんの第一発見者だよ」
二人とも納得したのだろう。大きくうなずいてくれる。
「そもそも、こんな面白そうな事を秘密にするなんてけしからん」
「・・・面白そう?」
「いや、え~と、せっかくの娯楽、いや、心の潤い、そう!真実の愛は周囲の心を明るく豊かにしてくれるはずだ」
本音がだだ漏れになりかけた京子さんが慌てて軌道修正する。
「真実の愛。いいですね~」
香織さんが顔を赤く染めて、ほうと熱い息をつく。
「あの、まだそこまでの話しではないんですぅ」
さくやさんがなにか言ってるが、だれも聞いてない。
「こんな大事な事をオレたちだけで話し合う訳にはいかないね」
「そうですね。わたしは幹部の皆さんにも協力をお願いします」
「うむ、ワタシはギルドメンバーに協力を要請しよう」
オレたちは笑顔でうなずく。
「うっ、うっ、さっき知られたばかりなのに、広がるとこまで一瞬で広まってしまいそうですぅ~」
さくやさんが床に寝転んでなにか言ってるなぁ。
お腹、冷やすよ~。
そっとさとるさんを見てみるが、我関せずといった感じで黙々と食事してる。
うん、でも、あれは相当動揺してるな。横からゴンがデザートをつまみ食いしてるのに気づいてない。
大丈夫だよ。さとるさん、オレたちに任せてくれ。
きっと、成功させるから!
なにをもって成功とするのかは分からないけどね!
オレたちはさとるさんに笑顔でサムズアップする。
「た、大変です!」
食堂にカトリーヌが転がり込んできた。
・・・タイミングを計ってた訳じゃないよね?
「どうしたんです!なにかあったんですか?」
さとるさんが誰よりも早く反応する。
「そ、それが10人ほどの集団がこっちに向かって来ています!」
10人ほどの集団?
「集落の人たちではないのですか?」
「エリーお姉さまは違うと言ってます。見たことのない人たちだと」
ちょっと動揺して加藤さんが混じってるカトリーヌから、詳しく話を聞いてみると訓練中に遠くを移動する集団を発見したそうだ。
最初は集落の人たちかと思ったがマスターが確認してみるとどの人も見覚えのない顔だった。
「現在、お姉さまが警戒しています。さとるお兄様と真人お兄様を呼んでこいと言われてます」
いや、オレよりカトリーヌの方が年上なのだよ。
さとるお兄様はともかく、オレはおかしくないかい?
親愛の表現なのかな?
「と、とりあえず、二人とも来てください!」
カトリーヌに先導され、オレとさとるさんはマスターの元に向かう。
ギルドメンバーにはとりあえず武装して警戒するようにお願いした。
「あれよ」
基地近くの林に身を潜めるマスターが集団を指差す。
確かに見覚えのない集団が基地に向かっている。
「あれは・・・」
さとるさんが集団に注目する。
「さとるちゃん、知ってるの?」
「えぇ、彼らは例の大集落の人間です」
あぁ、さとるさんを化け物呼ばわりした集落か。
「どうして、こんなところに?」
なんの用だろう?
こちらを攻めてくるには人数が少ないし、大した武器も持ってないようだ。
それになんかよれよれになってる。
「とにかく、事情を聞いてみましょう」
さとるさんの提案にオレとマスターは、しばらく目を合わせてうなずく。
危険があっても10人程度なら基地に侵入される前に、全員殺せると判断したのだ。
基地には美咲ちゃんやさくやさん、ゴンなど戦闘力に乏しいメンバーもいる。
彼らがもし危険だと判断したら即座に殺そう。
「ギルドになにかご用ですか?」
さとるさんとオレがゆっくり林から基地に向かう彼らの前方に出ていく。
マスターは林の中を移動して彼らを弓で狙っている筈だ。
「・・・お願いがあって参りました」
先頭に立つ青年がさとるさんをじっと見る。
ふ~ん、さとるさんやオレを見ても驚いていないようだ。
これは、オレたちに気づいていたな。
年齢はオレと同じぐらいだろう。
身長はやや低いがすらりとしたイケメンくんだ。
・・・殺してもいいかもな。
「なにか依頼ですか?」
さとるさんが静かに青年に問いかける。
さとるさんも彼がこちらに気づいていた事が分かったようだ。
警戒からさとるさんの重心が少しだけ落ちる。
いつでも襲いかかれる体勢だ。
「いえ、お願いです。聞いてもらえますか?」
さとるさんが警戒してるのは分かっただろうに、青年に動揺は見られない。
いい度胸してるな。
青年の後ろには男女が立っている。
青年を含め男は4人、女性が6人か。
「聞いてもかまいませんが、お願いとやらを了承できるとはお約束出来ませんよ」
「それでも構いません」
青年が話し始める。
彼らはさとるさんが言った通り、例の大集落の住人だった。
「よく、ここが分かりましたね?ここの詳しい場所は言ってなかったのですが?」
「・・・足跡と、その、匂いを追って来ました」
青年がこちらの様子を伺う。
それはいいのだが、後ろにいる女性の一人が気になる。
もちろん、一目惚れとかでは無い。
えらくキツい目でオレを見ているのだ。
初対面だと思うがなんだろう?
気にはなるが、今は青年の話を聞くのが先だろう。
「実はボクたちは、その、化け物なんです」
その言葉を受け青年を再度、観察するが、別段大きな変異は見られない。
ほんの少し耳の先が尖っているぐらいで、普通の人間に見える。
後ろの同行者にも大きな変異は見えない。
別に目が4つあるとか長い尾が生えてるとかはしていない。背中からトゲが生えてもいないようだ。
「ごく普通に見えますが?」
うん、見てて面白い人はいないね。
「それでは見ていてください」
失礼します、そう言って青年は静かに服を脱ぎ始めた。
ガサッ
林の方で物音がする。
・・・マスタ~、動揺しないでよ。
青年と後ろの男たちが服を全て脱ぎ去る。
さすがに女性は脱がないようだ。
・・・別に残念とかは思ってないぞ。
ガサッ、ガササッ。
林の方から、なにか物音がするがオレにはなにも聞こえない。
「少し離れていてください」
青年の言葉にさとるさんが数歩後ろに下がる。
「ふー、ふー、ふー」
青年たちが大きく深呼吸する。
これはあれな感じかな?
「うぉぉおおっ」
青年たちの肉体がもこもこと大きくなり始める。
全身の体毛が濃くなり、伸びていく。
ふ~む、なかなか見応えがあったな。
「・・・どうですか?」
すっかり巨大な熊男、正確には羆男か?になった青年がこちらに尋ねる。
青年の後ろには犬男?狼男かな?に変異した者や雄牛男ミノタウルスに変異した者、そして猪男オークに変異した者が立っている。
「あなたたち全員がライカンスロープなのですか?」
さとるさんが冷静に確認する。
「・・・驚かないのですね」
いや、結構驚いたぞ。
雄牛男ミノタウルスって足が蹄になるんだね。
しかし、それに違和感は感じない。
狼男ウェアウルフはもちろん猪男オークも全体の調和がとれていて違和感や不自然な感じはない。
どちらかといえば羆男が一番つまらないな。
これじゃあ、立ち上がった大きな熊だ。ちょっと手足が本物の羆より長いように感じるがインパクトに欠ける。
「この程度ではギルドメンバーはあまり驚かないと思いますよ」
先ほどから、ガサガサうるさかった林の方も今ではすっかり静かだ。
獣化したら興味を失ったな。なんか間違った反応のような気がする。
「あなたたちがライカンスロープだという事は分かりました。それでお願いというのは?」
さとるさんが敢えて質問する。
彼らの目的はだいたい想像出来るが、彼ら自身の口からはっきり言わせたいようだ。
「ボクたちをギルドに入れてください」
羆男が頭を下げる。後ろの者たちも頭を下げる。
やっぱりか。
「僕の一存では決められません」
「お願いします。ボクたちはもうあそこには耐えられないんです」
羆男がますます頭を下げる。
「あそこではなにが行われているんです?」
「・・・分かりません」
青年が語るにはあそこにも大きな変異をした住民は住んでいたそうだ。
しかし、大きな変異をした住民はいつの間にか姿を消してしまう。
「他の人に聞いても分からないんです。みんな、夜中に姿を消したり狩りに行ったまま帰ってこなくなったりして」
「どこか、他の集落に移住した可能性はありませんか?」
さとるさんが聞くと後ろで黙っていた一人の女性が叫んだ。
「そんな事ない!」
姿を消した住民の一人は彼女の恋人さんだったそうだ。
それが彼女の何も告げずにある日、突然姿を消した・・・
青年たちは怖くなってお互いをカバーしながら生活していたそうだ。
「ボクたちは獣化しなくても匂いや気配でお互いが同族だと分かったので協力していたんですが・・・」
青年たちは獣化しない限り、見た目は普通の人間だ。
それで他の住民にはライカンスロープだとバレずに生活していけた。
しかし、次々と変異者が消えていく。
いずれは自分たちもライカンスロープ、化け物だとバレてしまう。
そうなったらどうなるのか?
そんな不安な生活の中でさとるさんや優子さんがやって来た。
さとるさんはあの集落の基準でいえば、完全な化け物だ。
それが普通の人に近い優子さんと協力している。
それに彼らは一縷の望みを賭けたのだ。
青年たちはさとるさんたちのうわさを集め、オレたちがギルドという組織である事を知る。
「それで匂いと足跡を追ってここまで来たんです」
あぁ、狼男ウェアウルフがいるし、たしか羆もかなり鼻の効く動物だったな。
「事情は分かりましたが、やはり、僕の一存では決められません」
さとるさんの言葉に青年たち全員、いや、あのキツい目の女性以外ががっくりと肩を落とす。
「あなたたちを受け入れるかどうかギルドで話し合ってみましょう」
続くさとるさんの言葉に顔を上げる。
「どうか、お願いします」
羆男たちが深く頭を下げる。
彼らは受け入れが決定するまではここら辺で野営してもらう事になった。
「食事とテントはこちらで用意します。出来るだけ早く決定しますのでしばらく待っていてください」
「なにからなにまでありがとうございます」
青年たちはすでに獣化を解いて人間に戻っている。
ふむ、ここで野営するのか。
「マスター!オレの飯もこっちに持ってきて~!」
林の方に大きな声でお願いする。
獣化を解く時もガサガサしたから、もうバレバレだし構わないだろう。
「真人くんもこちらで野営するのですか?」
「彼らに何かあったら気分悪いしね」
それに彼らを監視する者が必要だろう。
「・・・分かりました。真人くんの食事とテントもこちらに運ばせます」
さとるさんにもオレの考えが分かったのだろう。
すんなり認めてくれた。
「マスターに飯は大盛りでって言っといて」
あえて、マスターの部分を強調する。
「・・・えぇ、分かりました」
それではと一礼してさとるさんが基地に戻っていく。
「お気遣いありがとうございます」
羆の青年が頭を下げる。
う~ん、いい人っぽい。
受け入れてもいいんじゃないかな?
決めるのは、約一名と話をしてからだけどね。
横目でチラリとあの女を確認する。
やはりオレを見ている。
う~ん、ライカンスロープか。
となるとあいつの知り合いだろうなぁ。
彼女ではないだろうから、妹とかかな?
まぁ、後でゆっくり話してみるか。
それがここに残った最大の目的だしね。




