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崩壊した世界でみんなで楽しく生きていく〜サバイバル〜  作者: 伊右衛門


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閑話5

☆僕は午後の暖かな光の中、基地の敷地内を一人歩いている。


今日は僕の休日だ。

もっとも、午前中は会議室に籠り仕事を続けていた。

今後のギルドの事。

新しく見つかった集落との関係。

増加した住人の事。

これからくる冬の事。

春になれば戻ってくる住人の受け入れ先の準備。

田中さん出身の島との交易はどうするのか?

そして、変異者を化け物と呼ぶあの集落への対応。

これから僕たち変異者はどのように生きていくのか?

人類と対立するのか?融和するのか?

等々、考えなくてはいけない事柄は多い。


その為、午前中はギルドのメンバーたちと様々な事を話し合っていた。

しかし、今日が休日であった事を僕以上に覚えていた美咲ちゃんにやんわりと注意されてしまった。

「自分で決めた休日のルールは守ってもらわないと困ります」

まったくの正論なので、こうして午後は休む事にした。

ある程度、休んだ方が脳が活性化していい考えが浮かぶかもしれない。

以前、真人くんが休日になにをしていいのか分からなくて時間を持て余すとこぼしていたのを思い出す。

確かに時間を持て余すな。

電気が復活すれば暇潰しが出来るかもしれないが、まだ電気は復活していない。

あの白いドラゴニュートとの問題が発生した為になかなか人員を割けずにいるのだ。

なんとか、本格的な冬がくる前に復活したいのだが、まだまだ人手が足りない。

元自警団であった人々がギルドに入団してくれたが、今はまだ訓練中なので依頼を任せる訳にはいかない。

訓練が途中のままで依頼に出ると彼ら自身も危険だし、依頼にあまり失敗するとギルドに対する信用を失う事にもなりかねない。

我々、ギルドは変異者の保護という目的もある。その為には、人々の信頼は重要だ。

今後の事を考えると彼ら元自警団、仮称ニュータイプ部隊にはぜひ、がんばってもらいたい。

ふと、視線をあげると向こうの方で真人くんと先程まで考えていたニュータイプ部隊が訓練をしている。

あぁ、そういえば真人くんも今日は休みだったな。

もっとも、彼の愛する恋人二人は今日は仕事の筈だ。

それで暇を持て余した真人くんが訓練に付き合っているのだろう。


「んじゃ、腕立て伏せ100回、3セットね」

「いや~ん、ムキムキになっちゃう」

真人くんの言葉にニュータイプ部隊が悲鳴をあげる。

「あのね、いざという時に頼りになるのは自分の頭と体だよ。頭を鍛えるのは難しいから体を鍛えるのはがんばってた方がいいよ」

真人くんの言葉にニュータイプ部隊も表情を引き締める。

「んじゃ、納得したらはじめよっか。い~ち」

あっ、真人くんも一緒にするんだね。

なんのかんのいっても真人くんは付き合いがいい。

・・・ひょっとして暇潰しなのかもしれないが。

僕が見ている事に真人くんが気づく。

邪魔をするつもりはなかったのだが、真人くんはあっさり腕立て伏せ100回、3セットをクリアしてこちらにやって来る。

「さとるさんもお休みですか?」

「えぇ、真人くんもお休みでしょう。訓練に参加していいんですか?」

「いえ、訓練に参加してるんじゃなくて、これはただの自己鍛練です」

どうみても、訓練に参加してるように見えるのだが・・・

「あの獅子男や白いヤツなんてのが他にもいるかもしれませんからね」

「なるほど。それで自己鍛練ですか」

白いドラゴニュートはともかく獅子のライカンスロープはかなりの強敵だった。

「ふむ、僕も参加していいですか?」

時間を持て余していたところなので、鍛練するのもいいだろう。運動も脳を活性化するのには有効だ。


そのあと、1時間ほど訓練に参加させてもらった。

真人くんは誰よりもキツいメニューを淡々とこなしていった。

僕はニュータイプ部隊と同じメニューをこなすが少しキツい。

最近、ちょっと運動不足だな。


「んじゃ、30分休憩してマスターのとこで弓の訓練ね」

「はいっ!ありがとうございました」

ニュータイプ部隊は真人くんに一礼して走っていく。

「うまくやってるみたいですね」

「どうなんですかね?みんな思った以上にがんばってくれてますけどね」

もう少し自己鍛練を続ける真人くんと別れ、散歩に戻る。

これ以上は僕には逆効果になるだろう。


そのまま、歩き続け基地の一番端にたどり着く。

そこでは一人の女性がとぐろを巻いていた。

彼女を見る度に心が踊る。

恒温動物と変温動物のハイブリッド。

現代の奇跡だ。

お邪魔をしないよう静かにしていたのだが、彼女の方がこちらに気が付いた。

「あっ!さとるさん、こんにちわ~」

「こんにちは。こんなところでなにをなさってるんですか?」

さくやさんが手としっぽを振って歓迎してくれる。

「日向ぼっこ兼パネル用地の選定で~す」

「パネルは屋上に設置するんではないんですか?」

なんとなくだが、ソーラーパネルは屋上に設置しているイメージがある。

「屋上だと設置が大変ですし、手入れの事を考えるとここの方が良さそうですね~」

なるほど。そうなのか。

僕は電気関係に関しては、ほとんど知識が無い。

パソコンを扱ったりは出来るが、発電や送電などに関しては素人に過ぎない。

真人くんは本当にいい人を見つけてきてくれた。

このギルドは本当に人材に恵まれている。

さくやさんと初めて見た時の事を思い出すと思わず自己嫌悪に陥ってしまいそうになるのだが。

真人くんに連れられた彼女を初めて見た時は我が目を疑った。

自分や真人くんのように全身が変異した者は理解できる。

しかし、彼女はほぼ下半身のみが変異しているのだ。

上半身も一部変異しているのだが、どうして下半身のみがこれほど大きく変異したのか?

上半身と下半身でなぜ変異の度合いが違うのか?

しかも、上半身はヒト、下半身はヘビ。

完全に種族が違う。それがどうして融合しているのか?

生命維持にまったく支障を来さないレベルでの完全な融合がどのように成されたのか?

好奇心を刺激された僕は思わず彼女を私室に連れ込もうとしたのだ。

真人くんたちが裏で実験室と読んでいる私室に・・・

ちゃんと、知っていますからね。うふふ。


真人くんたちが慌てて止めてくれたので事なきを得たが確かに誤解を招く行為だった。

反省しなくては。

ただでさえ僕は真人くんからマッド系とのあらぬ()()を受けている。

知的好奇心が理性を凌駕する事が極々稀にあるだけだ。

決して理性を失っている訳ではない。

それはマッド系とは言わないだろう。マッドとは理性を失った状態である筈なのだから。


「そういえば先程は僕によく気づきましたね?」

さくやさんはかなりおっとりした女性のように感じている。

それなのに、少し離れた背後で気配を消していた僕にすぐに気が付いたようだった。

「あぁ、匂いみたいな感覚で分かるんですよ~」

さくやさんが胸を張る。

ふむ、匂いみたいな感覚?

「匂いではないんですか?」

「ん~?口では説明しにくいですけどさとるさんからは頭のいい匂いがしますよ~」

頭のいい匂い?

「頭からいい匂いがするのではなく知的な感覚という事ですか?」

さくやさんにいろいろ質問させてもらう。


どうやら彼女は空気中の匂いの分子を鼻以外でも感じているようだ。

ヒトでは失われた鋤鼻器が機能しているのだろうか?

そういえば真人くんも匂いに対して敏感になっているようだった。

鋤鼻器の最大の役割はフェロモンを感じる事なので彼女のような変異者には一種の発情期があるのかもしれない。

ふむ、これまで妊娠率が低下している事が気になっていたが発情期か。

もしかすると変異者には一定の発情期が存在するのかもしれない。

もしそうならばこれまで変異者での妊娠が出にくかった事も分かる。


「これまで匂いを感じて体が熱くなったり、心臓がどきどきするような事はありましたか?」

「ん~?匂いで体が熱くなったりはしませんでしたね~」

ふむ、まだ発情期は訪れていないようだ。まぁ、これから冬に向かう。冬に繁殖期を迎える生物は珍しいだろう。

となると、さくやさんの発情期は春先か?その頃には少し注意してみよう。

発情期になれば生殖行為の優先順位が高まる筈だ。

いや、この場合生殖というより聖職か。

子孫を産み種の存続を図るのは尊い行為だろう。


・・・ひょっとして、僕にも発情期があるんだろうか?

春先に少し女性たちが気になった事があった。

それは真人くんが現在のギルドメンバーを連れてきた頃だ。

あの時は彼女たちが心配なのでそう思ったと考えていたが、もしかすると発情期だったのかもしれないな。

現在、妊娠が確認されている女性は逆算すると春の終わりか夏の始め頃に妊娠した事になる。

春の終わりに妊娠して次の春に子供を生む。春には食料も豊かになり、子育てもしやすいだろう。

そう考えると変異者にはある程度妊娠しやすい時期が存在するのかもしれない。

発情期というよりヒトの生物としての本能なのかもしれないが。


「あっ、でも、匂いでどきどきというか驚いた事はありますよ~」

匂いで驚く?

「どういった時に驚いたんです?」

さくやさんの説明によると真人くんからはかなり強い匂いがするそうだ。

「匂いとして強いんじゃなくって、強い匂いなんですよ~」

「強い匂いですか?」

「えっと、なんて説明すればいいのか分からないですけど、こう逆らっても無駄っていうか自分より確実に強いって事が匂いで分かるんです〜」

ふ~む。自己防衛本能に基づく感覚なのだろうか?

ひょっとしてあの獅子のライカンスロープが真人くんを気にしていたのはそれにも関係しているのだろうか?

さくやさんにその事を聞いてみると、

「う~ん、そうなのかも知れませんけど、さとるさんやマスターさんからもかなり強い匂いがするんですよ~」

さくやさんは首を傾げながらそう言った。

「僕からもですか?」

獅子のライカンスロープが僕やマスターを捕らえて仲間にしょうとしたのはそれも理由だったのかもしれないな。

もちろん、それだけではなく知識や経験も理由なのだろうが・・・


「そういえば電気復活計画の進行状況はいかがですか?」

実は結構気になっている案件のひとつなのだ。

「う~ん、今週中にはパネルを設置できると思いますから、来週には復活できると思いますよ~」

「素晴らしい。人手をあまり割けず申し訳ありません」

様々な問題が出た為にさくやさんには苦労をかけてしまっている。

「い~え、京子さんたちががんばってくれてるので大助かりですよ~」

そういってもらえるとありがたい。


僕や祖父であるギルド長は冬季になると睡眠時間が増える可能性がある。

変異したばかりの頃は1週間近く眠り続けた程だ。

変異した影響もあったのだろうが寒さも一因だろう。

しかし、電気が復活すれかなり安全にに室内の温度を高める事が出来る。室内で火を使用するのは、やはり躊躇われる。

そうなれば少しは活動時間も増えるだろう。


「え~っ、自分としては冬眠するのを楽しみにしてるんですけど~」

さくやさんはハイブリッドなので冬眠はしないと思うが、どうなのろう?

しかし、冬眠を楽しみとは恐れ入った。

「ずっと微睡んでいるみたいな感じで別に楽しい訳ではないと思いますよ」

僕自身としては考える事が出来なくて、あまり楽しくなかった。


「お~い!ごはんですよ~!」

真人くんがあちらで大きく手を振っている。

いつの間にか暗くなってきている。


すっかり話し込んでしまったようだ。

「では、そろそろ戻りますか?」

「は~い」

僕の隣をさくやさんが滑らかに移動する。

美しい動きだ。


「あ~あ、冬眠出来ないのかぁ~」

「なんの話です?」

真人くんがきょとんとした顔でさくやさんに問いかける。


「いえ、僕たちは寒くなると行動が鈍ってしまうでしょう。その話を少し」

「あぁ、なるほど。さくやさん、冬眠したいんですか?」

「だって、ずっと寝ててもいいんですよ~。最高じゃないですか〜?」

さくやさんに冬眠はちょっと無理なのでは?

「う~ん、なるほど。でも、ごはんはどうします?友美さんが来てくれたからデザート付きですよ?」

友美さんは現在、ギルドメンバーに請われ食堂で働いている。

友美さんが作るスイーツをもっとも楽しみにしてるのは祖父のような気もするが・・・

「う~ん、それは悩みますねぇ~」

さくやさんが腕組みしながら考え込む。

人間のように手を振って歩く訳ではないので腕組みしてもその移動は実に滑らかだ。

真人くんとさくやさんが話しながら歩いていく。


「でも、真人さんのそばなら冬眠せずに済みそうですねぇ~」

さくやさんが隣を歩く真人くんを見上げる。

それは僕も同じ意見だ。

結構、気温が下がっているのに真人くんは上半身裸なのだ。

「これはトレーニングしてたら熱くなって」

真人くんは全身筋肉の固まりのようなので肉体の発熱量が多いのだろう。


ふむ。これまでの事から真人くんの膂力は理解しているがあれでは筋肉に骨が耐えられないのでは無いだろうか?いや、真人くんの体重から考えると骨の構造、そのものも変異している可能性があるか・・・構造が変異しているのか。構成成分が変異しているのか。そうなると筋肉も変異しているかもしれないな。


「でも、すっごい傷ですねぇ~」

真人くんの体はいつの間にか傷だらけになっている。

特に酷いのは背中と胸に刻まれた傷だろう。

獅子のライカンスロープに撃たれた傷だ。

それ以外にも爪で負った傷やドラゴニュートの鱗の破片で負った傷などが全身に広がっている。

「そうですか?さくやさんも指に怪我してるじゃないですか?」

「あははっ、パネルを外す時にちょっと〜」

さくやさんは自分の指を慌てて隠す。

「どれ?少し見せてください」

「きゃっ」

さくやさんの左手の指が淡く紫に変色している。

「ふむ、何かで挟んだんですね」

「は、はい」

さくやさんの指を調べてみるが骨に異常はないようだ。

「あとで打ち身用の膏薬をお出ししますので部屋に取りに来てください」

これならそう大事にはならないだろう。


そう思って顔を上げると赤くなったさくやさんの顔があった。

「・・・風邪ですか?」

「いえっ!大丈夫です!」

さくやさんがぶんぶん首を振る。

「へぇ~、そっか。ふ~ん、そうなんだぁ」

真人くんがにやにやしてうなずいている。

「いえっ!違います!違うんです!いや、違わないかもだけど違うんですぅ!」

さくやさんが隣で慌てている。

「いえ、オレはいいと思います。応援します」

真人くんが笑顔でサムズアップしている。

「いえ、応援はうれしいですけど、まだはっきりした訳じゃないんですからそっとしといてください」

珍しくさくやさんが早口で捲し立てる。

「それじゃ、はっきりしたら全力で応援しますね!」

真人くんはまだ笑顔でサムズアップのままだ。

「いえ、だからはっきりしてないですからぁ」

さくやさんがわたわた真人くんを止めようとしている。

「大丈夫!オレは空気の読める男です!それじゃ!」

何故か真人くんが急に走り出した。

目的地は同じ食堂なので一緒に行った方がいいと思うのだが。


「あぁぁ~っ、なんだか一番、ややこしいヒトに知られてしまったような感じがしますぅ」

さくやさんが隣で悶絶している。

「やはり、風邪ではありませんか?」

「そ、そうですね。あとでお薬、頂けますか?」

顔を赤くしたさくやさんがどことなくひきつった笑顔で答える。


僕とさくやさんは少しゆっくりと静かに食堂に向かう。

この素晴らしいヒトたちを守る為に全力を尽くそう。


食事が終わったら薬を用意しておこう。

それに少し部屋も片付けた方がいいな。



真人くん、こういう時は相手の気持ちがはっきりと固まるのを静かに待つのが空気を読める男だと思いますよ、僕は。





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